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魔法少女は生きづらいっ!?  作者: なのかしら
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第一章 魔法少女はじめました―4

「でも……お金のために悪事が行われるのを待つって心が痛いなぁ……」

 すっかり暗くなってしまった空の下、帰路を私は一人プラス一匹で歩いていた。

 人通りは少なく、二、三名のサラリーマンとすれ違ったくらいだ。

 家まであと一キロ程度。この間に悪事が行われたらいいなぁと思ってしまう自分がいて、胸が少し痛んだ。

 鞄の中にいるフランは、ファスナーを少し開けて、深く息を吐いた、


「たとえお金のためとはいえ、正義に目覚めるのは良いと思うマネ。紅緒は悪いことをしているわけじゃなく、良い世界を作るための一歩を築いていっているマネよ」


「……たまには良いこと言うじゃない」


「フランはいつも良いことしか言わないマネよ」


 えっへんと荒い鼻息を吐き出すフラン。彼の瞳は黒く輝いていて、ほめられて喜んでいるんだとなんとなく伝わってきた。


「ところで魔法少女って何人くらいいるの?」

「ざっと、一万人くらいマネ」

「い、いちまんにん!?」


 一人二人かと思っていた私は度肝を抜かれた。

 一万人。想像以上の人数だ。


「ちなみにこれはアジア圏内のみマネ、世界中をトータルで考えると、もーーっと多いマネ」

「ま、まだいるのね……」


「《正義の魔法少女(ユースティティア)》という新設機関で正式に認められた職業、それが魔法少女マネ。新設だから知らない人ももちろん多いマネね……」


「みんな自腹で魔法使っているの?」

「もちろんマネ。むしろお金で魔法を使えるなんて、とても便利マネよ。みんな紅緒みたいにお金を使うのを惜しがったりはしないマネ」


「悪かったわね。ケチで」


「ちなみに、これが料金表マネ」

 フランがぺらっと一枚の紙を渡してくる。

 そこには


「ビーム【小】百円 グーパンレベル

 ビーム【中】千円 拳銃レベル

 ビーム【大】一万円 バズーカレベル

 すべて一発辺りの単価――

 ……エトセトラ」


 安いものなら百円から……。


 確かに、この値段なら、お財布に余裕がある人であれば使うのかもしれない。


「お手頃マネ」

「ううん、十九円のゆでうどんが五個も買えてお釣りが来るわ。全然お得じゃない」

「ほんとにケチくさい女マネ」

「こっちは生活がかかってんのよ」

「あ、そうマネ。あとで苦情がくると面倒だから先に説明しとくマネ。魔法の動力になるのはお金で間違いないけど、それも使う人にとってのお金の価値で威力が変わったりするから注意マネ」


「……ど、どういうこと?」

「ほんと紅緒は豆腐頭マネね。つまり()()()()()()()()()()()()()()()、千円ビームが稀に一万円級になったりするマネ」

「そうなんだ……。まぁ魔法使わないから関係ないんだけど」

「マネーッ! お金使わないと魔法少女じゃないマネ! 魔法を使わない少女なんてただの豚女マネ!」


 フランが小銭を入れる部分から湯気を出して怒っている。ところどころで罵るのやめてくれないかなぁ……。


「きしゃああああ」


 そのとき、甲高い奇声が聞こえて顔を上げた。


「魔法少女、ミツケタ……」


 そういって、私の前に立っていたのは、真っ黒い全身タイツをまとった人。

 体格と声から察するに、男性。年齢は十代後半から最高でも五十代。黒タイツのせいで年齢までは突き止められない。


「不審者ね! チャージ・ザ・マネー!」

「変身速いマネ」


 フランのお腹から出てきた光に再度包まれて、魔法少女に変身する。


「かかってきなさい!」


 私はステッキを彼に向けて、大声をあげた。


「ま、まさか彼らは……っ」

「なにか知っているのフラン? 見た目はただの変質者だけれど……」

「ただの変質者じゃないマネ。彼らは――」


 ドォオオオオオオン


 耳元で轟音が響いた。むせかえりそうな、埃っぽい匂いが鼻につく。視線だけを横に向ける。


 ――コンクリート製の壁が凹んでいた。


 機械で鉄球を殴りつけたような跡が、私の真横に残っていた。

 けれど機械はない。ただそこには、壁に素手をめり込ませている男がいるだけで――


「す、素手で!?」

「ににに逃げるマネ! 今の紅緒では彼らにかなわないマネ!」


 フランが叫ぶように言う。


「言われなくてもっ!」


 全身が告げる。こいつはやばいヤツだ!

