01 召喚される
放課後、帰り支度をしていたら、足元が発光し始めて、「えっ!??」と思った瞬間には異世界やった。
目の前にやたらとイケメンの王子様がいて、隣見たら、クラスで一番美人の姫百合さんがいた。
あ、展開見えた~と思ったら、王子が姫百合さんを見ながら「聖女様。」って、こっち一瞥もしないでやんの。
周りの偉そうなやつらみんな、こっち無視で姫百合さん囲んでて、暫くしたら姫百合さんだけ連れて部屋を出て行った。
どうすんねんと思ってたら、職員っぽい人が来て、別の部屋に連れて行かれた。
これあかんやつや。よくあるラノベとかやったら、実は私のほうが聖女やったとか、この後、すっごいイケメンが現れて保護してくれるとかなんかあるんやけど、いや~、私やしな。
え? 私がどんなかって?
ん~。ちょっと仲良くなった奴に私の第一印象を聞いたら、「初対面からこの子腐女子やろなと思ってた。」とか言われるで? で、「失礼な、夢女子じゃ。」言うたら、なんかさらにドン引きされたな。
いや、腐女子の方がキモイやろが。「夢女子って、漫画のキャラと自分が恋愛してるところとか妄想するんだ。」ってうっさいな、人の趣味やろ、ほっとけ!
とりあえず、別の客室っぽいところに案内されて、そこに泊まることになった。
この先、どうなるんかなー。
予想1.聖女様じゃないし間違えたから元の世界に返してくれる。
2.元の世界に戻れないけど生活の保障はしてくれる。
3.当面の生活費を渡して街で自活しろと言われる。
4.森に捨てられる。
5.邪魔だからと殺される。
6.異世界人は希少な素材だからと何かの実験に使われる。
雰囲気的に1と2はないわ。姫百合さん性格悪いから、私を庇うってこともありえへんし。
3だといいけど、4でもまだマシかな。何か5か6っぽいよなー。んで、ラノベやったら復讐系主人公か。いやでも、復讐系って意外とイケメンでモテ男でハーレムとかつくりおるよなぁ。
逆ハー? 逆ハー(笑)? ブス囲んでイケメンばっかりの逆ハー(笑)? ないわないわ。
なーんて、思ってたら、次の日、森に捨てられた。
結局4かいっ!!!!
さて、これからどうなるんかなー。
人里離れた森の中やし、飢え死にするか、その前に獣に食われるか。
物語やと、魔物が突然襲ってきて、
予想1.放浪中のイケメン騎士が魔物から助けてくれる。
2.突然の能力覚醒! チート能力で魔物相手に無双開始。
3.そのまま魔物に食われる。と思ったら、食った魔物の身体を乗っ取るとかで人外アドヴェンチャー開始。
4.魔物に食われる。死んだら何も残らない。
4か3やな。3やと今不細工でも何の支障もないから、3かなー。ブスのままチートの2も捨てがたい。ブス=個性で、個性的チート無双か。
1だけはありえへん。メッタメッタに言うけど、これ書いてるんは、「ピンチを助けられるだって? そんなの、一部の可愛い子だけでしょ。男が助けにくるなんて、くるなんて、あるわけないのよ……。」とかブツブツ言ってる感じの女やからな。絶対ない。他所の小説見て、ピンチに主人公溺愛の万能イケメンが助けに来る展開とか見るたび、「あたしは、あの時もぉ、あの時もぉぉぉっ、誰も助けに来なかったああああぁああっ!!!」とか発狂しているようなんやしなあ。1だけは絶対にないっ!
なんて考えていたら、目の前の茂みがガサゴソして、イノシシみたいな獣が現れた。その身体からは不気味な黒いオーラがあふれ出ているのが見える。多分、あれが魔物なんだと直感した。
「ま、じ、で、死ぬ~ぅぅっ」
あまりの恐怖に私はその場で固まって動けなくなってしまった。魔物は私を獲物と見定めたらしく、飛び掛ろうとした。しかし、瞬間、
パコ――ンっ!!!
魔物は背後から棒のような物で叩かれ、倒れてしまった。
「大丈夫!??」
魔物の後ろから誰かの声がする。
って、まさかの展開1かいぃぃいぃぃっ!
現れたのは、もふもふ……、もっふもっふのウサギさんやった。動物というよりは、着ぐるみって感じや。二足歩行している。ファンタジー世界だから、獣人ってことか!?
――イケメン溺愛展開なんて許さない。でも、もっふもふモテモテならいいじゃない!
天の声が聞こえた気がした。
そやね。男よりもふもふやね。そやね、そやね。わかるで、その悟りの境地。
「あ…、ありがとうございます。あなたは?」
近付いてくるウサギさんは、私よりちょっと身長が低いくらいだから、150cmくらいだと思う。ただ、横幅は私より大分ある。もっふもっふのお腹がぷくーっとしていた。触りたい。
「僕はウサギ族のウドだよ? 最近、魔王が復活したせいで、この辺にまで魔王配下の危険な魔物が出没してるから、見回りしていたんだ。君は、人間だよね? 何でこんなところにいるの?」
至近距離でウサギ族のウドさんの円らな瞳が私をじーっと見つめてくる。ウドさんは、晴れた空のような青い色のウサギさんで、お腹は真っ白、目はこげ茶で、耳はたれ耳だった。本物のウサギというより、ぬいぐるみっぽいウサギさんだ。
「私、人の国から捨てられたみたいで。この森に置き去りにされたんです。」
ウドさん、見るからに優しそうな感じのウサギさんやし、正直に困っていると言ってみた。助けてくれたらええなーって感じやけど、面倒だって放って行かれても、ウサギさん相手なら恨まない。可愛いは正義やし。
「それは困ったね。この辺にも魔王の生み出した魔物が出没するようになっているから危険だよ。何もないけど、僕の家にくるといい。」
ウドさんは、すぐに私を保護すると言ってくれた。天使だ。天使のウサギさんだ!!!
天使のウドさんは血のついた木の棒(ヒノキの棒?)とか持ってて、もふっとした太い腕は、毛の下すっごい筋肉なのかもしれないけど、可愛いからいいんだ。天使ウサギさんだ。
喜んで私はウドさんの後ろについて歩き始めた。暫く歩いたところで、ウドさんが振り返った。
「保護はしてあげるけど、これから連れて行くのは、あまり気分のいい場所じゃないかもしれない。ごめんね。」
ウドさんのまあるい瞳は、どこか悲しそうだった。




