第7話 無能の行方
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
狼の遠吠えが森に響き渡る。雨音を掻き消すほど大きな巨人の雄叫びがそれに呼応するように森を揺らす。続いて大蛇の牙を研ぐ鋭い音が耳を刺す。もはやどこから聞こえてくるかも分からない。なにせ辺りは真っ暗。すぐ隣に恐ろしい化け物が潜んでいるのかもしれないし、様子を伺うように後ろから付いてきているのかもしれない。
見えないモンスターに怯えながら一歩一歩森の奥へ進んでいく。数百種類の化け物達がその覇権を争うこの森は通称『惑わしの森』。
「……くそ、くそ!なんでこんなことに!」
暗く深い森の中を松明も無しに進んでいるのはカイス少年である。昨日Sランク冒険者パーティ『自由の剣』から追放された彼はその心の傷が癒えぬままたった一人でこの恐ろしい森に挑んでいた。
彼の目的は『スキルの書』であった。この『惑わしの森』の最奥にある祠にそれはあるのだという。スキルの書を手に入れればどんなスキルでもすぐに使えるようになれるという。支援魔法に関するスキルしか使えない彼にとっては夢のようなアイテムである。
彼をこの森の前まで運んできてくれた行商人の話によればそのスキルの書は真夜中にしか現れず、また数多のモンスターがそれを守っているのだという。
しかし、それでもカイスはこの森に挑んだのだ。
「……はぁ、はぁ」
もちろん最初からたった一人でこの森に挑もうとした訳ではない。そんなの死ににいくようなものだ。しかし、いくら冒険者を募っても彼の誘いに乗ってくるものはいなかった。もしここが『自由の剣』が本拠地を置く街『アルデリア』であったならばたとえ追放された後でも顔が広く知れ渡っているので、協力してくれる冒険者はいたかもしれない。
しかし、ここは『アルデリア』から山を一つ超えた所にある小さな街『スイラン』。誰も危険なこのクエストをカイスとともに受けようとはしなかった。
むしろ馬鹿野郎だと笑われる始末であった。
やっとの思いでこの森の前まで運んでくれると手を差し伸べてくれた行商人もいたが、とんだぼったくり商人でほとんどの金を持っていかれた。
そして数時間森の中を彷徨い、今に至る。
「……どこだ、どこにある」
全ては自分を見下す人間を見返すため。誰よりも強くなって弱い自分と決別するのだ。
そんな強い意志を持ち、カイスは一見無謀とも思われるこの森の攻略に挑んだ。
結果は火を見るよりも明らかであるが。
「仕方ない……『発光』」
数時間前に松明を失ってから、残り少ない魔力を気にしながら魔法を使っている。もはや生活魔法を残り数回使う魔力量しか残っておらず、今敵に出くわせばなす術はない。元々カイスは戦闘魔法は得意ではない。得意の支援魔法を自分にかけることもできるが、ほんの僅かの効力である。
モンスターにでくわしたら逃げる一択であるが、逃げ足は速いのでなんとかここまで生き残ってきた。また、モンスターの嫌う薬草を全身に塗りたくって魔除けにもしている。
半径1メートルほどが明るくなり、少しホッとすると同時に逆にモンスターからすると目立ってしまうので緊張も覚える。
「急がないと……」
周りにモンスターの気配を感じる。だんだんとこっちに近づいてきている。カイスは足を速めてとにかく前へ進む。こっちであっているのかも分からない。だけど、とにかく前へ進んだ。
後ろから大きな足音が聞こえる。
そこだ。そこにいるんだ。
「くっ!」
カイスは全速力で走る。なるべくモンスターの気配のない方へ。逃げ惑うように走り続けた。
しかし、数分後、カイスの足は止まる。
「え、う、うそ……」
カイスは膝をついて絶望した。同時に魔力が尽きて『発光』もきえる。カイスの目の前には断崖絶壁が広がっていた。
「まさか、まさか……」
カイスのすぐ真後ろでモンスターの群れがじりじりと近づいてきた。その表情はみな笑っていた。
カイスは逃げていたのではない。逃がされていたのだ。この断崖絶壁が現れたのは偶然ではない。モンスターによってここに誘導されていた。
その事実に気づいたカイスは嗚咽する。
なんて残酷な世界なのだろう。
どれだけ強く願ってもどれだけ努力しても、何も成し遂げられない。弱者は弱者のまま蹂躙される。強者に馬鹿にされ、いたぶられ、見捨てられる。
自分は何もできないままだった。
御伽話の英雄のようにはなれなかった。
貴重な血統を持っていたり、優れた隠しスキルを持っていたり、土壇場で力が覚醒することもない。
カイスはまったくの凡人であった。
「グギギ」
「シャシャシャシャ」
「ギギッギギッ」
醜い化け物達がカイスに迫る。じりじりと距離を詰めて、その牙を、その爪を彼に向ける。
「くそ!くそ!こんなところで!!殺されるくらいだったら!いっそのこと!」
カイスの身体は崖へと向き直る。カイスは怯えた表情から決心した表情に変わった。
「グギィィッ!!」
カイスがその一歩を踏み出す瞬間、後ろからゴブリンキングの爪が届いた。カイスの背中が思いっきり引き裂かれるとともに、身体は宙に舞った。
「うわぁぁ!!」
そして鮮血を撒き散らしながらカイスは静かに崖から落ちていったのだった。
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