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蓮と藤  作者: 讃嘆若人
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 霊界に行った璃茉(りま)が見たのは、自分の遺骸に群がる女たちであった。その女は白狐の上に(またが)っていた。

「貴女たちは一体、何者なの?私の身体に何の用なの?」

 璃茉がそういうと女たちのリーダーらしきものが応えた。

「ありゃりゃ、目覚めさせちゃったみたいだね。私たちの存在に気付くとはなかなかのものだよ。さすがは生前優秀な巫女だっただけはある。」

「それで、貴女は何者なの?」

「私たちかい?私たちはね、神様だよ。」

 女がそういうと他の女たちは爆笑する。

「神様?一体、何をしに来ているの?」

「あんたの心臓を食べに来たのさ。私たちの好物だからねぇ、人間の心臓は。」

「人の心臓を食う神なんかいない!お前たちは悪魔だ!」

「これこれ、神が人と食って何が悪いんだい?あんただって豚を食ったことがあるだろ?それと一緒さ。」

「私は豚じゃない!」

「そうさ、あんたは人であって豚ではないねぇ。人が豚を食うのは自分が豚じゃないからさ。神が人を食うのは自分が人じゃないからだよ。」

「そんな!神にとって人は食べ物だなんて!」

「人間はどこまでも浅ましいねぇ。あんたが豚を食べ物として見てなかっただけないかい?私たちは人をただの食べ物とは思ってないさ、人の使命を応援してるしね。あんたの肉体はもう死んでいるから、食べて何が悪いのさ?人間みたいに生きてる豚を殺したりはしないよ?」

「――人の使命を応援?」

「ああ、あんたがおとなしく心臓を差し出したら願いの一つや二つぐらい、軽く叶えてあげるよ?神はね、与えられた百倍のお返しは必ずするからね。」

「それならお願いがあります!百済国を必ず亡ぼしてください!」

「ほぅ、百済か。良いだろう、私たちにとっては造作もないことさ。他には?」

「次は――あ、蕭白慶(しょうはくけい)です!あと、璃瑙(りのう)も!この二人だけは幸せにしてください!」

「判ったよ。それだけでいいかい?」

「本当に叶えてくれるのですか?」

「叶えてあげるとも。あ、あんた、私たちを疑っているね?」

「私は巫女でしたが、人の心臓を好物にする神の存在を知りません。一体、貴女がたは何者なのですか?」

「ハハハ、道教ではあまり私たちのことに触れないか。私たちはね、荼枳(だき)尼天(にてん)というのさ。」

「しかし、どうやって私の願いを叶えるのですか?」

「白慶と璃瑙については簡単だねぇ。守護さえすればいいだけだからね。後は、百済をどうするか、さ。これについては遠大な謀が必要だねぇ。」

「時間がかかるということですか?」

「そうさ。とは言え、あんまりゆっくりでも困るだろ?まず、最優先に日羅を殺してほしいかい?」

「ええ!是非とも!あの東夷の憎い男を殺してください!」

「判った、判った。少し時間はかかるけど、必ず彼を殺してみせるよ。それだけでなく、百済も亡ぼしてあげる。これをみな。」

 そう言って荼枳尼天の首領は一つの水晶玉を見せた。

「ここに写っているのはね、倭国の吉備という所さ。これが百済とどう関係があるのかって?まぁ、見ていな。ここに写っているのが日羅の父親だよ。」

 蘆北(あしきたの)阿利斯登(ありしと)は吉備に来ていた。蘇我馬子と会うためだ。

「貴兄と会うのは久しぶりだな。」

 馬子が言う。

「ええ、本当に。久しぶりに良い話があるのか、悪い話があるのか。」

 阿利斯登も言う。

「貴兄は良い話をもってきているのかい?」

「貴公次第ですな。」

「そうか。」

「まぁ、息子に関することなのですけどね。ところで話は変わりますが、(せがれ)は仏法を学んでおりましてね、私も仏法を尊重すべきだと考えているわけですが、そこは貴公と同じ考えだという訳ですよ。ところが、息長真手王は(いささ)か異なる考えの訳でして。」

「ほう。息長真手王の娘が他田(おさだ)大王の大后になっておるな。」

「そうでしょう。私は貴公の姪の額田部王殿下こそが大后に相応しいと思っているのです。」

「何を言っている。大后がきちんと健在であるのに、そんなことを言うとは畏れ多い。私にはそんな野心はないぞ?」

「そうですか、ならば大后が亡くなった後はどうですか?」

「不吉なことを言うんじゃない。」

「すみません、しかし、人の命は(はかな)いものです。筑紫の皇太子も前の太子に不幸があったので多利思北孤殿下が新しい太子となりました。万が一のことを政治は考える必要があります。もしも今の大和の大后に不幸があった場合、大王には生涯大后を持たずに過ごせといいますか?」

「それは言えないな。」

「ならば、新しい大后を推薦する必要があります。まさか、前の大后が亡くなって哀しんでいる大王に新しい女を紹介するわけにはいきますまい。では、今いる妃の中から選んでいただくということになりますが、貴公の姪以外に相応しい方が今の大王の妃にいますか?」

「まぁ、私も身贔屓があるかもしれぬから、それを断言は出来ぬが。」

「身内のことだからと言って、過剰な謙遜はよした方が良いですよ。額田部王様が素晴らしい賢女だという噂は、まさか根も葉もないことだったのですか?」

「いや、断じてそうではないぞ。」

「ところで、額田部王殿下も仏教を学んでおられるとか。」

「その通りだ。」

「ということは、額田部王殿下も私たちの仲間だと思って良い?」

「ハハハ、可愛い姪を政治の抗争に巻き込むなよ。」

「信仰の仲間として、です。」

「そうだな、信仰の仲間として、いろいろ気にかけてやってほしいものだ。」

「そうですか、嬉しいです。額田部王殿下も信仰を同じくする仲間、私も殿下のために出来ることはしましょう。ところで、こちらは珍しいものが手に入りました。」

「珍しいもの?」

「はい。鴆毒(ちんどく)というものです。」

 そういうと阿利斯登は鴆毒の入った筒を出した。

「あ、あれは私が!」

 こちらは霊界。水晶玉で様子を見ていた璃茉が声をあげる。

「物事は何がどうつながっているか、判らないものだねぇ。」

 そう言いながら荼枳尼天の首領は笑う。

「我々は神だから、物事のつながりがきちんとわかるんだが、人間どもは判っていない。だからこそ、私たちは人間を操れるのさ。」


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