 昔、母がつれてきた男に似ている。

 雰囲気からして常人と違う。やばい人たちというのは。ただそこに立っているだけで、威嚇し、圧力を与えてくる。

 ――恐ろしい、と本能が叫ぶ。


 私は震える足に、おもいっきり力をいれて、全力で逃げた。

 フランが鞄から飛び出して、宙に浮かびながら私の後ろをついてくる。


「な、なんなのよ、あれ!」


「あいつは《マレフィキウム》の人間マネ!」


「なに? まれきうむ?」

「《マレフィキウム》。彼らは魔法少女に対抗してくる組織、いわゆる悪の組織マネ」


「なんでそんなのがいるのよお!」

「正義が生まれれば、バランスをとるために悪が生まれるのも当然マネ」

「そんな概念的な話されてもっ!」

「わわわ紅緒、まだ追ってきているマネ!」

「え?」

 フランの言葉に、慌てて振り向く。そこにはものすごい勢いで走ってくる先ほどの黒ずくめの男がいた。

 彼の背後には火が燃えている。

「も、燃えてる!」

「きっと彼の足が早すぎて、摩擦で火が起こったマネ!」

「そんなめちゃくちゃな!」


 私は泣きそうになりながら、もう顔がぐちゃぐちゃになろうが関係ないと必死で走った。

 けれど私の足の早さは常人レベル。男の足の早さは火が出るレベルだ。

 このままじゃあ追いつかれる!


「だ、だれか……っ!」


「魔法少女ォオオオオ!」


「ひぎゃああああ、誰か助けてぇええええええ!!!」



「お待たせしたわね」

 凛とした声が響きわたった。


 声のしたほうを向くと、そこには長い髪を高い位置で一つにまとめた女性が立っていた。

 外見――顔つきからして、私よりも少し年上。

 けれど年齢に見合わず、服装はやたらと派手だった。リボンとフリルがふんだんに使われた、紫色の衣装。スカートの丈は短めで、ニーソックスと生足の間がちらちらと見える。

 私が着ている魔法少女の衣装と比べると、少しデザインが古いタイプの衣装だった。


「あ、あなたは……」


 私は彼女を見上げてつぶやいた。

 彼女は私に向かってウインクをした。そしてリップのついた唇を動かして、口パクで言った。


 あ・ん・し・ん・し・て。


 女性は私の進行方向の反対――つまり、男の方を向いた。


「マネーパワー!」


 女性が叫ぶ。すると彼女の手元に、私が持っているものと同じステッキが現れた。


「か、彼女は!」

 フランが私の頭の上に乗る。


「知っているの?」

「……知っているもなにも、この業界じゃあ有名マネ」


 フランが唾を飲み込んだのがわかった。というか唾出るんだ。


「彼女は、()()()()()()()篠崎(しのざき)ユカリマネ!」


「伝説の魔法少女!?」


「マネ……」

 フランの声色が変わっている。

 私は、篠崎ユカリと呼ばれた彼女を見上げた。


「弱い女の子を懲らしめるなんて、卑怯な男。ワタシが浄化してあげる☆」


 ユカリさんは、走ってくる男の方にステッキを向ける。


「悪きし魂よ、滅しなさい!」


 ユカリさんの言葉の後、ステッキからビームが飛び出す。


「あ、あれは千円のビームマネ!」

「あれが……」


 私は呆然と、その非現実的な光景を見ていた。


 男はユカリさんの出したビームを食らって、後ろへ吹っ飛んだ。さすが千円のビーム。フランから貰った魔法一覧表のとおり、拳銃並の威力のようだ。


「って、拳銃並って、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。彼ら、見た目以上にタフだもの」

 ユカリさんがそういって、私に手をさしのべてくる。


「だいじょうぶ?」

 彼女は私に向かって、優しく微笑んでくれた。


 心の中が、じんっと熱くなった。

 誰かに助けられることは、こんなに嬉しいんだ。

 私は涙ぐみながら、顔をあげる。


 ユカリさんの背後に、あの男が差し迫っている!

 今にも、あのコンクリートを砕いた拳を奮おうとしている。


「危ない!」


 私はステッキを握りしめて、先ほどの眉なし男に使った浄化魔法を使った。


 ぱああああ。

 白い光が私の体と、黒ずくめ男の体を包み込む。


「ナ、ナニっ」

 男は後ろへ後ずさる。


 ――やった!

