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土の国

●1

 土の国。

 鉱石の輸出や加工に優れた国。

 鉱石から溢れたマナによりモンスターの出現が多いとされ、ブラムゲット教授やダルシュ助教授も警戒している国だ。

 火の国とは友好関係にある。……といっても、恩恵があるかと言われると首をかしげる感じ。

 で、私はというと。

「国全体が鉱山になっているんですね! 地下に掘られた国なんて初めてみます〜!」

 完全に観光気分だ。

 地下に掘られた国、下に行くにつれ危険度は増すが純度の高い鉱石や宝石が採れるという。しかもその地下にも民家があるのは驚きだ!

「お城はどこにあるんですか?」

 王都に王城はつきもの。私の騒ぎに辟易していたダルシュ助教授が一軒の屋敷を指差す。

 それは王城というにはあまりにも小さくて。貴族の屋敷にしか見えなかった。

 それでも他の建物よりはだいぶ大きいけど。

「小さいんですね」

 ポツリと本音を漏らすと、ブラムゲット教授が説明してくれる。

「王城だと補修が大変です。その点、民家やあのくらいの建物だと補修が楽ですね。見張りは置いていますが、夜更けまで全ては目が届きませんし。土の国では効率が重視されます」

「ふむふむ」

 すかさずメモる私。

「では、今日は一晩ここで休みましょう。明日からは向かいますよ」

「例の場所ですね!」

「はい、その通りです」

 幻想種の居場所を口にしてはならない。先にそう言い含められていた私は、それっぽく言ってブラムゲット教授と笑い合う。

「観光してきても構いませんか?」

「いいですよ。ダルシュくんを連れて行ってくださいね」

「はーい!」

「俺の意思は?」

 二人で華麗にスルーする。はぁとため息をついたダルシュ助教授は仕方なさそうに、と持っていた大きい荷物をブラムゲット教授に差し出す。

「宿に持って行ってもらえますか?」

「もちろんです。サントゥルーさんをお願いします」

「はーい」

 ブラムゲット教授と別れ、私とダルシュ助教授は街に繰り出す。

 街といっても棚田のように段々になっている街は、市場らしきものは見当たらない。

 キョロキョロする私にダルシュ助教授はひとつひとつ指差し説明をしてくれる。

 なんだかんだ言って、ダルシュ助教授って優しくて親切だよね。

「あれが武器屋、左隣が防具屋。あれがたぶん宝飾屋ですね、入ったことはないですが。それでこっち側が──ああ、ちょうどいい。今騒いでるあれがモンスター、モグラ型のモールです。ここで一番でるモンスターです」

「!」

「モールがでたぞー!」

 男性の声にざわつく街中。

 私はノートにささっとモンスターの絵を描く。似てはいないが、特徴を捉えてればいいというブラムゲット教授の教えの通り、雑だ。

 現れたモールは全部で五体。火の国で街中にこんなにモンスターが現れたら、大騒ぎどころじゃない。

「退治は国の兵士がするんですか?」

「いいえ?」

 しばらく待っていると、民家から各々武器を持った屈強な男たち──中には女性や子供までいる──が現れ、モンスターを容赦なく攻撃していき。あっという間に退治してしまった。

 その間わずか十分足らず。

「すご……」

「こういったことが日常的にありますからね。土の国の民は強いですよ。兵士より」

「兵士より!?」

「モンスターに対しては、ですが」

「モンスター以外がいるってことですか?」

 何を意味しているかわからず問いかけると、ダルシュ助教授は曖昧に笑ってそれには答えなかった。

「あ、今槍を持った女性が入ったのが今日の宿です。その上の段は道具屋」

 ちょうどブラムゲット教授も入っていくところだった。岩壁に面した二階建ての建物。

「あの。武器屋みてみたいです」

「はいはい。じゃあ行きましょうか」

 どこから行くんだろうと見守っていた私を放っておき、ダルシュ助教授は岩を削り取って作ったらしい階段を降りて行く。それを慌てて追いかける。

(手持ちで買えるかな)

 今の火の国で買ったのもいいけど、もっと手に馴染むものが欲しいななんて。使わないのが一番だけれど、持つからには格好つけたい。

 両親が知ったら何を言われるかわからないけど。

 旅費は研究費からでるっていってたからそこは安心。

「待ってください!」

 慌てて後を追う。

 階段を降りて、棚の通路を進めば武器屋はすぐだった。

「防具屋はいいんですか?」

「あったほうがいいとは思うんですけど、剣術が我流なのでどういうものがいいかわからなくて……持ち合わせもないし」

「ああ。武器も修繕が必要なのは知ってますか?」

「!? い、いいえ。包丁みたいな感じなんですか?」

 知らなかった。切れ味が悪くなったら研いでもらうことなのだろうか。

 ダルシュ助教授は防具屋の前で立ち止まる。私も自然立ち止まり、二人で店先で立ち話している格好になった。

「武器屋の人に聞いてみるといいですよ。俺はそんな詳しくないし」

「はい」

 私が先に武器屋に入る。室内はひんやりとして、土の匂いがした。

 壁にびっしりと武器が飾られている。一つ一つ、剣ひとつ取っても形が違う。あとは槍が数本(形が違うけど名前がわからない)、斧にナイフ、杖まで売っている。

 他にお客さんが一人。中肉中背らしき鎧を着込んだ男性だ。

「わー」

 私は一つ一つを眺めて、店奥にドン! と構える大柄な男性にギクリとした。

 筋肉隆々といったところか、今にもはちきれそうな筋肉が眩しい。黒く汚れているのはなんでだろう?

