妻と毒
妻の様子が最近おかしい。
夕飯の準備、皿を運んでいる時の鼻歌と身軽な歩き方。
奮発した献立。
今妻は、風呂に入っている。
夕飯の時に、夜の営みの誘いがあった。
最近、夕飯を奮発している時にだけ、そういう誘いがある。
テレビの電源を消す。
急に周りが静かになる。
テーブルの上に、妻の携帯電話が置かれている。
前に浮気を疑って覗こうとしてみたが、ロックがかかっていた。
だから尚更、相手がいるものだと思っている。
妻の携帯電話をいじってみる。
ロックがかかっている。
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ロックが開いた。
メールを確認。
その間に、妻が風呂からあがってきた。
「これ、何?」
「え?」
メールの内容を読んだが、明らかな浮気だ。
妻は焦りだす。
「冗談よっ。名前、名前女の名前でしょう?」
「お前、夜中にこの名前のひととメールしてるよな?」
妻が黙る。
携帯電話をいじる。
「何、削除するのっ?」
「違う。電話する」
「待ってっ。待ってっ」
バスタオルを体に巻いているだけの妻は本域で慌てだした。
相手が電話に出る。
事情を説明。
相手が家に来ることになった。
妻はその間に髪を乾かし、着替え。
電話で話した相手が、家に来た。
何分ぐらいで着くか聞いたら、車で二十分ぐらいだ、と言った。
ちょくちょく家に来ているのかもしれない。
わたしとは似ても似つかない、若い男が家に来た。
単刀直入に妻とそういう関係になったのかを聞いた。
妻はバレないと思ったのか、視線で相手の言葉を制そうとした。
それに気づかなかったのか、男は浮気相手であることを認めた。
「別れる」
「分かったわよ」
妻はすぐに浮気相手を見た。
僕へ向けているふてぶてしい顔が、振り向いた瞬間に笑顔になる。
「僕、このひと引き受けるつもりないです」
「はぁっ?」
「はぁ、って・・・?」
妻は勢いよく立ち上がった。
夜中なのに、浮気相手が来ることが分かって、化粧までしている所が気に入らない。
わなわなと彼女の拳が震えている。
両方に振られたことが許せないらしい。
反省の色は見えない。
「出てくっ」
「ああ」
「は?」
「ああ」
「出てくって、言ってるのよ?」
「ああ、出て行ってくれ」
「なんでっ」
「ここは俺の家だ」
その瞬間妻は携帯電話と財布をさらうように取り、リビングから出て行った。
リビングのドアを開ける時に、妻は振り向いて言った。
「私の荷物はあとで送ってっ」
「どこに行くって言うんだ?」
「友達の所よっ。関係ないでしょっ」
はたして、妻に女友達はいるのだろうか?
そういう話を聞いたことはない。
友達、と表現されたその人物が異性であるかどうか聞く前に、彼女は出て行った。
数秒の、間。
二人きりになった。
妻の浮気相手だった男が立ち上がる。
「そろそろ・・・」
「ああ」
イスを引いて、空間に余裕を作る。
足を移動させ、開く。
妻の浮気相手だった男は、僕の片足に座った。
肩に手を回してくる。
「そろそろいいでしょう?」
「ああ、いいよ。色々ありがとね」
「まさかこんなに時間がかかるなんてね」
僕は口元を上げる。
元、妻の浮気相手は、僕の結婚前からの恋人だ。
彼と僕は口付けを交わした。
「慰謝料、どれぐらい取れるかな?」
「さぁ?」
機嫌がよくなってきた、彼。
彼はもう一度、僕にキスをした。
ドアが開く音。
はっとしてそちらを見る。
「・・・え?」
忘れ物でもあったのか、妻が戻って来ていた。
「は・・・?」
ぽかんとしている妻。
結局妻から慰謝料は取れなかったが、僕は妻と別れるのに成功した。