 浄化魔法が成功した。そう思ったが――


「甘イナ」

 黒ずくめ男は吐き捨てるように言って、ユカリさんに向かって、またあの剛腕を振りおろす。


 ――ガッ

「甘いのは、どっちかしら」

 ユカリさんは、彼の拳をステッキで受けていた――いや、正確には受けていない。ステッキと彼の拳の間には、虹色のバリアーができていた。


「あれは五百円の打撃用バリアーマネ!」

 フランが叫ぶ。

 ユカリさんのこめかみには汗が伝っていた。

 かなり辛いのかもしれない。


「……そこのあなた」

「紅緒マネ!」


 なぜかフランが代わりに答える。


「そう、紅緒さん。私が一瞬隙を作るわ。その間に逃げるわよ」

「は、はい!」


 迫力に圧倒されて、思わずうなづいていた。

 ユカリさんがバリアーを解除する。

 黒ずくめの男がニヤリと笑う。


「くらいなさい」

 ユカリさんはそういって、先ほどよりも威力の弱い、たぶん百円のビームを放った。


「グゥッ」

 男は声を上げて、後ろにのけぞる。

「逃げるわよ!」

「はいっ!」


 ユカリさんの言葉に、私はうなづいて、走る彼女の背中を追いかけた。


「あれ? さっきよりも足が速い……?」

「アナタの足に、俊足になる魔法をかけてあげたのよ」


 ユカリさんが再びウィンクをする。この人、ウインクが好きなんだなぁ。

 景色が次々と変わる。まるで車に乗っているときのようだ。

 長距離、そしてかなりの速度で走っているのに、息切れも疲れも起こらない。これが「魔法」

 ビームに、バリアー。あれが魔法少女の戦いなんだ。


 それから、どのくらい走ったのだろうか。

 後ろを振り返っても、先ほどの男が追ってこないから、相当な距離は走ったと思う。


 日が暮れた夜の街路時。人通りは少なく、私を目撃するものは誰もいなかった。



「ここまでくれば安全ね」

 ユカリさんが足を止め、長い前髪をかきあげた。そして切れ長の瞳で私のほうに視線を向け、優しく微笑みかけてきた。


「あなた、見ない顔ね。新人さん?」

「は、はい……」

 私はステッキを掴んで頷いた。


「そう。魔法少女は大変だけど、がんばってね」

 ユカリさんは、そう言って、私の手を握ってきた。距離がとても近い。彼女の体の匂い、香水のような甘い香りが鼻をくすぐる。

 あれ? ユカリさんの顔、さきほどよりも老け――いや、疲れが目立っているような……。


「ワタシは篠崎ユカリ。あなたのお名前は?」

「わ、私は紅緒です。愛野紅緒」

「そう、じゃあ紅緒ちゃんって呼ぶわね」


 彼女さんの声色はとても優しい。まるでお姉さんに諭されているように、心が落ち着く。


「ユカリさんはどのくらい魔法少女をしているんですか?」


 私の横からフランがひょいっと顔を出した。


「彼女はアラ……――マネエエエエ」


 フランがユカリさんの出したビーム【百円】に弾きとばされる。


「ふ、フラン!? ユカリさんどうして!」


「あ、あら。手元が狂っちゃったみたい。ごめんなさい」


 ユカリさんは手を顔の前で縦にして、ごめんのポーズをとる。

 フランは黒インクで描かれた目からぼろぼろと涙を流し、「まね、まねぇえ」と鳴きながら私の背中に隠れた。


「ワタシはほかの魔法少女よりも、ほんのすこし長く魔法少女をやっていると思うわ」

「ベテランさん……なんですね」


 先ほどの彼女の戦いを思い出す。彼女は確かに戦いに慣れていた。

 このまま私一人で戦うよりも、誰かと協力して戦ったほうがいいんじゃないかな。


「ねぇ、フラン。協力した場合って時給一万円は減るの?」

「特に減らないマネ。ただ撃墜の決め手になった子にボーナスが支払われるだけで、時給自体の変動はないマネ」

「よっし」


 手元でちいさくガッツポーズ。

 長い髪をくるくると指に巻いて遊んでいるユカリさんに、私は頭を下げた。


「あの、ユカリさん。私を弟子にしてください!」

「弟子……?」


 ユカリさんはきょとんとした顔で私を見てる。


「はい。私、魔法少女になったばかりで、わからないことが多くて。このブタ――じゃなくてフランの説明はぬけ落ちている部分が多すぎてわかりづらいし……」