「こ、こんにちは」

 思い切って声をかけてみる。男性はじろりと私を上から下まで無遠慮に眺めてから、口を開いた。

「ここは武器屋だぜ、お嬢ちゃん。用がねぇなら帰んな」

「あの、武器を探しています!」

 そこでまた男性はじろじろと私を見てくる、そして腰に下げたナイフを目に止めた。

「得物があるやねぇか」

「これは地元で買ったもので、土の国の武器が欲しかったんです」

「地元は」

「火の国です」

「火の国なら品質は十分じゃ。こっちはお飾りで売ってるわけじゃねぇぞ」

 ムッとした。私だってお飾りで持つわけじゃありません。これ以上は売り言葉に買い言葉、ここはぐっと堪える。

「手に馴染むものを探してるんです。見せてもらうだけでも……」

 男性は無言で飾ってある棚を顎で指す。その方向にはナイフや剣が飾られていた。

 私は頭を下げて、そちらに向かう。ダルシュ助教授は一人でぶらぶらしていた。

 ナイフはいくつも種類があった。

 まっすぐなもの、曲がったもの、先端だけが曲がったもの、包丁みたいに片刃のものもあった。

 私が手に馴染むものはどれだろう。

「突き刺すから片刃は違うし……今持ってるのは曲がってるけど使いにくい」

 導き出されるものはひとつ。まっすぐなものだ。恐る恐る手にとって、ずしりとくる手の重みに少しだけ緊張する。今まで持っているのとそんなに違わないのに。

 握る。少し太め。構える。重みは重心となって安定している。

「失礼」

 突然、誰かから腕を回され握りを深くされる。それだけでナイフは驚くほど手に馴染んだ。

 声のほうをみると、もう一人のお客さんだった。茶髪を短く刈り込んだ、茶色い瞳の見上げるほど大きな青年。

 身なりは鎧に身を包んだ、騎士のような出で立ち。傷だらけの鎧は修復した後だらけで歴戦の騎士を思わせた。

 目が合うと、ニッカリと人懐っこい笑みを浮かべる。

「余計なお世話にかもしれんが、ナイフはもっと握り込んだほうがええ」

「は、はい」

「お嬢さんまだ剣を使ってそう経っとらんじゃろ。怪我に注意せぇよ」

「はい、気をつけます」

 私が頭を下げると、男の人は壁に掛けてあった一本の槍を持つと先ほどの主人らしき人のところに持っていく。

 訛りの強い喋り方……土の国の方言かな?

