ペプトギーベ
ラクダ色の建物の出入り口付近のナンテンの荘厳さは、金色と変化している。
その秘密の庭を仕切る壁にひとつある黒いびょうの打ってある扉。
その小ぶりな扉が開き、そこに壮年の男と上質な衣を着た若い従者がやってきた。
物珍し気に金色のナンテン道を見渡す従者に、スーツを着た壮年の男が言った。
「君には語っておきたい・・・」
そう言って先を行く主人に、従者は着いて行った。
室内の真ん中に、巨大な金色の砂時計。
その中身まで砂金でできているらしかった。
「かつて私が冒険家だった頃、ひょんなことから『ミダスの手』を手に入れた。
そして美しい妻を持ち、可愛らしい娘が生まれ、最高の時を過ごした。
『ミダスの手』・・・触れるものすべてを金に変えてしまう魔法のアイテム。
架空のものだと言われているが、私が試したのは”時間を金に変える”ことだった。
『時は金なり』、その言葉に乗じて最高の時間をミダスの手で買ったのだ。
そしてすべての時間というわけには、いかなかった・・・
制限のある永遠。
その時間をとじこめた、この魔法の砂時計。
その砂時計の最後の一粒が落ち切った時、私の体は灰となって消える。
区切っておいた上層階と低層階の格差もなくなる。
そして私の最愛の娘は、砂が落ちたあと運命の相手に出会うと言われた。
可愛らしい私の娘、ペプトギーベ。
従者よ、娘には父上は苦しそうにはしませんでした、と言っておいてくれ。
そして、魔法は解けてしまう・・・
私を愛した美しい妻は、魔法によって私に恋をした・・・
すまない・・・君にはこれから、色々と世話をかける。
前の従者たちは、あまりにも長い間仕えてもらった・・・
最後の砂が落ちるのを私と共に見るには、あまりにも情が移りすぎた、と・・・
彼らの中に娘の運命の相手がいればいいと、何度思ったのか分からない。
ただ、娘の運命の相手は低層階にいるかもしれないのだ。
だから、別けた。
そして、そのあがきも終焉を迎えた。
砂時計が落ち切ったら、時期は終わり、新たな時間の幕が開く。
周辺の植物にかかったミダスの手の消失時の金色粉魔法も解けるだろう。
灰と化した私をまいて、そして君たちの世代のはじまりだ。
そろそろだな・・・砂が落ち切る・・・」
従者は床に落ちた灰をすくいあげ、出入り口にまいた。
そして視界が一瞬乱れたあと、赤と緑のナンテンの道を鮮やかに見つけた。




