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06 母

 1週間ほど歩くと平原に出た。鬨の声が聞こえる。金属のぶつかり合う音、爆発音。土ぼこりが立っている、あそこが戦場なのだろう。


「千里眼状態付与。」


 2人で状況を確認した。


「今まさに戦っているみたいだね。」


 小さなペンギンのぬいぐるみみたいなのが、ぴょこぴょこ戦場を歩いている。と思ったら、羽を目の前の魔物に向けた。


 ゴゴゴゥッ!!!!


 ペンギンの黒い羽からブリザードみたいなのが出て、目の前の魔物が一瞬で凍り付いて砕け散った。

 ペンギン、強ぇ。


 猫の獣人はすごい跳躍力で自分の5倍くらいありそうな馬の魔物に飛び掛り、爪で切り裂いていた。


「……獣人って強いんやねぇ。」


 次から次に魔物が現れては、獣人たちに倒されていた。

 個々の強さは獣人の方が上みたいやけど、魔物はどんどん数がでてくる。

 そう思っていた時だった。魔物側に、すごく強い個体が現れた。大きさは一戸建ての家くらいある。動物ではなく、機械のような外形だ。サイドにいくつも空いた穴から、マシンガンのような攻撃が放たれる。瞬間、多くの獣人が倒れ伏した。


「やばい、行こう、ウドさん。」

「うん。あの、さっき話していた作戦で。」

「そやな。移動速度強化付与、力持ち状態付与……」


 私はウドさんを抱えて猛スピードで走り出した。戦場との距離がどんどん縮まる。機械の魔物の30メートルくらい手前で、私は抱えていたウドさんを思い切り放り投げた。


「地球割り!!!」


 ウドさんがヒノキの棒を振り下ろした。武器術(棍棒)の技が発動する。


 ドガアァァァアアンッ!!!!!!


 機械の魔物は一撃で砕け散り、さらに残ったエネルギーで大地に大きな亀裂が走った。

 ウドさんのパワー、やべぇっ!


 ウドさんは武器術(棍棒)でいくつも技を持っているそうだ。しかし、ただでさえ悪い命中がさらに悪くなるらしく、使える場面が殆どなかったらしい。それで、ここへ来るまでの道中、遠くの敵に私がウドさんを放り投げて、ファーストアタックで敵を破壊したらどうかという作戦を考えていた。ここへ来てからの私の器用さはすごく高くなっているらしい。私の手で狙いを定め、砲台を発射するようにウドさんのスキルを使う。作戦は成功だ。


「すごい、一撃で!?」

「誰がやったんだ?」

「ウサギ族? 見ない顔だな。」

「増援だろうか?」


 皆がウドさんに注目している。ふふふん。


「ウドさん、やったな。」


 ウドさんに駆け寄ってハイタッチした。


「何だ、人間?」

「何で人間がこんなところに。」

「人間は、俺たちが必死で戦っているっていうのに、一兵も援軍を出していないはずだろ?」

「偵察か? 恥知らずな……。」


 あら。私は歓迎されてない感じか。私が悪いっていうより、人族自体が嫌われているみたいやな。

 なんて思いつつ、再び千里眼状態付与を発動して戦況を確認してみる。

 さっきの機械の攻撃で倒れた人たちは、後方に下げられて治療されているらしい。回復魔法がある分、即死でなければ助けられる可能性が高いようだ。ただ、皆、疲弊してきている上に、魔物の中にもポツポツと強い個体がいるらしく、遠くで見たよりも、獣人側が苦戦中だ。


「あ……」


 遠くの方で、リスの獣人が魔物に食べられてしまった。やめて、メンタル削れる。可愛いものが苦しんでるのは見たないんや! 


「物理攻撃力強化付与、物理防御力強化付与、魔法攻撃力強化付与、魔法防御力強化付与、敏捷性強化付与、器用さ強化付与、自己治癒力強化付与!!!」


 一気に魔力が抜けていくのを感じる。私の魔法が戦場一帯全ての獣人に付与された。


「ふぅ。流石にキツイ。でも、やっぱチートやな。ちゃんと全員にかかったわ。」


 私の魔法で獣人たちの動きは格段に良くなり、一気に魔物たちを押し始めた。


「えっと、ステータス……」


 山田花子 17歳 人間

 HP:元気 MP:枯渇

 ステータス:キモすばしっこい

       無駄に器用

 スキル  :ツッコミぐだぐだ

       補助魔法

       武器術(槍)


 ありゃ。やってもた。MPを使いすぎた。ウドさんが強い個体と戦うのを補助したかったんやけど、もう魔法は打てそうにない。

 そう思っていたら、ふわりと温かい力が流れ込んできた。


 山田花子 17歳 人間

 HP:元気 MP:少し

 ステータス:キモすばしっこい

       無駄に器用

 スキル  :ツッコミぐだぐだ

       補助魔法

       武器術(槍)


