今日から魔王はじめました
「ヒメ、あんたさんは、今日から魔王やっ」
ハグを促す仕草をされて、スープと焼き魚のお礼に少し受け入れる。
案外と短いハグに、これくらいでいいのか、と思ってしまう。
「あの・・・魔王って、なに?ここって本当は、どこ?」
「魔法領国。森の拓けたところや」
「森の、名前とか・・・分かりますか?」
「地図あるねんけど、文字読めへん。「ここらへん」って丸印されてるから、いる」
地図を見て、唖然・・・知らない場所だ。
「君は、出身はどこらへんなの?」
「知らへん。魔王に仕える者として兵士畑から栽培されたんじゃい」
「ん?うん、え、うん・・・なんかごめん」
「今まで在位してなくて、ってことっ?」
「え、なんでっ?」
「ヒメ・・・ヒメ~~~っ」
忠誠のポーズらしきものをされて、その数秒後、後頭部がぱりぱりと痛くなった。
視界が変わって、その男の額に独特な印を見つけた。
「個別識別名、リリ。今は男性型をとっていますが、女人への変化もできますんで。
額印が証。我、魔王の王妃になる者也・・・ヒメ、わしが守ったるきに・・・」
これが王妃とのなれそめの一部。
書き出す分、多分嘘みたいな話だと思う。
異世界へトリップして、いきなり運命の相手とかけおち状態。
リリが男の体から女性に変化するまでの期間の旅は、ここでははしょっておこう。
正直、えげつない。
私が、だ。
色んな思いをしたような気がするが、記憶が遠かったり近すぎたりする。
ここの魔王とは、界隈の魔法使いを束ねているいわば「魔法使い王」。
歴史上なにかがあって、簡略化され『魔王』と呼ばれてるらしい。
せめて両親に宛ててみようか。
小さな中華料理店を営む別世界の両親へ向けて。
本日、即位。
今日から、魔王はじめました。
【 記述:魔王ヒメ 】




