1/74
うちの黒執事
うちの執事は黒が好き。
お嬢様こと、私はピンクが好き。
「いつあなたと結婚できるの?」
「どうなんでしょうね」
「また今日もからかっているの?」
「はい、お嬢様。そうであります」
そう言って嬉しそうにする、まだ若い遠縁にあたる執事は微笑する。
それがまるで、日課だった。
とある日。
黒とピンクの薔薇の花束を彼に贈った。
「昨日、パパからあなたとの結婚のお許しが出たの・・・
祝福してくれるって。
なのにパパもあなたも、先に旅立ってしまったわ。
もう、私をからかってくれるひとは・・・いないかもしれないのね」
棺の中の執事に、私はキスをする。
「キスって、もっと熱っぽいんだと思ってた」
涙をぬぐう。
「案外と平気よ。家のために、しっかりしなきゃね?」
《はい、お嬢様。そうであります》
どうやら、空耳が聞こえたらしい。
次に執事の顔を見た時、少しほほえんでいるような気がした。