神の屋敷と人の子
今回は少しグロ表現が含まれます。ご注意ください。
私は、地下に行ってみることにした。ここで最後にすることにした。
そして、ゆうきが何だったのかわかった。地下へ向かう階段を下りたところに、幽鬼と書かれた札があったのだ。電気のスイッチもあった。
その先は長い廊下になっていて、200年のうちに生贄になった人ほどの数はありそうなたくさんの
部屋だった。まるで地下牢のような……いや、地下牢の扉には名札がかかっていた。両サイドを一つひとつ見ていく。知らない名前がたくさんあった。中には、読めない漢字も。
何となく腐敗臭がある気がする。臭いと生贄の一生を考え、顔をしかめながら奥の方まで来た。奥にはまだ部屋があったのだが、小さい電球では頼りなくこの先がわからない恐怖と、今目の前の扉には「鳴海」の名札がかかっていたから。そして、鳴海のあとには名札がかかっていなかったから。
「ゆうき!! 」
勢いよく扉を開けて駆け込むと、何かが脛にぶつかって座り込んだ。勢いが余って前傾姿勢になると、額に何かがごつりと音をたててぶつかった。
姿勢を立て直すと、額から微かに血がにじみ出ているのがわかる。しかし、目の前の事が気になって仕方なかった。
「ぁ……あ、ゆう……き……」
部屋は、思っていたより随分と狭かった。その狭い部屋には粗末なベッドのみが置かれていて、片脇を人一人がなんとか通れそうなほどだった。私の脛に当たったのはこれだろう。勢いよく打ちすぎて、まだ脛がじんじんとしていて、立てない。泣きそうだ。
しかし、それよりも衝撃的なのは、ベッドの上だった。元は真っ白だったのであろう黄ばんだベッドの上には、真っ白な骨が。人の全身がそろった骨があった。寝かされていた。いや、寝ていた。この屋敷には誰もいなかったのだ。自ら寝たのだろう。その手は胸の前で組まれていて、何かを諦めて寝たのではと思えた。
ベッドには少しあのきれいな金髪が散らばっていた。
さっきまで様々な表情を見せていた顔は、映画やアニメなどでよく見る骨そのものになっていた。既に死んでいるとわかっていたけれど、本当はまだそのままでいるのではと思っていた。ゆうきのきれいな姿がそのままであるのではと思っていた。ゆうきが骨だけになっているだなんて、どうしても思えなかったのだ。
「……ゆうき」
ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝って床に落ちる。期待を裏切られて涙が止まらなかった。そして、初めてみた骨に、体中から力が抜けた。
しばらく泣くと、そのうち涙も枯れて泣くに泣けなかった。ただ茫然と座りつくし、腫れた目でゆうきを見続けた。
いつの間にか脛の痛みも治まって、涙も乾ききった時、思い立って立ち上がった。
骨を丁寧にとって、入れる物がなかったからスカートに受けた。全て拾って、表に出た。
行くところは地下で最後と決めていたが、最後、行きたい場所が出来た。外は、出てみると既に暗かった。家をこっそり抜け出してきて、一日が経とうとしていた。
骨をこぼさないように気を付けながら、この丘で一番街を見渡せる場所を探した。見つけて、穴を掘ると、骨を一つひとつ丁寧に入れて埋めた。
終わって立ち上がると、暗さから昨日ここに来たとほとんど同じ時間になっていることがわかった。しかし、昨日とは違う事があった。
小さく強く輝く無数の星が、夜の吸い込まれそうな黒に散りばめられていた。
「きれい……」
鳴海のそばに座って、空を見上げることにした。
「きれいだね、鳴海! 」
隣を見て、微笑んだ。
その少女の微笑みは、あの金髪の少年と同じだった。