「失礼マネ! 紅緒の理解力、いや知能レベルがブタ以下なだけマネ!」


「どっちが失礼よ!」


 フランは私に向かってブブブと鼻を鳴らして威嚇してくる。

 私もイーッと歯を出して威嚇しかえす。


「うーん。いいけど条件が一つあるわ」

「条件?」

「ええ。プライベートでは会わないこと。電話ならオッケーだけどね」

「は、はぁ。わかりました」


「なら、紅緒ちゃん。今日からよろしくね」


 ユカリさんは優しくほほえみ、手を伸ばしてきた。彼女の切れ長の目が少し垂れて、涙袋が膨らんだ。

 私はその手をとった。温もりが手から伝わってくる。

 ――仲間ができました。



「ふぅ……」

 変身をとく。ひらひらとしたドレスから、Tシャツのジーンズの普通の服装に戻る。服が少ないから質素だけれど、正直魔法少女の格好よりもまともだ。


「ユカリさんは着替えないんですか?」

「え、ええ……私は、まだいいわ」


 ――気のせいかな。

 ユカリさんの肩がギクリっと動いたような気がする。彼女はひきつった笑顔のまま、ポケットから携帯を取り出した。


「それじゃあメアド交換しましょ」

「メアド……あの、私、ケータイを持っていないんです……」


 おそるおそる、顔を上げる。

 ユカリさんは、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべた。

 そりゃそうだよね。彼女の持っているケータイは、人気のスマートフォン。公衆電話でテレフォンカードを使っている私とは大違いだ。


「うーん。それじゃあ仕方がないわね。私が魔法少女として活動するとき、紅緒ちゃんが活動するとき、フランちゃんに連絡をするわ」

「そ、そんなことできるんですか!」


 初耳だ。

 フランの方に視線をむけると、フランはなにも知りませんよ~と言った表情で鼻歌を奏でている。


「ええ。魔法動物同士なら互いに通信ができるもの」

「魔法動物?」


 私が首を傾げると、ユカリさんは自分のポケットに手を突っ込んで、何かを握ったまま私の前に手を出した。

 ユカリさんの手の中には、五センチほどのミドリガメがいた。

「この子が私の魔法動物。いわゆるパートナーね。名前はドゥグルグよ」


 こーーーーーくーーーーーーーーり。

 ミドリガメはゆかりさんの言葉に同意するように、ゆーーーーーっくり首を動かした。


「じゃあ、私の魔法動物は……」


 横を見る。

 フランがドヤ顔をしていた。


「ゆかりさん、魔法動物、交換しませんか?」

「失礼マネ! フランはとーっても優秀な魔法動物マネ!」


 フランの頭上、コインを入れる部分から湯気が飛び出る。怒ってる怒ってる。


「ま、まぁ魔法動物の交換は聞いたことないけど、まだパートナーになったばかりなんでしょう? これから少しずつ絆を深めていけばいいと思うわ」


 ゆかりさんがキラキラとした瞳で力説してくる。

 ぴぴぴぴぴぴ。

 そのとき、ゆかりさんの方から電子音が鳴った。


「あら、もうこんな時間。そろそろ私は帰るわね。仕事を見つけたとき、連絡するわぁ」

「は、はい!」


 ゆかりさんは「じゃね~」と手を振り、ダッシュで帰っていった。魔法少女の姿のままで。

「……恥ずかしくないのかなぁ」

「ゆかりほどのベテランになれば、羞恥心なんて吹っ飛ぶマネ。彼女は魔法少女のプロマネ」


 魔法少女のプロ、篠崎ユカリさん。

 そして、私にできた最初の仲間。


「よーーーし!」

 少しずつ元気がわいてきた。

 すっかり暗くなってしまった空に向かって拳を突き上げる。


「がんばるぞー!」


 めざせ借金返済!

 逃げろ、蟹漁船!

 借金返済までまだまだ先は長いけれど、希望は見えた。

 がんばろう!


「あれ? でも、なんであの悪役には浄化魔法使えなかったんだろう」

 私は首を傾げる。

 フランがブヒッと鳴いて、一緒に首を傾げた。

 ――この役立たずめ。


更新忘れてました。できるだけ毎日投稿していきたいです。

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