第3話 事情
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
「あぁぁぁぁっっ!!!!!」
赤髪のエルフが声にならない叫び声をあげている。いつも被っているお気に入りの三角帽子を引きちぎりそうな勢いだ。何度も何度も机に頭を打ちつけて足をばたつかせている。
「これで、何度めの発狂?」
「……さぁ。50回目くらいじゃないか?」
黒髪の青年と栗色の髪の女性は耳を塞いで嵐が過ぎ去るのを待つ。お互い顔を見合わせてため息をついた。普段は冷静沈着で、パーティの参謀も務める魔導士メリル。そんな彼女のアラレもない残念な姿を、二人はただ見守るしかなかった。
周りに他の冒険者がいないことだけが唯一の救いか。だが、叫び声が恐らく外まで聞こえてしまっているだろう。彼女の今後の名誉のためにも、そろそろ止めなくてはいけない。
「おい、メリル。お前良い加減に──」
「もぉぉぉぉ〜〜〜っっ!!!」
ドン!ドン!と机を叩いて地面を蹴る。暴れ牛のように手が付けられない状態だった。先程までべろんべろんに酔っていたアモンの酔いが醒めるほどだ。二人は若干引いた目で暴走エルフを見ていた。
「はぁ。そんなに後悔してるなら、連れ戻してこればいいじゃないか」
呆れた表情でハーヴィーはメリルにそう言った。暴走しているメリルの動きがぴたりと止まる。
「ていうか、そもそもお前が言い出したんだからな。カイスを追放した方がいいんじゃないかってな」
メリルは「うっ!」とダメージを受けたように苦しい声をあげる。しばらくしてから啜り泣く声が聞こえてきた。
「だって……だって!だって!このままだとあの子死んじゃうじゃない!これからの冒険はもっと厳しいものになる!私じゃあの子を守りきれない!だから仕方ないじゃない!」
メリルは立ち上がって二人に説明する。ちなみにこのやり取りはもう10回以上繰り返している。
「……そうだな。分かってる。お前が一番カイスを気にかけていたからな」
「だったら仕方ない。もうカイス少年のことは忘れろ」
つい1時間前のことである。Sランクパーティ『自由の剣』から一人カイスという支援魔法師の少年を追放した。
理由はいたってシンプル。弱すぎたのである。Sランクパーティに所属してSランク冒険者として冒険をするにはあまりに実力が無かったのだ。
腕力や知恵が足りなかったのではない。支援魔法師であるのに支援魔法がろくに使えなかったことが、大きな要因だろう。彼は果たすべき役割を何も果たせなかった。それではパーティにいる意味が無い。
このパーティは元々三人の冒険者から始まった。アモン、メリル、そしてハーヴィーである。この三人によって『自由の剣』が結成されてはや6年が経とうとしている。戦力強化を目的としてつい最近、問題の少年を仲間に誘った。
その結果がこれだった。予想していたより数段劣る能力。成長を期待したが、無駄に終わった。どれだけ育成しても成長の片鱗も見えてこなかっので、切り捨てることを決断した。
彼を気にかけることでパーティの戦力低下に繋がっていたことは明らかであった。パーティの足枷になっていることは前々から気づいていた。
このパーティの目的を達成するには、彼はあまりに力不足だった。だからこそ、脱退することを打診したのだ。これから彼の育成にかける時間とコストを考えれば、妥当な判断だろう。
そう自分達に言い聞かせる。
もし、仮に。カイス少年が脱退を甘んじて受け入れていたなら、こんなわだかまりを残したままの別れにならずに済んだかもしれない。
だが、三人の予想に反してカイスは抵抗した。彼は自分の実力不足を認めながらも、脱退を拒否したのだ。
そこで、あのようなやり方になってしまった。追放という形になった。心が痛むが、三人で事前に決めていたことだ。
「……リーダー。私、間違っていた?」
机に突っ伏したまま弱った声でメリルはアモンに尋ねる。アモンは一度大きな溜息をつくと、メリルの頭を帽子の上からポンポンと軽く叩く。
「……お前は偉いよ。自ら悪役を買って出てさ。全部カイスのためだもんな。大丈夫。カイスもきっと分かってくれるさ」
カイスを脱退させることを提案したのは一番カイスの事を気に入っていたメリルだった。日頃から非力であるカイスに少しでも強くなってもらおうと魔法を教え、過酷な冒険でも生き残れるように常に隣に立ってサポートをしていた。
カイスのひたむきで一生懸命な姿を見るのが好きだったらしい。母性本能が刺激されたのかもしれない。とにかく、メリルはカイスに強くなって、生き抜いて欲しかった。
そう。だからこその選択だった。
あえて、強く彼を突き放した。己の弱さを自覚させ、二度と危険な場所に行かないように。
メリルは先のダンジョン攻略で得たお金が入った布袋を投げつけた。せめて彼がこれから楽に生きていけるようにという彼女なりの計らいだった。中には白金貨10枚。一生遊んで暮らせるほどの大金だ。しかし、カイスはそれを受け取らなかった。
『足手纏いはいらないって言ってるの。はやく出て行きなさい。あなたは私達の邪魔なの!』
心を痛めながら言った彼女の言葉は彼にどのように響いただろうか。どう捉えられただろうか。
たとえ本人に嫌われ、憎まれようとも彼女はカイスを危険から遠ざけたかった。
そんな彼女の強い希望を叶えるために二人が協力して、カイスを追放したのだった。
アモンとハーヴィーもわざとカイスに嫌われるような横暴な態度をとり、カイスがこんなパーティを抜けたいと思えるように誘導した。
「そうそう、大丈夫。メリルは良くやった。あれほどボコボコに言葉で殴っておけば、もう立ち直れないだろう」
ハーヴィーがいつものように余計なひと言を添える。
「あぁぁぁぁっっ!!!!!」
エルフの叫びは繰り返す。夜はまだまだ終わらない。
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