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魔石の超新星《スーパーノヴァ》  作者: 寒夜 かおる
第二章
12/19

Break a leg! Ⅰ 【挿絵有】



「アルヴィン!」

「っ、ん?」

「ん? じゃなーいの! もうすぐ予定の時刻だよ!」

「ああ、ごめんな。ちょっと考え事……。チャウダーの様子は?」

「予想より少し早い。壁の色が真っ赤で、ううん、赤を超えた。血の色をしてる。爆発したらここも無事か分からないよ」



 目が覚めた瞬間の感覚。

 任務中にあるまじき態度だ、と分隊長は自身を脳内で叱責する。ニコーレはどこか上の空のアルヴィンに詰め寄り、頬を膨らませつつ報告をした。

 

 簡易双眼鏡でチャウダーの男を確認する警ら隊隊員はアルヴィンに刻限が近いと述べる。

 魔力を視認できるニコーレはアパートの四方の壁に流れ囲う魔力の檻を睨みつけた。赤く淀んだ汚らしい魔力の輝き。ニコーレにとって魔力は濃ければ濃いほど、深い色で見えるという。


 魔力濃度『七』の男ができる芸当ではない。身の丈に合わない魔術を火事場の馬鹿力で行使している証拠だった。

 

 犯人アパートの正面にある建物と更にもうひとつの建物を挟んだ銀行ビルの屋上。アルヴィンとニコーレはそこにいた。夜の色が背景のおかげで犯人からはアルヴィンたちは見えていない。

 最初に警ら隊が包囲網の拠点を置いた地点から大分後退したこの場所に、作戦本部を急ごしらえた。一方、実行部隊のローレンスとキョーコ、モリスは犯人アパート屋上に待機している。

 

 アルヴィンたち作戦本部は後退時、拡声器による声かけを行った。地域住民に対してではない。犯人に対してだ。



「要求があれば聞く。どうか応答を。その女性は君の母親だ」



 しかしアナウンスはことごとく無視されてしまった。

 本来の立てこもりならば何かしらの要求があるはずだが、犯人からの声明は何一つ出ていない。分かるのは確実に怒りを持った犯行であるということ。ニコーレはそう断言した。彼の魔力が語っている、と。

 

 犯人のアパートの一室はあらゆる介入を拒む要塞へ変化したと結論付けられた。

 これはモリスの突入作戦とアルヴィンによる制圧攻撃により判明したものである。ドアは鍵すら拒み、ガラス窓は銃弾を弾く。犯人の爆発的な逆上を防ぐために警告をしてから行った発砲を、ニコーレは魔力を以って見守った。


 すると発砲した球が着弾する窓ガラス付近が強く淀んだという。代わりに他の壁は色味が薄くなった、とも。


 これらから導き、突貫で考えられた作戦をアルヴィンは今一度振り返る。


 いけるか?

 いける!

 ……本当に?


 怯えた瞳、下がった眉。

 しかし一言も嫌だとは言わなかった少女。出来ないとは言わなかった彼女を、アルヴィンは思い出す。


 キョーコの魔力を聞いた時、ああなんてことだとアルヴィンは頭を抱えた。ヨーサリを、夜の世界を知らなかったただの少女が持つには重すぎる荷を彼女は背負っている。きっと本人はまだそのリュックの中身に気づいていない。まだ見ぬ幸せが詰まっていると思って、嬉しそうに背負っているのだ。

 そして藤夜もテ・ルーナもまた、その中身を調べ切れていない。今回彼女を作戦投入するのは謂わば持ち物検査と同義である。きっと割れ物が詰まっているだろうリュックを紐解かないことには、優しく布で包めない。

 

 だから。


 アルヴィンにも火が灯る。

 彼女が先に進むのならば自分がその荷物を半分背負ってやらねばならない。


 そうだろう? アルヴィン。


 カラスは今一度自分に問いかける。

 できるか。できる。やらねばならぬ。


 悪いヨーサリに、二度と魔力を悪用させてはならない。


 だから。



「これより人質救出及び犯人制圧の特殊作戦を展開する」



 決して大きくはないが威勢良く、勝利を誘うため高らかに。アルヴィンは警ら隊隊員を近くに集め、作戦内容の最終確認を始めた。


 アルヴィンとニコーレを入れて人数約二十名。残りの半分はモリスが率いている。銀行屋上は犯人が双眼鏡でも使わない限り細かな動作は見えない位置である。一方で警ら隊は常に双眼鏡で犯人を監視し、彼の手にはナイフしかないことを確認済だ。

 集まった警ら隊ひとりひとりに語りかけるようにアルヴィンは確認を続けた。



「犯人は『アンジェリカの血脈』だ。奴はアパートの一室を強化して我々の侵入を拒んでいる。しかしこれは奴には過ぎた芸当。もう知っているかと思うが、完全に犯人は魔力暴走状態だ。あと十分も経てば臨界点を超えてこのあたりまで肉片が散らばるだろう。そうなった時、人質はもちろん我々や、周辺一帯に甚大な被害が出る。我々はこれらを防ぐことと人質救出を同等の優先事項として行動する」

「魔力で作った要塞だからこそ、私たちも魔力で対抗するよ。あいつの魔力は現在まさに最大解放中。これ以上の放出はおそらく不可能だと推測します。一点に魔力を集めさせ、薄くなった他の壁を見極めて強行突破するのはもう理解してるね?」


挿絵(By みてみん)


 予定より三分早い集合だが誰も文句は言わない。ニコーレの問いに首を縦に振る警ら隊たち。彼らもまた、心に信念という火を灯していた。


 ニコーレの魔力により判明した犯人の力量を考慮して練られた作戦は以下の通りである。



 まずアルヴィンによる警告後の連続射撃を正面窓側に行う。それによりアパートの壁に伝う魔力を正面窓側に集中させ、他の壁への魔力伝達を手薄にする。


 次にアルヴィンが攻撃を続けている最中に、他ニ方向から警告無しの突入を実行する。一方は鍵穴の通らないドアから警ら隊が隠密にピッキングを実行。もう一方がローレンスによる防壁の破壊である。後者が本命の突入方法とする。


 突入後はローレンスが速やかに犯人を拘束。キョーコが人質の格納を行う。その後キョーコは自力で部屋から退却。ローレンスは犯人を説得。魔力暴走状態が解除できない様子であれば制圧する。


 尚、本作戦はサテライト特別捜査隊ゴッドスピード総隊長が王国議会の承認を得て指揮したものであり、すべての責任は彼女に集約するものとする。


 以上。



「疑問がある者は?」



 手は挙がらない。

 アルヴィンは頷く。そして少し間を置いてから年相応に初々しく口を開いた。



「……偉そうにしてますけど、まだまだ俺は経験不足です。だから皆さんに背中を任せます。……支えてください」



 その態度に銀行ビル上の警ら隊と特捜隊はひとつとなった。興奮と士気高まった細い息で一瞬あたりは白くなる。犯人の血走った瞳には、その貴い決意は映らなかった。

 


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