冒険者へ
(明日、か…………、まあ、待つしかないよな………。渡された地図には、えっと、ギルドの…………う、後ろ?え、真後ろ!?)
地図の指示通りに移動すると其処には、良いとも悪いとも言い難い外観の宿屋が有った。
(ギルドも年期がある感じだったし、まあ予想の範囲内って所だな……。盗れそうなものは………、いや駄目だ。なんとなくだが、今後何かしらの問題を起こせば、確実に抹消処分になる気がする。それに、そろそろ変わらないと………)
そんな事を考えつつ扉を開ける。
ロビーの内装は思ったほど酷くなく、床には赤いカーペットが張ってあり、カウンターは木製のもので、意外にも傷が少なかった。
「いらっしゃいませぇ~、ギルドから連絡の有ったケンさんですよね?部屋までご案内しますのでこちらへどうぞ」
カウンターから顔を出してそう話かけてきたのは、12,3歳に見える女の子だった
「あの、オーナーは?」
「私がオーナーですけど?」
「ふぇ?」
しまった、変な声が……。じゃなくて、この子がオーナーだって?
(子供にオーナーをやらせる何て、この世界はそんなに人が少ないのか?)
「あの、もしかしてですけど、何か勘違いしてません?」
「勘違い?」
「あ~、やっぱり。初めての人には絶対に勘違いされるんですけど、私はこんな姿でも26で、此処の二代目オーナーで、セニャというんです」
(え?26?この格好とこの姿!?)
「どういう訳か、12歳位から一切成長しなくなって……。はっ、そうじゃなくて、お部屋に案内を…………」
「えっと……、部屋に案な」
「えぇ、お部屋ですね!こちらです!此処の108号室です!食事は私が持ってきます。それでは!」
そういってオーナーのセニャはそそくさと帰っていった。
部屋は清潔感があり、とても居心地が良く、冒険者達の疲労を癒し、次へ向けての気合を入れられるよう、過ごしやすい雰囲気になっていた。
ベッドは、物凄くフカフカ…………という訳では無いが、布団のような安心感が感じられる。この世界の住人はどうか知らないが、俺からしたら非常にありがたい。
(あ~、たまにはベッドでゴロゴロするのもいいよなぁ)
などと考えながらゆったりしていると、
[コンコン]
『夕食をお持ちしました。入りますね。』
「はい、どうぞ」
そう言いつつ扉を開ける。
扉を開けた時のフライの様な香ばしい香りで察した。これは、『かつ』だ。間違いない。
「今日の夕食は、『ソルジャー・カウ』の肉を使った『カウカチ』です」
(ソルジャー・カウって、『牛戦士』ってことか?『カチ』は『かつ』だよな。)
「………」
「あの、何か有りました?」
「いや、とても美味しそうで見とれてしまって。有難く頂きます。」
「いえ。あの、もしよろしかったら、回収の際に感想をいただけますか?今後のために」
「解りました。」
「有り難うございます。2時間後に回収に参ります。ごゆっくりとお寛ぎください。」
そう言ってセニャは部屋を出た。
「しかし、この世界でカツかぁ。全く予想してなかったなぁ。」
改めてトレーの上の料理を見ると、牛カ、いや、この世界ではカウカチか。それと、スープの様な汁物にパン、そしてサラダ。
で、ソースの様な液体と、ドレッシングの様な液体が小皿の入っている。
箸は無く、スプーンとフォークのみ。
(旨そうだ)
「頂きます」
カツをはじめに口に入れる。程よい揚げ具合で、衣も凄くサクサクしており、噛むたび肉汁がジュワっと溢れてくる。そのままでも食べられるが、少し脂っこい。でも、よくあるカッチカチな状態では無く、とても食べやすい。
何もかけずに堪能した後は、ソースの様な物をかけてからカツを再び口に運ぶ。
ソースの様な液体は、ソースでした。自家製ソースの様で、スーパーに売っている中農やウスターソースと違い、濃厚で、しかも鹹さを感じない。そして、肉の味を引き立てる。
これは旨い。
気付けば、トレーに乗っていた料理は無くなっていた。どうやら夢中で食べていたようだ。
セニャが来たのは、其の直ぐ後だった。
[コンコン]
『食事を下げにきました。』
「はい。どうぞ」
「あの、どうでしたか?」
「凄く美味しかったです。ただ、少し脂っこさを感じたので、俺としてはもう少しサッパリした感じでも良いかもしれません」
「解りました!有り難うございます!朝食はどうなさりますか?」
「ギルドの方で食べようと思います。」
「畏まりました。それでは失礼します。」
その後は風呂に入って直ぐに寝た。
翌朝
体感時刻で、朝6時位だろう。チェックアウトを済ませギルドへ向かった。
ギルドの扉を開けると、中には既に6,7人ほどが居り、食事を取っている者や、掲示板を見て、頭を悩ませている者や、仲間と思わせる人と談笑している者が居た。
俺は、先に食事を取る事にし、カウンターに座り、パンとサラダとコーヒーを注文した。
手っ取り早く食事と会計を済ませ、ギルドカウンターへと足を運んだ。
カウンターには昨日の受付嬢が居た。
「おはようございます。トクラ・ケン様ですね。カードの発行が完了致しました。カードの詳細はギルドガイドに記載してあります。カードと一緒にお受け取りください。」
「分かりました。」
「それと、ケン様はまだ職種をお決めになさっていませんので、此方で丁度いい職を探しておきました。こちらの中から選んでください」
そう言って出されたのは、「ジョブカード」と書かれた者だった。
其処には、『・冒険者(前衛・中衛・後衛どれでも活躍でき、様々なスキルの会得が可能)』
『・片手剣士(スキルは防御系と片手剣スキルしか覚えられないが、盾を装備することが可能)』
『・魔導士(魔法を主体として戦う為、主に後衛。様々な魔法が使える為、攻撃特化、回復特化なども可能)』
『・盗賊(素早い動きが特徴で、片手剣士と同じく片手剣スキルの会得が可能。又、盗賊固有の盗賊スキルや、短剣スキルの会得も可能。戦闘時は冒険者と同じ様な立ち回りが可能)』
(盗賊、か………。どんな世界でも俺は、こんなのに成るんだろうな)
「……盗賊でお願いします。」
「畏まりました。盗賊ですね。それではトクラ・ケン様。貴方のご活躍をギルド職員一同、期待しております。」
こうして、俺の新たな生活が幕を開けた。
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次回は6月10日に投稿します。