 MPが回復した。振り返ると、真っ白なウサギさんが立っていた。ウドさんと背丈は同じくらいだが、幅は半分以下、スレンダーなウサギさんだ。長い耳がピンと立っている。


「えっと、今のは貴方が?」


 多分、この人がMP回復魔法を使ってくれたんやと思う。


「人間の大魔道師様とお見受けします。ご助力いただき、感謝します。ですが、今は戦場。無事に生き残れたら、後でお話を。」


 それだけ言うと、白いウサギさんはすごい跳躍力で戦場を駆けていった。


「何者やろ、あのウサギさん。あー、でも今は考えてる場合やない。」


 ウドさんを探すと、数十メートル先で、強そうな魔物を相手にしていた。しかし、彼単独ではやはり攻撃が当たらない。


「ウドさん、今行く!」


 私はウドさんの救援に駆け寄り、2人で敵を倒していった。




 日が暮れる頃には、戦場にいた魔物を殲滅することができた。

 ほっと息を吐いていると、あの白いウサギが再び現れた。


「母さん。」


 隣のウドさんが呟く。え? あれが、ウドさんのお母さん!? 細っ。え? あのお腹からウドさんが出てきたん!??


「ウド。よく戦っていましたね。隣の人間の女性は、貴方が連れてきたのですか?」

「うん。花子は僕の相棒なんだ。」

「そうですか。素晴らしい人と出会いましたね。彼女の足をひっぱらないよう、励みなさい。」

「うん。ねえ、母さん?」

「何ですか?」

「僕の本当のお父さんって、誰?」


 ……ぶっ。ウドさん、直球っ。しかも、周り、人めっちゃおる! こっち見てるって。


「貴方がアレ以外の別の父親を望む気持ちは分かります。しかし、残念ですが、貴方の父親がアレ以外である可能性はありません。」

「そっか。」


 ウドさんがじーっと母ウサギを見つめる。彼女もウドさんを見つめていた。


「突然ここに来たということは、村で何かあったのでしょう。話は後で聞きますが、まずは、軍議があります。貴方たちも来てください。」




 ウドさんのお母さんに案内されて歩いていくと、大きなテントがいくつも張られたエリアに来た。ここで皆寝泊りしているみたいだ。道中、ウドさんのお母さんの名前を聞いた。マーマーさん。やっぱ、ネーミングセンスはアレやった。

 一番大きなテントの前で立ち止まると、マーマーさんが中に入った。私とウドさんもそれに続く。


「マーマー殿、来たか。これで揃ったな。後ろにいるのは誰だ?」


 中では様々な種族の獣人たちが、大きな地図を囲んでいた。その中央にいたペンギンがマーマーさんに声をかけてきた。さっき聞いた話からすると、あのペンギンがこの軍の総大将、ペンギン帝国の女帝、皇帝ペンギンのクインペンさんのはずだ。


「私の息子のウドと、その協力者の花子です。今日、参戦しましたので連れてきました。」


 マーマーさんが言うと、周囲からは、


「ああ、あの巨大魔物を倒したウサギ族の青年か。」


 と、真っ白いモコモコクマの獣人さん。


「今日、あの2人に急場を助けられました。」


 と、眼鏡をかけた凛々しいワンコさん。


「私たちもだ。手ごわい魔物をものの数分で倒していた。」


 と、まったーりした感じのコアラさん。


 皆、好意的な反応でよかった。後、獣人、可愛い。ペンギンさんやニワトリさんも居るし、鳥人も獣人カテゴリに入るらしい。


「マーマー殿の息子はおっとりしていると聞いていたが、ものすごい勇者じゃないか。それに、隣の人間の魔法は、私も感知したが、恐らく、全人類で最高クラスの補助魔法使いだな。何者だ? 人族の国は、魔王討伐に軍を出すと言ったまま、準備に時間がかかるとかで誤魔化して、我々に協力する意志はないようだったが。」


 クインペンさんが言うと、マーマーさんが私の方を向き、テント内にいた皆の視線が私に集中した。これは、私が答えなあかんのか。人前で喋るん苦手なんやけど。


「……ええと、私、人族の国から捨てられて、森を彷徨っていたところで、隣にいるウサギ族のウドさんに会いました。以来、ずっと彼に同行していて、この戦場にも彼の用事で来ました。」

「捨てられた!? それだけの能力があって捨てられるだと!?? 何かとんでもない悪事でもしたのか!?」

「いえ、何もしてません! 多分、私を捨てた人たちは、私の能力を知らなかったはずです。」


 周囲がざわつきだした。「馬鹿な……」とか、「これだけの能力者を国から出すなど、信じられん。」などという声が聞こえる。


「ふむ。にわかには信じられない話だが、今は信じよう。その上で、花子殿、我々に協力してくれないだろうか? 人間の国は、恐らく、我々獣人が魔王軍と戦って疲弊するのを待って、魔王軍と獣人の国々、どちらも蹂躙する気だ。だが、状況は甘くない。魔王軍は強い。このままだと、我々が滅びた後、人間の国も潰されるだろう。頼む。我々が滅びた後に、魔王軍を倒せる可能性はないんだ。」


 ペンギン女帝の言葉に、私はドキリとした。こうも真正面から頼みごとをされた経験は今までになかった。何せ、地球での私はクラスカースト最下位の底辺女子。誰も相手にしなかった。……でも、今は1人ではない。相棒がいる。

 私は隣のウドさんを見た。彼はしっかりと頷いた。


「分かりました。できるだけのことは、頑張ってみます。」

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