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第2話 追放者

拙い文章ですが、よろしくお願いします!

それでは、お楽しみ下さいませ!

「「「「乾杯っっ!!!!」」」」


 コンッ!と勢いよく四つのジョッキが同時にぶつかる。


 Sランク冒険者パーティ『自由の剣』は行きつけの酒場である【小判のオーク】で祝賀会を開いていた。


 その祝い事とはもちろん、ダンジョンの人類未到達階層『第54階層』の攻略祝いである。今まで誰も成し得なかった偉業を達成して皆誇らしい気分で飲み物を飲む。


 この国にはダンジョンが存在する。そしてそのダンジョンの攻略を任されているのが冒険者で冒険者は冒険者ギルドに属している。


 冒険者は日々ダンジョンに潜り、モンスターと戦いを繰り広げる。その目的はダンジョンという未知の場所を既知に変えることだ。それが、『冒険』と呼ばれる。


 数多の冒険者の頂点に立つ者とは即ち冒険の頂点に立つ者だ。


 ダンジョンの人類未到達階層の攻略はまさに頂点に君臨する者達の偉業。


 Sランク冒険者パーティ『自由の剣』は名実ともに今日全ての冒険者の頂点の座を獲得したと言っても過言では無い。


 パーティリーダーの黒髪の【両手剣使い】アモンはキンキンに冷えたエールを。赤髪の【魔導士】メリルはミルクを。栗色髪の【重騎士】ハーヴィーは水を。そしてパーティ最年少である白髪の【支援魔法師】カイスはオレンジジュースを手に持っている。


 全員違う飲み物をそれぞれ違うペースで飲む。アモンは一気にジョッキ一杯を飲み干し、既に二杯目に突入しようとしている。メリルとハーヴィーは少しずつ丁寧に飲んでいく。しかしカイスに至ってはほとんど飲んでいなかった。


 今日はこのパーティの貸切。どれだけ飲んで歌って騒いでもいつものように苦情がくることはない。どんどん机に運ばれてくる超巨大料理もS級冒険者にかかれば、一瞬でぺろりとたいらげてしまう。


 料理を食べるスピードが落ち着いてようやく目を見てゆっくり話せるようになってから、会話は他愛もない話から今回の冒険についての話に切り替わる。


「それにしても、今回ばかりはダメかと思ったよ」


 ラストアタックを魔法でお膳立てしたメリルは笑いながら手をひらひらさせた。


「まさかフロアボスが竜だとは思わなかったよ。物理も魔法も耐久値が高すぎて全然通らなかったよな」


 ラストアタッカーを務めたリーダーのアモンもメリルの発言に同意する。


「……だが、今日も我々が勝った。この偉業はすぐに街に広まるだろう」


 メンバーをその盾で守り抜いたハーヴィーは嬉しそうに静かに笑った。アモンもメリルも力強く頷く。


 しばらく今回のダンジョン攻略の話が続き、そろそろ祝賀会も終盤に差し迫ってきたころ。


「……でも!でもさぁ〜!?私たちまだまだやれるのよ!」


 戦いの疲れが溜まっているのであろう。赤髪魔導士(メイジ)ーーメリルはテーブルに突っ伏したまま色々愚痴を語りはじめた。


「おいメリル、行儀が悪い。姿勢良く座らんか」


 栗色の髪の聖騎士(パラディン)ーーハーヴィーはメリルに睨みをきかせながら静かに水をすすっている。一人だけ質素な水しか飲んでいないのは宗教的な理由だ。


「相変わらず堅いな〜。祝いの日ぐらい酒でも飲んだらどうだ?ほら一杯」


 既に酔いが周っているパーティの長ーーアモンは無理やり酒の入ったジョッキをハーヴィーの口に持っていこうとする。


「やめろ!バカアモン!ぶん殴るぞ!」


 ハーヴィーはアモンの顔面に拳を躊躇なく入れる。ほんの少しかすっただけでアモンは数メートル先まで吹っ飛んでいった。


「……お前、武闘家(ファイター)の方が向いてるんじゃないか?」

「う!うるさい!この無礼者!」

「ちょっと!アモンもハーヴィーも落ち着いてよ!」


 いつも通り仲の良い三人は騒ぎ合いながら夜を明かしていく。月が綺麗に輝き出し、夜もだいぶ更けていった。


 それからまたしばらく時間がたった頃、三人は顔を合わせて気まずそうな表情を見せた。苦笑いをしながらリーダーが率先して声をかける。


「……カイス。お前……このパーティ苦手か?」


 今まで一切喋っていないパーティメンバーがいる。四人いるうちの最後の一人。最近パーティに加入した支援魔法士ーーカイス少年である。


 他のメンバーより年齢と体格が一回り小さく、かなり弱気な少年である。体がひょろひょろなのは冒険者としてどうかと思うが、百歩譲るとしても、その弱気で消極的な態度にパーティメンバーは困惑していた。


