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コスモスの木
コスモスの木がはえている親友の家の中庭で、遊んでいる時だった。
二階の欄干の方から、少年の声がした。
「君、誰？」
そう言ったのは親友の兄。
すぐあとに来た兄の方の親友の姿を認めると、親友は恥ずかし気に目を伏した。
合流すると、かぶっていたキャスケットを取られてぎょっとされた。
胸元まである長い髪がさらされた。
「女の子？」
ボーイッシュで当時の一人称が「僕」だった私の、初恋の相手は、親友の兄だった。
それからは四人でつるんで遊ぶようになり、やがて時はたった。
戦士隊に入ったと聞いたのは急なことで、身ごもった親友は動揺に泣いていた。
あとを追いかけるように、私は戦士隊に入った。
久しぶりの再会は、突然だった。
廊下を歩いている時に呼び止められて雑務の手伝いをしようと両手がふさがった。
帽子を、誰かが奪い取った。
驚いて振り向くと、そこには親友の兄。
「髪、切ったのかよ？」
泣きそうになるのを我慢して、やっぱりこのひとが好きなんだと思った。
彼が、戦死した。
はからいで、私が里に一時的に帰り、知らせをすることになった。
子供を産んだ親友と、お腹の子の父親である彼の親友も泣いた。
コスモスの木のある中庭に通してもらって、ひとりでぶらつく。
誰かに呼ばれたような気がして二階を見上げても、そこには誰もいなかった。
妙に、感傷的な自分を叱咤したくなるまで、少し、時間がかかった。
