05 決闘
「それでは、真剣勝負の決闘だ。お互い、殺されることも覚悟の上。それでも、要求を通す。いいな。」
ウドさんパパ、イケズの声に、皆、頷いた。
「それでは、始め!」
声と同時に、ウサギ2人が飛び掛ってきた。素早い!
ワルガキとナマイキは、今まで戦った敵の中で一番すばしっこかった。そりゃ、そうか。ウサギなんだから、普通は敏捷性と跳躍力が優れた種族になるはずやな。ウドさんが例外なんやろう。
「移動速度強化付与、物理防御力強化付与、魔法防御力強化付与、敏捷性強化付与、器用さ強化付与、自己治癒力強化付与!!!」
ウドさんには物理防御力強化を最大でかけた。正直、2匹相手やとすばしっこすぎて、攻撃がウドさんにまで漏れてしまう。私は何とか2人の攻撃を受けようとしたけど、小さいし速いし、ちょっとキツい。でも、攻撃自体は軽いから、防御力を強化したら、ウドさんにダメージは入らなかった。
「くそ。ウドのやつ、鈍いけど、頑丈。」
「壁を殴ってるみたいだ。」
敵は2人とも息が上がり始めた。
「切っちゃえ。」
ここまで爪で攻撃していたワルガキがナイフを、ナマイキがナックルを装備した。
まずいな。
可愛いウドさんが血を流しでもしたら、私のメンタルがヤバイ。
「パラライズランス!!!」
私はウドさんに切りかかろうとしていたワルガキを痺れさせた。
「今や! ウドさん!!」
「うん!」
パッコ――ンッ!!!!!
ウドさんの渾身の攻撃が、ワルガキの頭に当たった。ワルガキはパタリと倒れて動かなくなった。
「え?」
驚いたナマイキがワルガキをツンツンする。返事がない。ただの、屍のようだ。
え? えええ? ええええええぇ!?????
私は召喚されてからこれまで、どこか、現実感のない状態できていたのだと思う。魔物は倒していたけれど、ゲーム感覚だったのだ。
ワルガキはウドさんを苛める嫌な奴やったけど、可愛いウサギさんなのだ。それが、目の前で死んでもった。私は頭が真っ白になった。
「ワルガキ、ワルガキ……」
ウドさんのお父さんの声も震えている。
「ぐ……、こ奴らを捕らえろ! ワシの子どもを殺したんだ!」
イケズが叫ぶ。
「ちょっ、決闘なんやから、仕方ないやろ!」
「父さん!」
「うるさい! お前など、ワシの子じゃない!」
イケズは憎しみに溢れる目でウドさんを睨みつけた。
「そんな、父さん……」
「お前なんか、あの女がどこかの男と勝手に作った子どもだろう。ワシの子は、ワルガキとナマイキだけだ! それを、お前が殺した……!! さあ、皆、遠慮はいらん。そこのウサギ族の落ちこぼれと邪悪な人間を捕らえるんだ! 暴れるなら、殺せ!!」
怒鳴り散らすイケズの声に、呆然としていたウサギ族たちが武器を構えだした。まずい……。
「移動速度強化付与、力持ち状態付与!」
私は自分に強化魔法をかけ、ウドさんを抱えて走り出した。ウドさんの足は補助魔法をかけても遅いから、すばしっこいウサギたちに追いつかれてしまう。これが一番速く逃げられるだろう。
「待って! 父さん! 父さんっ!!」
混乱したウドさんが腕の中で暴れるが、補助魔法で強化した腕で何とか押さえて私はひたすら走った。
全力で走る私には追いつけなかったのだろう。暫くすると、敵はすべて撒くことができた。
「父さん、そんな、父さん……。」
ショックが大きかったらしく、運んでいたウドさんをおろしてあげると、膝を抱えて座り込んでしまった。
私もウドさんの近くにしゃがんで、そのふかふかの背中を抱きしめた。
「ウドさん、悲しまんといて。」
背中をさすると、泣き出すかと思ったウドさんは、気丈にも顔を上げて私と目を合わせて言った。
「ごめん。森の中で気落ちなんてしてたら、危険だよね。こうなったら仕方ない。母さんのところに行こう。あれは、正当な決闘だった。母さんに取り成してもらったら、村にもまた戻れると思う。」
ウドさんの真ん丸いお目々は涙で潤んでいる。それでも、健気に頑張ってはる、ウドさん、ごっつ可愛いええ子や。
私たちはそのまま、ウドさんに先導されて、ウドさんのお母さんがいるという場所へ向かうことになった。
確か、ウドさんのお母さんは、魔王と戦うために前線にいるんよなあ。危険地帯やけど、行くしかないか。