「これ百本。納期は任せるのう。あと、あのお嬢さん、悪かない人じゃから良くしてやってくれ」

「ドルド様がそう言うなら……」

 ちらりと主人らしき人と目が合う。慌てて私は目をそらした。

「俺の言うことじゃねぇ、外からのお客を信用すんのも店主の役目やろう」

「む……」

 確かに、ともごもごと聞こえた気がした。

 騎士らしき男の人は、別れを告げると私のほうに近寄ってきた。

「ほんじゃあ、良き旅を」

「ありがとうございます。あなたにも火の精霊の加護がありますように」

「おお、そいつはありがてぇ」

 ニッカリと笑い、騎士らしき男の人は店を出て行った。

 残されたのは、店主と私とダルシュ助教授。ダルシュ助教授をみると、壁の品物を見ていてまるで気にしてないようだった。

 私は気合を入れ直してカウンター、店主の前へ。持っていたナイフを置く。

「これください」

「1800エンだ」

「……はい」

 ちょうど硬貨と紙幣を差し出す。数えた店主は、さらに手を寄越せとジェスチャーする。

「?」

 意味がわからず首をかしげた私に、店主はもごもごと口を動かす。

「今使ってるナイフだ。磨いちょる」

 どういう風の吹き回し……さっきの男の人のおかげか! と思い至った私は、腰のナイフを差し出した。

「急ぎかい?」

 ぶっきら棒に主人は問いかけてくる。ちらりとダルシュ助教授をみると、うんうんと何度か頷いた。聞いてないようでいて、聞いている。

「急ぎめで」

「明日の午後受け取りきな」

「よろしくお願いします」

 頭を下げた私に、主人は言う。

「あんたみたいな娘さんに武器を持たせないのが一番だ。でも女でも戦わなきゃならんときがある。娘さんはそう言う時のために武器を持つんだろう」

「……はい」

「じゃあいい。目的があれば武器は答える」

 それ以上、主人は語りかけてこなかった。潮時かなと振り返った私を、ダルシュ助教授が待っている。


 その日は宿に行き、翌日からの旅に備えることになった。

 部屋は三人一緒。研究費からでるとはいえ、無駄遣いは許されない。

 三人泊まるだけでも十分な広さがあった。ベッドの上で、わずかな灯りを灯しその日あったことをブラムゲット教授に報告した。

「武器屋で親切な方にお会いして、武器一つと磨きをお願いできたんです」

 女将さんにお願いして私が淹れたチャイティーを飲みながら、ブラムゲット教授はリラックスした様子で会話に入ってきた。

「サントゥルーさんは、出会いが良いのですね。あと人を惹きつける」

「そんな……私、そんなことないです」

 照れて否定すると、奥で椅子に深く腰を下ろしたダルシュ助教授が、チャイティーを飲みながら、意地悪く笑った。

「助けてほしいオーラが出てるんじゃないっすかね」

「助けてほしくはないですっ」

「今日なんて、お客さんに助けを求めてたじゃないですか」

「ダルシュ助教授が助けてくれないからですーっ」

 いーっと歯を見せてダルシュ助教授を威嚇する。

 ブラムゲット教授は楽しそうに笑っていた。

 ふと私に去来する。さみしい気持ち。

 私が四年間、学び、修了したらこの楽しい時間は少なくともなくなってしまう。気の早い話だけど、私はそれを惜しいと思っている。

「どうしました、サントゥルーさん」

「いえ! なんでもないです!」

「どうせまたくだらないことを考えてたんですよ」

 身も蓋もないダルシュ助教授の言い方に、とうとう私は持っていたナイフのレザーの鞘を投げつけたのだった。


 翌朝、旅支度を終えた一行に私は謝罪した。前日に伝えていたものの、やっぱり申し訳ない。

「いいんですよ。寝坊できましたしね」

 のんびりと朝のチャイティーを飲んでいるブラムゲット教授と、ダルシュ助教授。

「人相手ならシビアですけど、約束相手は人じゃないですし、問題ないでしょう」

「ありがとうございます……」

 二人に礼を言うと、私は観光したいと願い出て、一人で街に繰り出した。

 地下に掘られた街並みは、やっぱりなんかこう……くすぐられるものがある!

 ダルシュ助教授が言っていた宝飾店はあそこだったろうか、と曖昧な記憶を頼りに階段を上へ下へ。

 宝飾店を冷かした後は、街で一番大きな建物に目がいく。

 王の住まう屋敷……にしては、やっぱり手狭だ。近くまで行ってもいいだろうかと、私は建物の側に行く。

 見張りが扉の前にいた。

(これじゃゆっくり見られないわね)

 そう思い、さっさと踵を返した私。

 ちょうど、私より頭二つほど大きな体格のいい女性とすれ違う。

 茶色い髪、まとう雰囲気が昨日助けてくれた人とよく似ていた気がしたけど。

(気のせいね……)

 午後になった頃、私は武器屋に向かった。その頃には街中をある程度自由に動き回れるくらいには、街に精通した。ダルシュ助教授よりちょっと詳しい(えっへん)。

 武器屋は相変わらずひんやりしていた。お客さんは私以外におらず、店主は私をみると頷いて奥に引っ込んで行く。

 店主が戻ってくる間に手持ち無沙汰な私は、昨日の見れなかった棚をみる。

 身の丈ある剣や大きな斧、槍が所狭しと置いてある。

「おい」

「はい!」

 店主に呼びかけられ、カウンターに行く。

 スス汚れた布が二つ。

 店主は片方を解いた。私が元から待っていたナイフだ。新品のように艶めき、顔が映るほどだった。

 もう一つ、たぶん昨日買ったばかりのもの。はらりと布が解かれる。

 こちらは重厚だ。分厚く肉肉しい。ずっしりとしたものだ。

 両方を一本ずつ、手に取る。両方ともびっくりするほどよく手に馴染んだ。

「すごい……」

「研ぎ料はまけてやんで。よう使ってやれ」

「! あ、ありがとうございます!」

 さらにおまけに新しく買ったナイフの鞘までつけてもらい。私は二人に合流すべく走った。


「お、それらしくなりましたね」

 ダルシュ助教授が走ってきた私を見て、ニヤリと口角をあげた。

 私の腰には、右に柄が青い土の国で買ったもの。左に柄が赤い、火の国で購入したものがぶら下がっている。

「えへへ」

「腕前が追いつけばいんですけどね」

「ダルシュ助教授は一言余計です!」

「ダルシュくん……」

 私とブラムゲット教授から見られ、ダルシュ助教授はそっぽを向いた。都合の悪いところはそうやって聞かないふりするんだから!

「さて、それじゃあ出発しましょうか」

「はい!」

「はいはい」

 向かうは幻想種の住む場所へ!

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