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教授と私



 ない。



 合格表に私の番号がないのが、その時、私の運命を決した瞬間だった。


 家に帰ったのがいつか思い出せないまま、就職しなきゃね~と進学に反対していた両親が一安心だと、和気藹々と話しているところに一通の郵便がきた。

 私宛。

 送り先は受験した国立大学。

 陰鬱な気分で大判の封筒を開ける。

「拝啓、サントゥルー様におかれましては……モンスター学科への配置を検討しています!!!!???」


 モンスター学科。


 聞いたことも見たこともない。

 私の希望学科は、魔法学科だ!!

 混乱する頭に追い打ちをかけるように、来校する日にちと時間、持ち物、詳しい地図が書いてある。

 最後に、

『君の来校を心待ちにしています。

              ライドール・ブラムゲット教授』

 と手書きの綺麗な字で書かれていた。


 冷静になろう。

 母さんが淹れてくれたチャイティーを飲む。落ち着く。

 一つずつ整理していこう。

 私、ツラ・サントゥルーは、火の国の国立大学を落ちた。自動合格と言われている国立大学を、落ちた。

 同封されていた書類には、"成績が著しく低いため"と書かれていた。つまり成績が悪すぎて国立大学では引き取れませんということだ。

「うっ」

 向き合いたくない現実にぶち当たり、嗚咽が漏れる。悲しい。

 チャイティーを飲んで現実と向き合う。

 私は二に、魔法学科を希望していた。魔法学科は憧れの魔法使いとなれる学科だ! 国家公務員も夢じゃない!

 と思っていた私の甘さを打ち砕くように、魔法学科は私を締め出した。

 そこで拾ってくれたのが、この名前も聞いたことがないモンスター学科という学科だ。

 モンスターと言えば、時折町にも現れる、正体不明の害悪だった。人を襲い、時に命まで奪う。

 そんな害悪を研究する学科ということだろうか。そんな危ないものを研究する?

 もともと学ぶことは好きな私だ。──成績はともかくとして──モンスター学科がどんなところかちょっと気になった。

 書類とにらめっこすること数分。

 はらはらと私の決断の行方を心配していた両親には申し訳ないが。

 バンッ!!

「決めた!」

 心配そうな顔をする父さんと母さんにいい笑顔を向ける。

「私、モンスター学科に行く!」


 一世一代の決断をした。


●2

 数日後、指定された日にちと時間を確認して、私は国立大学キャンパス内を歩く。気分は憧れの学生だ。

 同封されていた地図を見ながら、進めば進むほど、人気のないところに入って行く。しまいには完全に人気がない路地裏のようなところに辿り着いてしまった。

 しかし地図は合っている。

 ごくりと唾を飲み込む。母さん特製チャイティーは水筒に持ってきたが、今は飲みどきじゃない。本能がそう告げていた。

 木製の扉を開ける。

 中は、牢獄のようだった。

 石造りの建物に、牢屋──牢屋だ、どうみても──が両脇に同数ずつ。入った正面に書類やら本やらが積み上げられていた。

 そこに一人の青年がいる。

「あ、あの!」

 青年が顔を上げる。い、イケメンだ!糸目だが、鼻筋は通り、顔面全体が整っている。二十代くらいの、糸目に赤茶の短髪だった。

 こんなイケメンと話したことがない私は狼狽えた。しかしここで逃げては、大学に入学できない!

「これ、本日モンスター学科に配属になりました、ツラ・サントゥルーと言います! よろしくお願いします!」

 持っていた同封の配属書類を差し出し、頭を下げた。

 しばらくして書類を受け取られる気配がする。

「あー、はい、はい。例の人ね。話は聞いてるよ」

「あ、あの、それじゃあ私」

「俺は助教授だから正式な手続きは教授が戻ってからね。ちなみに今日はもう帰らないと思うよ~」

「え?」

 帰らない?

 質問し直した私に、助教授と名乗った男性は書類の山に埋まりながら。

「フィールドワーク、行ったの。遅くても三日くらいかかるかなぁ。またね」

「え、ええーー!?」

 指定された日にちと時間なのに! いないなんて! 大学ってこんなところなの!?

 ぐるぐるしている私に助教授は「まだいたの?」と追い打ちをかけてくる。こ、この人見かけによらず責めてくる……!

 納得いかない表情を読み取られたのか、糸目の助教授は書類から顔を出して来た。

「ああ、今回は緊急だったから。いなくて申し訳ない。君がここに来たってことはちゃんと伝えておくよ。来て欲しいのは三日後、同じ時間。そんときは必ずいるように言っておくから」

「は、はひっ……」

 ふらふらがんがんと建物の角や物に当たりながら、私はなんとか家に帰った。

 気落ちしていた私を出迎えた両親は、

「やっぱり就職すれば?」

「お見合いしましょう!」

 などと提案してきたが。今は聞かない聞こえないことにしておこう……。


●3

 三日後。

 気合いを入れすぎると後で手がつかないことになる、と学んだ私は穏やかな気持ちで改めてモンスター学科の扉の前にいた。

 母さん特製チャイティー準備万端。書類はもう渡したから顔パスでいい……はず。

 扉を開ける。

 唸り声が聞こえたかと思うと、牢屋の柵を何かが激しく揺さぶる。

「ひっ!」

 逃げ出しそうになる足を堪えた。目の前には書類の山と本の山。そこから二つの頭が見え隠れしていた。

 ひょっこりと書類の山から顔を出したのは、三日前にいた糸目の助教授だった。

 バッグの紐を握りしめ、会釈する。

「教授、きましたよ。新人さん」

 ばさり、と書類が舞う、本が崩れる。もう一つの頭が伸びる。

 中年の片眼鏡の藍色の髪の男性がにこやかに顔を出した。そのまま周って崩れた本たちを避けながら私の下まできた男性は、にこやかなまま片手を差し出した。

「ようこそ、モンスター学科へ。僕はライドール・ブラムゲット教授と申します」

「つ、ツラ・サントゥルーと言います。配属していただきありがとうございます!」

 私は教授の手をとって、握手した。教授の手は父の手と違い遥かにゴツゴツしていて、

「あっ」

 傷だらけだった。

 ブラムゲット教授は、声をあげた私を特に気にした様子もなく手を引っ込めてから手のひらを見せてきた。治っているが傷だらけだった。

「職業柄、というやつですねぇ。僕には珍しくもありませんからお気になさらず」

「は、はい」

「君は自己紹介したのかね?」

 そう言って振り向いたブラムゲット教授は書類の山に埋もれていた助教授に声をかけた。

 いえ、と短く返答があり、助教授が書類の山から現れる。

 で、でかい。背がでかい。私が160cmくらいだから、頭三つ分くらい違う。

「モン・ダルシュ助教授。よろしく」

 短い自己紹介だった。

 手を差し出され握手に応じる。ダルシュ助教授の手も傷だらけだった。

「君には荒事はさせないので安心してください。嫁入り前のお嬢さんを傷物にするわけにはいきませんから」

「は、はい。では私は何をすればいいのでしょう?」


 ブラムゲット教授は、うーんと考えた後、少し崩れた書類と本の山をみて。

「まずは片付けをお願いします」

 とにこやかに言った。

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