表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/74

床入り


 髪を梳きながら、姉やが言い含めた。


「三つ指をつき、『この日をまちわびておりました』・・・そう言ってから、頭を下げる、いいですね?三つ指をつき、『この日をまちわびておりました』です。『今日という日を』でもいいかもしれませんね」


 大きなため息を吐いて、物思いにふける。


 十二歳で、嫁にいくことになった。

 相手は十七歳で、良家の一人息子。


 家のための結婚、ということになるが、お相手がどのようなお人なのかを思うと、胸が苦しくなったり、食がのどを通らなくなったり、溜息ばかりが出てきたりするようになった。


 お相手に会いたいような会いたくないような気分のまま、嫁ぐことになった。


 そして、床入りの晩。



 静かな夜で、虫が鳴いていた。


 寝所にて私は座っていて、廊下を歩いてくる足音を聞いて居ずまいを直した。


 緊張している。


 髪を梳きながら姉やが言い含めたことを何度か呟いてみる。


 

 寝所に入ってきて、目の前にどかりと座った男は「よう」と言った。



 三つ指をつく。


「あ、あのあのあのあのっ・・・『この日をお待ちわびて申しましたっ』」


 勢いをつけて頭を下げる。


「ん?」


 数秒、会話が途切れた。


 耳と顔が真っ赤になっていくのが分かる。


 心の中で、「まーちーがーえーたーっ」と叫んだあと、顔が上げられない。


「はははははははははっ。いいから、顔をあげよっ」


 恐る恐る顔を上げると、そこには額を片手でおおい、くつくつと笑っている男が見える。


「はぁ~・・・すまぬすまぬ。緊張しているのだな?」


 そう言って、男がこちらに手を伸ばしてきた。


 びくりと身体が硬直し、身を少し引いてしまう。


 男は頭を撫でて、顔をずずいと寄せてきた。


「安心しろ。今晩はなんもせんから」


「は?」


 そしてそう言ったか否かの間で、男は私の唇を吸った。


 どん、と突き飛ばすように離れる。


「いまっ、何もしないって言ったのにっ?」


 男は口元を上げた。


「そういうことは、だ」




 これからが心配よ・・・


 そんな風に思っていたが、男はその晩、本当にそうゆうことはせずに、一晩中、自分のことを語ってくれたし、私に自分のことを語る機会をくれた。


 これから色々とありそうだけれど、


 このひととなら、


 これから、を


 共に歩んでいきたいかもしれない・・・


 そう思った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