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華鬼:はなおに
「人魚が見たいわ」
若いが、もう長くはないと告知された病床の可憐な女が言った。
兄やである美しい男が、探して来ます、と言って、芍薬の花を持って来た。
「あら、お花?」
「これは人魚の鱗でできた花」
「まぁ、どういうこと?」
「私はムゲンという力を使って、自然とはがれた鱗を人魚からわけてもらい、
それを花にして見舞いに来た華鬼です。兄やの姿を借りています」
「ありがとう、華鬼さん」
「鱗花だけですいません」
「兄や、気持ちが嬉しいわ」
少女は涙を流し、おもむろにまぶたを閉じると、間もなく息を引き取った。
様子を見ていた彼女のきょうだいが、「鬼が出た」と叫びだす。
周りの者は、なにがどうなっているんだ、と不審がるばかり。
「ムゲンという力を使いました」
「それはなんだ?」
「ゆめまぼろし、と書いてムゲン」
兄やは奉公先から出されたが、のちに物書きとして出世し、
その称号を【 華鬼 】とたまわった。




