第8話 予想外
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
まさか、こんな日が来るなんて。
「──おい!しっかりしろ!メリル!しっかりしろ!」
「私が運ぶ!とにかく今は目の前の敵を!」
赤髪の【魔導士】メリルは頭から血を流して地面にぐったりしている。栗色髪の【重騎士】ハーヴィーは彼女を抱き上げて岩陰に隠れる。数少ないハイポーションをメリルの頭からかける。
彼らの周りには『ブルーオーガ』の群れ。単体ではCランク級の魔物だが、群れをなせばその危険度はAにまでなるだろう。だがブルーオーガはそもそも群れを作る習性なんてない。集団行動を嫌う魔物のはずだ。
「ヴゴォォォォォ!!」
目の前には一際大きなブルーオーガ。恐らくこいつが群れの頭なのだろう。両手に大きな大剣を握っている。
「……なんでオーガが武器なんて持ってる」
オーガは身体能力は高いものの知能は低い。肉弾戦を得意としており、武器を使う知恵も知識もないはずだ。しかもそれほど大きな大剣をどこから調達したのかという疑問も残る。
まさに鬼に金棒といったところか。これは骨が折れそうだ。
リーダーの雄叫びに呼応するかのようにさらにブルーオーガが続々と集まってきた。まさか周りにこんなに潜んでいたなんて。なぜ索敵に引っかからなかったのか。
「……ちっ」
メリルはまだ目を覚ましていない。朝から心ここにあらずという感じだった。まだ戦闘に集中できないくらいこの前のことを引きずっているのだろうか。
だとしたらまずい。魔法師において最も大切なのは精神。精神が安定していないと魔法を行使することすらできない。
「……どうするか」
広範囲攻撃は魔法師であるメリルの専売特許。だが先ほど突如現れたブルーオーガに奇襲されて負傷してしまった。しばらくは目を覚まさないだろう。
メリルにはハーヴィーが付いているから襲われる心配はないとして、俺がすべきなのはなるべく迅速にこいつらを屠ることだ。ハーヴィーなら負傷者一人抱えながらオーガの群れから身を守ることは容易いはず。しかし、長期戦に持ち込むのは得策ではない。
つまり俺一人のこの大剣一つで、数十のオーガを殺さなくてはいけない。
「アモン!一斉にくるぞ!」
ハーヴィーの言葉通りリーダーである一際大きなオーガを除いて一斉に俺に走ってくる。
白銀の両手剣をしかと握る。
俺はSランク冒険者パーティ『自由の剣』のリーダー。こんな危機いくらでも乗り越えてきた。たった一人でも強大な敵に挑むからこそ『冒険』なのだ。
「舐めるなよ、オーガごときが!」
殺意を込めた目線をオーガに向ける。
数秒後には辺り一帯は血で染まった。
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「依頼失敗!?どうしてそうなる!?」
ハーヴィーの怒声がギルド内に響き渡る。冒険者達の視線が一気にこちらに集まる。
「落ち着け、ハーヴィー。どういうことだ、サヤ」
未だ不機嫌そうな顔を見せるサヤに静かに問いかける。ハーヴィーは怒ったら手をつけられないので、後ろに追いやって俺だけがサヤの前に立つ。
サヤはちらりと手元の依頼書を見る。ゆっくり俺の前に依頼書を出して、下の方を指差す。
「……依頼はブルーオーガ三体の討伐。討伐証拠としてブルーオーガの魔石を提出すること、とあります」
じろりとサヤは俺を睨む。
「……倒したというなら魔石を提出してください」
俺は言葉に詰まる。言いくるめられたからではない。今まで懇意にしていた相手からこのような軽蔑の眼差しを向けられていることに怯んでしまったのだ。
周りの冒険者も野次馬になって集まってきた。
「おい!C級の依頼失敗したんだってよ!」
「Sランクパーティのくせに!?」
「パーティメンバーを大事にしないからそうなるんだよ!」
どこからともなく罵声が飛んでくる。普段面倒を見ている冒険者からも心無い言葉をぶつけられる。
ハーヴィはキッ!と野次馬に鋭い視線を向ける。その途端ピタッと冒険者たちの口は閉じられる。
なんとも気分が悪い。言いたいことがあるなら俺らの背中にではなく、面と向かって言えばいいのに。
「……ブルーオーガは討伐した。神に誓おう。だが今回の依頼は特殊すぎた。まずブルーオーガの数が異常だった。あんなに多いなんて聞いてなかったぞ」
俺はサヤに向き直る。ブルーオーガの討伐はたったの3体。だけど、俺たちが向かったポイントにはまるで待ち構えていたかのようにブルーオーガが数百体潜んでいた。
一体がC級相当のブルーオーガが数百体だ。これはS級案件に匹敵する。実際パーティメンバーの一人が深手を負った。三人しかいない俺らにとったらかなり危険な状況に陥ったのだ。下手したら全滅の危険もあった。逃げ出さず、全て敵を討伐しきった俺たちは本来なら称賛されるべきだろう。
「……それに何故かは分からないが、奴らを倒しても魔石がドロップしなかったんだ。霧散せずに死体だけが残った」
「……そんなでまかせは言わないで下さい。ブルーオーガに群れを成す習性はありません。それにあたりまえですが、魔物を倒せば魔石は必ず落ちます。もし数百のオーガを倒したと言うなら数百の魔石を差し出して下さい」
サヤは真顔でキッパリ言い切る。俺たちが嘘を言っていると決めつけているのだろう。
「そんなの私達も知っている!ブルーオーガにリーダーがいたんだ。一際でかい化け物だった。そいつが群れを率いていた!魔石だって──」
ハーヴィはサヤに詰め寄る。頭一つ分サヤより大きいハーヴィはそれだけでかなりの威圧感がある。
「それ以上近づけば、職員への暴行と認めて冒険者資格を剥奪しますが、よろしいでしょうか?」
これは脅しだ。俺たちと話し合う気はさらさらないらしい。どうしても俺達が依頼を失敗したことにしたいらしい。
今回の一件は例外に例外が重なって起きた。長年冒険者をしているが、こんなことは始めてだ。本来ならC級相当の依頼のはずだった。仲間が一人減って腕試しのつもりだった。
その結果がこれだ。まさかこんなイレギュラーな事態になるなんて。
「おい!サヤに何してんだ!」
「あなた方がそんな人たちだったなんて」
「仲間を追放したというのは本当らしいな」
後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。ざわざわとギルド内がさらに騒がしくなる。
「──お前らは……!」
そこにいたのはこの都市に三つしか存在しないAランク冒険者パーティ『真朱の鷲』だった。
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