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御使いと書いてパシリと読む  作者: 宮々
導入
1/5

はじめてのパシリ

 何度目か数えるのも億劫になる猛暑日の夜。うだるように暑い。暑いが、嘆いていても仕方がない。

 テレビでは連日、熱中症の被害が話題になり、温暖化やヒートアイランド現象が取り上げられているが、原因は別にある。

 その原因を取り除くために、光に照らされた街並みを避けるようにして、裏通りを駆ける。



 傲神(ディーヴァ)慈神(ルシル)。この世界に現界した神々。

 世界を呪う神が傲神(ディーヴァ)と呼ばれ、祝福する神が慈神(ルシル)と呼ばれる。

 だが、その境界は非常に曖昧で、人の基準ではかり知れない。神々は気まぐれだ。女心や秋の空よりも軽く、両者は移り変わる。



 目標を見つけた。

 影は揺らめき、懐に右手を忍ばせている。


 右手に警戒を移す。

「――っ!」

 突如、目の前に巨大な牙が迫る。ギリギリで避けられたが、頭に女の罵声が鳴り響いた。

『あんな見え見えの罠にひっかかるな! このバカッ!!』

 イラっとするが、振り払って影を見据える。

 影の形が、獣になっていた。


『あれも権能か?』

 脳に響いた声の主に、こちらも脳内で問いかける。

『そうよ! 狼に化ける能力のようね。人間が相手じゃないんだから、油断してんじゃないわよ!』

 言われて、何と相対しているのか実感した。

『そう、相手は神なのよ。まずは権能を警戒するべき! なんだけど・・・」

 確かに、神の権能はナイフや銃などよりもはるかに危険だ。だが、

「狼になるだけ? その辺の魔術と変わらないじゃない。たいしたことない相手ね」

 そう。獣に化けるだけなら、権能どころか魔術ですら可能なのだ。ならば、この相手は脅威ではないだろう。


 不格好な避け方になり心臓は脈打つが、無駄に慌てる必要はない。

 今度こそ敵の全体を観ると、明らかにうろたえているのが見えた。

 今のは殺す気の、それも、不意打ちという絶好の形だったのだ。避けられたのは予想外だったのだろう。


『攻撃してくるってことは、やつが原因(ディーヴァ)なのか?』

『間違いないわね。さっさと片付けなさい!』

 言われなくても、早く終わらせたい。逸る鼓動を抑え、幻想する。敵の無力化。出来れば殺したくない。そうイメージをかためる。

 目の前の空間に幾何学模様が浮かぶ。淡く輝きを放つと、無数の鎖が現れた。


 鎖は目にも留まらぬ速さで敵に迫るが、敵はそれを避ける。獣の如き動きと言うが、獣そのものなのだから、当然だろう。

『バカナナ!! なに簡単に避けられてるのよ!?』

 脳が痛む。

『バカバカうるさいぞ! 想定の範囲内だ!!』

 予めイメージした幻想を敵の足下に発現させる。新たな鎖は、人を超える獣の認識の、更に外から縛りあげた。

 


 鎖に搦めとられ獣が地に伏せる。

「キサマハ・・・ナン・・・ダ・・・」

 俺に問いかけてきた。


 俺は僅かに逡巡し、諦めて答える。

「ただの、パシリだ。」


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