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生贄

 「こんにちは」


つい無意識に顎を引き、相手を睨んでしまう。

 男の視線がつと動き、僕の後ろに向かう。


「そちらの方は? 」


「え? 」


僕は素っ頓狂な声をあげて振り向く。


「僕には何も見えませんね……どなたかいらっしゃるのですか? 」


男は少し青ざめながら、顔を引きつらせて無理に笑顔を作る。


「まさか。見間違えでした。人など、いるはずありませんね。だってここは、あなた以外住んでいないのですから」


「ええ。きっと幽霊でも見たのでしょう」


そういうと、男は明らかに体を震わせた。それがおかしくて、俯いて笑う。


 「どうかしたのですか? ……まさか、幽霊が怖い? なわけありませんよね。僕をここに閉じ込めて見張っている人が、幽霊が怖いだなんて!! 」


皮肉交じりに笑い飛ばす。男はなんとか冷静さを取り戻そうと、必死になっている。


「ええ、怖いですよ。これは町長からの命令であって、私が喜んであなたを閉じ込めて見張っているわけではありませんので」


「責任を町長に押し付けますか」


知らずしらず、冷たい声が出ていた。男はびくりとしたから、僕は笑顔を作った。


「僕は、確かにあなた方を恨んでいます。生贄は全員が賛成して決めるものなので、あなたも賛成したのでしょう? ですが、こうして食料を毎月届けてくださるあなたには感謝もしているのですよ。お入りくださいな」


 男はほっとした表情を見せ、後ろに山のように置いてあった食材を持ってついてきた。

 僕も男から凛を誤魔化せて安心していたが、どうやらそれは早かったらしい。凛は足早に駆け寄ってきて、僕の肩をぐいと引いた。


「ねえ、なんで私をいない人のように扱うの?? 」


一瞬で僕の全身から血の気が引いた。幽霊とされている凛が僕に触れたということは生身の人間だとバレる。


「鳴海さん、その方は……幽霊ではないのですか!? 」


バレた。


「ひどいわ! 私はちゃんと生きているじゃないの」


「……凛! 」


思わず叫んだが、ハッとして男の方を見ると、男はわなわなと震えていた。


「鳴海さん、だましましたね……? いつからこの方は屋敷に? 私はずっと玄関を見張っていたはずだ。食材が届いて受け取ったときだって、配達人以外に人影はなかった。まず、しっかり訓練された私が人の気配に気づかない事があるなど……!? そういえばさっき悲鳴と泣き声が聞こえたな、この娘のか。この狭い町で凛という名前は聞いたことがないぞ。前まで町人の資料を管理していた私が10歳頃の女の名前を忘れているなど。貴様、さては外の者だな!? まさかこの私が鳴海さんを危険な目に遭わすなど……クビだな。鳴海さんすみません。そして少しグロテスクになりますので、しばらくの間目を閉じて頂けますか」


男は早口にぶつぶつと呟いた後、僕に向かって謝罪してきた。凛はさすがにこれがまずい事態だと気付いたらしく、目を見開いている。


「いや、待ってください! この子は僕が入れたんです。そして僕からお願いがあります。お願いというか……」


「なんでしょう」


男は凛に鋭い視線を向けながら訊いてきた。


「あなたはこの事がバレたらクビになる。僕はこの子と一緒に居たい。そして、見張りの者があなたでなくなるのは嫌だ」


それは嘘だけど。


「だから……この子は僕と一緒に住まわせてくれ。ここにはあなた以外誰も近づかない。黙っていれば隠し通すことくらい簡単だろう」


「確かにそうですが……私は大人。あなたはまだ15歳。私の方が先に他界します。そうしたら、他の者が来るでしょう。そうなれば見つかります。そして、この者がこの先鳴海さんにどんなことをするかわかりません。生かすことはできません」


だろうな。

 予想していた通りの返答に、抱いていた僅かな希望を捨てた。


「でも、生きているだけで悪いみたいなことを言わなくても……」


 「ああ、そういえば、最近また天候がよくないですね? 今度は町の中心にある湖にすむ精霊が怒っていると考えられている。その生贄にこの娘を捧げましょうか。ちょうどいい。それなら、私はクビになりませんよね? ひとつ、あなたの願いは叶えられましたよ。では、そこに食料を置いていきますので、この娘は頂きますね」


「ま、待て、そんな……」


男が引きずっていく凛を掴もうとしたが、掴む前に玄関を閉められてしまった。追うことを考えたが、なぜだか玄関は開かなかった。

こんにちは、桜騎です! 前作からの連続投稿です。一作品一日一話にしています。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!

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