 一番頭を悩ましているのはリーダーであるアモンだ。アモンがカイスをパーティに加入させた張本人であるためだ。


「い、いえ…いつも足を引っ張ってしまって…今回も…だから…その……申し訳なくて……」


 カイスは今回の戦いもあまり戦力にはならなかった。支援魔法士でありながら大した支援魔法を扱えない上に、敵の的になるからだ。今日もハーヴィーが盾で守ってやらなければ、邪竜ゴラスの牙でその身体は貫かれていただろう。


 正直、パーティメンバーは困っていた。彼はこのパーティに合っていない。それは確定的だった。


「……謝るくらいなら強くなりなさいよ」


 業を煮やしきったのはメリルだった。同じ魔法士として思う所があるのだろう。日頃から強い口調でハーヴィーに指導しているメリルは今日はよりいっそう強い口調でハーヴィーを叱責する。


「……す、すみません…」


 カイスはいつもと同じ、平謝りするだけだった。


「支援魔法士が支援魔法をろくに使えないなら冒険者をする意味は無い。冒険者以外の道に進むのも良いだろう」


 冷静な口調でハーヴィーはカイスに語りかけた。口に出しはしなかったが、カイス以外の三人は既に結論を出していた。最終的な判断はリーダーのアモンに委ねられている。三人は目配せをし、頷き合う。


「……僕は冒険者にずっと憧れていたんです。だから僕は絶対に辞めたくありません」


 その言葉を聞いたアモンは立ち上がり、意を決してカイスに言う。


「カイス……お前パーティを抜けろ」


 時が止まったかのような静寂が訪れた。一人を除き、この時がくるのは分かっていた。ただ早いか遅いかであった。


「そうね。それがいいわ」

「これからの冒険はさらに危険が増す。引き際だ」


 アモンの発言に一人を除き、納得した表情で同意する。逆にカイスはあり得ないといった表情に変わり、勢いよく立ち上がる。


「な!なんでですが!?今までずっと一緒にやってきたじゃないですか!」

「なんでって……自分が良く分かってるんじゃないか?」


 正直ここまで食い下がるとは思ってもおらず、アモンは困惑した表情で説明する。


「お前は足手まといだ。このパーティにおいてはな」


「そんな!荷物持ちだってなんだってします!魔石の換金やマッピングも今まで全部僕がやってきました!それなのに!追放だなんて!」


 確かにカイスの日々のパーティの雑用仕事や冒険におけるサポートは非常に助かった。しかしそれならば支援魔法師じゃなくていい。別に魔石の換金などは冒険者なら誰でもできる。マッピングはそれが得意な【盗賊(シーカー)】などを雇えばいい。


 カイスは目に涙を浮かべてパーティメンバーにみっともなく嘆願する。


 しかし、カイスの願いは聞き届けられるはずもなかった。冒険者は実力社会。弱い者は淘汰されるのが運命(さだめ)なのだ。


 元々『自由の剣』はアモンとハーヴィーとメリルの三人で結成した。生まれも育ちも全く異なる三人だが、一つの目標に向かって団結していた。Fランクパーティから始まり、はや6年。一人の少年のために全員の夢を諦めるわけにはいかなかった。


「……僕は…みなさんと冒険がしたいんです…」

「カイス……」


 口籠るパーティリーダーのアモンを見かねたのはメリルであった。メリルは立ち上がり、先程換金したお金が入った布袋を投げつける。


「足手纏いはいらないって言ってるの。はやく出て行きなさい。あなたは私達の邪魔なの!」


 怒鳴り声が部屋に響き渡る。一瞬の静寂の後に少年のすすり泣く声が聞こえる。


「ど、どうしてそんな……。僕たち仲間じゃなかったんですか!?」


 カイス少年の顔が真っ赤に染まる。絶望と怒りが混ざり合ったような表情。今まで彼がこんな顔をした所は見たことがない。


 カイスは確かにこのパーティに献身的で雑用などは買って出てやってくれた。とにかく優しい性格の持ち主で、誰にでも分け隔てなく接して誰とでも仲良くなれるようなそんな人柄であった。


 リーダーであるアモンは深呼吸をして覚悟を決めた表情を見せる。

 

 そして、次の瞬間──


 バキッ!!と机が真っ二つに割れた。


 アモンが腕を振り下ろして机を叩き割ったのだ。


 アモンはカイスの胸ぐらを掴んで地面に叩きつける。


「……もう冒険者なんて辞めちまえ。もう俺たちに付き纏うな。足手纏いのグズ野郎が」


 その言葉を聞いたカイスは絶望した表情で静かに立ち上がった。投げつけられた金貨を拾うこともなく、ふらふらと夜の街へと消えていった。


 それからカイスが帰ってくることは二度と無かった。


ここまでご覧頂き本当にありがとうございます!

お楽しみ頂けていたら幸いです!

もし「次も見たい!」「この作品面白い!」と感じて下さったなら[高評価]と[ブックマーク]よろしくお願いします。いいねとコメントもじゃんじゃんお待ちしております!

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