02 ウサギ族
ウドさんに連れられて暫く歩くと、開けた土地に出た。色とりどりの野花が咲き乱れる奥に、小さな集落があった。
「ウサギ族の村だよ。」
ウドさんに続いて村に入った。中では、小さなウサギがちょろちょろしていた。みんな、ウドさんより背が小さいし、腹回りも大人しい。ウドさん、人間でいったら相撲取り体型か。
村に入ってもウサギ族は誰も近寄ってこない。遠巻きにこちらを眺めて、小声でひそひそと何か言っている。
「ウドだ。相変わらず無駄にでかい。無駄飯食い。」
「ウドの大木。」
「隣に連れているのは、何だ? 何だ? 毛がなくてつるつるしてて気持ち悪いぞ。」
「顔も小さいぞ。」
「手足が長いぞ。」
「きもいぞ、きもいぞ。」
「何だあのウエストは、ふくらまずに逆にくびれているぞ。」
「おかしいぞ。異常に醜い生き物だ。」
「不細工のウドがさらに不細工を連れているぞ。」
ウサギたちはひそひそ話なのか、こちらに聞こえる嫌味のつもりなのか、ウドさんと私のことをディスっているようだ。
「……ごめんね。僕、この集落で嫌われ者なんだ。僕のせいで、君のことも、すごく悪く言われてる。」
「いや、ええよ。顔が小さくて手足が長くてウエストくびれてて肌つるつるは事実やから。」
事実やから。
事 実 や か ら 。
事 実 や か ら 。
考えてみると、ぬいぐるみは頭が大きくて手足は短くてお腹が出てる方が可愛いよなぁ。
ぬいぐるみから見たら、人間はその真逆のきもい生き物になるのか。
暫く歩いて、他より少し大きくて立派な家に入った。ここウドさんの家? あれ、嫌われてる割に豪勢な家に住んでるなぁ。
真ん中に囲炉裏がある昔の日本みたいな家で、藁でできてるっぽい座布団に座ると、ウドさんがお茶を出してくれた。湯呑みは厚手で少し歪んでいて、手作りっぽい。
「改めて自己紹介するよ。ウサギ族の族長の長男、ウドだよ。」
「え、族長の子!?」
それで何であんなディスられてるん? って顔に出ていたらしく、ウドさんが答えてくれた。
「獣族の族長は強さで選ばれるんだ。僕の母さんは血筋はあんまり良くなかったけど、圧倒的な強さで族長になった。それで、有力者の男と結婚したんだけど、うまくいってなくてね。2人の子どもは僕だけ。父は他に妾との間に何人か子どもがいる。今、母さんは復活した魔王に対処するために戦地に出ていて、村のことは父が仕切っている。その父に僕は嫌われているんだ。」
「なるほど。ややこしいことなってんのやね。」
ウドさんは悲しそうに小さく頷いた。こんな可愛いウサギさんにも、ドロドロした関係があるとはねぇ。切ないねぇ。
「僕のことは大体説明したよ。次は君のことを教えて。」
ウドさんのまあるい瞳がまっすぐに私を見ている。ウドさん、本当、ええ子やなぁ。突然現れた私のこと、根掘り葉掘り聞いてもええのに、まず自分の言いにくいことから言ってくれるし。トリップ前の世界でもこんなええ人会ったことないかもしれん。
「えっと、信じてもらえるか分からんけど、私、異世界から来てん。」
「異世界?」
「うん。人間の国の奴らが、聖女召喚とか言っとった。でも、聖女は他に召喚された奴で、私は違うかったから、捨てられた。」
言うと、ウドさんは何度か瞬きして、
「無理やり連れてこられたんでしょ? それなのに、捨てられたの?」
「うん。」
ウドさんは大きなため息を吐いた。
「ウサギ族もあまり良いものじゃないけど、人間も酷いね。」
「そやねぇ。」
「そんな状況じゃ、頼れるものもないよね。生計を立てられるように考えないといけないか。ステータスは見た?」
「ステータス?」
「……そんなことも教えられなかったんだ。『ステータスオープン』って言ったら、自分のステータスが見られるよ。続けて『公開』って言ったら、他の人にも自分のステータスを見せることができる。」
何それ。めっちゃテンプレやん!!!
「ステータスオープン、公開!」
山田花子 17歳 人間
HP:元気 MP:満タン
ステータス:キモすばしっこい
無駄に器用
スキル :ツッコミぐだぐだ
補助魔法
……。
…………。
………………何でやねんっっっ!!!!
HP:元気? HPって、ヒットポイントでしょ? ポイントは? 数字は??
ステータス『キモすばしっこい』って何? すばしっこいって、素早さ? AGI? 敏捷性? 数値化して、数値化。
いや待て。まさかの二重鑑定できたりする? 『キモすばしっこい』を二重鑑定。
『キモすばしっこい』――気持ち悪いくらい素早い。
いら――――んっ!!!! そんな説明二重にいらんっ!!!!
とか、私がひとりツッコミで遊んでいる間、ウドさんも私のステータスをしげしげと眺めていたらしい。
「花子は素早いのか。いいな。僕とは正反対だ。」
そう言って、ウドさんもステータスを見せてくれた。
ウド 17歳 ウサギ族
HP:満タン MP:余裕
ステータス:うすのろい
ウドの大木
馬鹿力
スキル :いい人
武器術(棍棒)
格闘術
……みんなこんな感じで書かれるんか。この世界の人らはそれでええんかな。
「ウドさんは力が強いんね。武器術とか補助魔法とかはどんななん?」
「MPを使うスキルだよ。武器術や格闘術は、魔力で強化した動きや特殊効果を付与した技を使うことができるようになるよ。魔法は治癒魔法、攻撃魔法、補助魔法の3つに分かれてるんだよ。でも、人によって使える魔法は違うかな。二重鑑定したら使える魔法が分かるよ。」
ふむ、二重鑑定、補助魔法。
『補助魔法』――移動速度強化付与、力持ち状態付与、知覚強化、千里眼状態付与、敵ステータス予測、物理攻撃力強化付与、物理防御力強化付与、魔法攻撃力強化付与、魔法防御力強化付与、敏捷性強化付与、器用さ強化付与、自己治癒力強化付与、治癒魔法強化、詠唱短縮、詠唱破棄、MP回復、回避力上昇、毒耐性付与、魅了耐性付与、魅了解除、睡眠耐性付与、睡眠解除、混乱耐性付与、混乱解除、石化耐性付与、石化解除、痺れ耐性付与、痺れ解除、敵強化魔法解除、ガードダメージ回避状態付与、ダメージMP変換状態付与、水中活動補助、オートマッピング、ライト、クリーン、クリーンウォーター、水浄化、ワープ、ダンジョン脱出……etc,
なんじゃこりゃ……。
「……なんか、めっちゃいっぱい出てきて、頭痛い。」
「そうなの? 普通は5~10くらいなんだけど、すごいね。」
「でもこれって、どうやって使うん?」
「使いたい魔法の名前をイメージしたら、詠唱する呪文が頭に浮かんでこない?」
えっと、無難なところで、『移動速度強化付与』とか、いけるかな。
そう思った瞬間、自分の身体の回りを何か空気の層のようなものが覆った。
「あれ?」
詠唱してないけど、どゆこと?
「どう? 使えそう?」
ウドさんにも『移動速度強化付与』、できるかな。
「あ、使えてるみたいだね。でも、いつ詠唱したの?」
「……いや、詠唱要らないっぽい?」
「……すごいね。」
ウドさんのまん丸お目目がさらにまあるくなった。
あれ、私、もしかして、チートか!???