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鱗姫:うろこひめ


 

 姫の体に、鱗ができたことを知らされたのは


 私が匙になってからまだ歴のない頃だった。



 転んでひざから出血するだけで不吉なことであると診断されるが、


 天の意はなにゆえと


 ただそれだけで問いすぎたのかと


 頭を抱える他の匙たちをよそに、


 姫の首回りや二の腕にはえてきた鱗を診て、


 息を呑むほどに内心美しいと思った。



 元々が天武の才が姿をなしたのではないかと謳われるような才女である愛らしい姫の、


 御足に鱗がはえてくる頃、


 姫はあだ名を「鱗姫」とされた。



 嫁に欲しいという要望がちらほらあったが、


 誰ぞの「人魚か魚人が生まれるやもしれぬ」という噂に、


「食べてしまえばいい」などと求婚者からの野次に


 姫が寝伏せり、問題となった。



 匙として姫が幼少の頃より仕えていた勘で、


 触診の折り、匙として発言した。



「このまま進行しますと、生まれるのはそのまま魚です」


「・・・は?」



 驚きに目を見開いた姫の両眼から、涙と鱗のようなものが落ちた。


 

 その刹那、全身の鱗がいっせいにはがれ落ち、床に柄を作った。



 姫が、意外なことが今までなかった、とつぶやき、


 しばらく様子をみた匙たちが、


 運命が変わったようです、と診断した。



 匙をやめることになるのかと覚悟して余生を思案したが、


 姫の鱗の成分を調べるための姫の話し相手に任命された。



 どうやら姫は生来仰天したことがなかったが、


 感動により分泌力が著しく向上し、


 涙を流したさい、目をこすったから網膜がはがれたようだ。



 全身の鱗がいっせいにはがれたのも、感動によるものが由来だと思われる。



 姫の体質は、我々にとっても課題だったのやもしれぬ。



 のちの世に、目から鱗が落ちる、という言葉を、姫の合意で


 日誌に残しておこうかと思い至った。

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