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ファミーユの副店長戦線  作者: 天 乱丸
【第四話】
55/56

【8オーダー目】 前途多難

 


 極悪女王の巻き添えとなってある意味では体育祭の花形ともいえるダンスパフォーマンスに任命された日から二日が経った。

 明日からは五限、六限が約一か月後に行われる体育祭準備に充てられることになっていて、その前段階として今日の放課後に各組が担当ごとに集まっての顔合わせや段取りの説明会が行われる。

 行きたくね~、と一片の疑いもなく抱く揺るぎない気持ちを否定出来る材料は皆無なのだが……こればかりは別にダンスであろうと小道具であろうと変わらないので文句を言っても回避の術は無い。

 とはいえこんなもんは始まる前から棲み分けがされていて、ダンスなんざ陽キャの集まりで裏方は文化系や陰キャがやると相場が決まっているってもんだ。

 だからこそ未だ納得が出来ん、何が悲しくて俺が陽の当たる世界に巻き込まれるんだ如月の野郎。

「はぁ……」

 既にやる気などゼロをすっ飛ばしてマイナスグラフを突き抜けている。

 一人とぼとぼと多目的室に移動する足はどうしたって元来持ち合わせている陰鬱さを三倍マシにしていることが自分でも分かった。

 一縷の望みを託して相談した我らが店長耶枝さんがすんなり了承しちゃったためもう俺に逃げ道などない。

 そりゃ学校行事を持ち出してノーの言葉を突き付けるような人ではないことなんて知っていたけども、何なら精一杯楽しみなさいと笑顔で俺と如月を応援しちゃうのだから今ばかりはその人の良さが恨めしい限りである。

 つーか『本番はお店は休みにして見に行くからね♪』とか言われても最悪度が増すからマジでやめてほしい。

 こちとら両親にすら言ってないのに……。

「なあおい秋月」

「……ん?」

 指定された教室に入ると、既に多くの生徒が集まっていた。

 黒板に書かれた文字列を読み解くに、三列に並べられた長テーブルが学年ごとに振り分けられており右から三年、二年、一年となっているようだ。

 この学校の体育祭は一学年六クラスが赤、白、青の三つのチームに分かれて競い合うシステムである。

 俺の居るクラスは白組に振り分けられていて、白咲さんの白とはなんて縁起がいいんだ。とか俺は勝手に思っていたりする。いや、ハナっから勝ち負けとか何一つ興味ないけど。

 若干話がそれたが、要はこの教室には各学年の白組ダンス担当者が集まっているわけだ。

 棲み分けの話そのまんまに当然の如く男子陽キャ軍団が前の方を陣取り、その後ろに女子が固まり、一番後ろの俺、ぼっち。

 目立たなければ何でもいいかと息と存在感を潜めていたところに寄ってきたかと思うと同じく声を潜めて話しかけてきたのは何を隠そうある意味如月の次に俺がこの場にいる原因を担っている東城だった。

 余程周囲に聞かれたくないのか、やけに小さい声で的外れなことをほざき始める。

「俺が如月とペアってこといいだろ?」

「それでいいからもう俺を開放してくれない? 誰も知らないところでポンポンとか作ってる方が性に合ってるから俺」

「そういうわけにもいかねえだろー。あいつもお前と組めるなら予定が立てられるからって了承したんだから」

「如月の前にまず俺の了承を得るところから始めるという発想はないんですかね……」

 最近こればっか言ってる気がするんだけど。

 とうとう学校でも口にするようになっちゃったよオイ。

「まあそう言うなって。こういうのも青春ってやつだろ? おっと、つーことで俺は戻るからよろしくな」

「え?」

 いつ話終わったの?

 思いつつも、東城は仲間に呼ばれて前の方へと戻っていく。

 ポツンと残された俺は数秒間その遠ざかっていく背中を睨み付けたのち、他の奴と目が合ったら気まずいのですぐに一人で俯き時間が過ぎるのを待つ作業を再開する以外に行動の選択はなかった。

 そんなことをしているうちに教室は大勢の生徒で埋まっていき、やがて顔合わせという名目の会合が始まる。

 あちらこちらで談笑が続くざわついた雰囲気を黒板の前に立った一組の男女が制し、視線を集めた。

 話の流れからすると三年の体育委員らしい。

 どうみても運動部のモテキャラと思われる爽やかイケメンとショートカットのスポーティーなお姉さんだ。

「俺は三年の田村、そしてこっちが同じく三年の中島だ。ここでのパートリーダーをさせてもらうことになった、皆よろしく頼むよ」

 爽やか先輩が自己紹介をすると、スポーティー先輩も『よろしくね~』と砕けた挨拶を続ける。

 パラパラと疎らに拍手が起こると二人はにこりと微笑み、脇に控えている体育教師、ゴリラこと馬場先生とアイコンタクトを交わして本題へと移った。

「明日の午後からは曲を決めたりペアや配置なんかを決めて出来るだけ早く練習に取り掛かれるようにしたいと思う。今日は顔合わせだけだけど、何か提案やアイディアがあれば学年関係なくどんどん発言して欲しい」

「部活、その他みんなにも予定や事情があると思うけど、一致団結して全員で特別賞を取れるように頑張りましょう」

「振付に関してはダンス部が担当することになっている、使う曲に関しては案を出してもらって話し合いの予定だ。投票でもいいんだけど、大勢で踊ったり振付をするには合う合わないってのがあるから……」

 と、そこまで爽やか先輩が言った時、教室の入口開いた。

 現れたのは何やら若い女教師らしき人物と二人の女生徒だ。

 その姿に教室内がざわつく。

 それもそのはず、今や学内ではちょっとした有名人である金色と金色混じりの頭髪がいかにも警戒色である女子二人組は今や誰もが近付きたがらない危険物だった。

 有名といっても勿論悪い意味なので皆の驚きも当然悪い意味で、その見覚えのある二人組に俺も一気にげんなりした。

 一年のチンピラコンビ、その名もピンクである。

 何故あいつ等がここに現れるというのか。

 いや、そりゃ理由なんざ一つしかないんだろうけど……お前等絶対積極的に参加するタイプじゃないだろ。

 ああそういえば体育は好きとか言ってたっけなこの前。

 なるほど、あれが噂のイベントだけ張り切りだすヤンキーか。

「遅れてごめんなさい、この子達もここだから参加させてもらえますか」

 二人を連行してきた女の先生が頭を下げる。

 対して華と香織は心の底からウザそうな顔を浮かべていた。

 腕を掴まれている辺り、バックレようとしたのがばれて無理矢理連れてこられたといったところか。

「それは構いませんけど……顔合わせだけなのでもうほとんど終わりかけですよ? 取り敢えず二人とも席に着け、一年はそっちだ」

「あ? 誰にナメた口きいてんだお前、オモテ引き摺りだすぞコラ」

 三年が相手でも無問題、挨拶や謝罪など微塵も心には浮かんでいないらしく瞬時に喧嘩腰になる華だった。

 全力で舌打ちをしながら顔を顰め、爽やか先輩に詰め寄っていこうとするのを連れてきた先生が慌てて腕を引っ張り制止する。

「やめなさい大城戸さん! 上級生に向かってなんてこと言うの!」

「うるっせえババア! てめえが勝手に決めたんだろ、チョーシ乗んなよ?」

 その口ぶりに教室内が一層ザワつく。

 何というかまあ、相変わらずのチンピラっぷりである。

 つーか先生も先生で強制参加ってのは仕方ないにしても何でここに連れて来るんだよ。

 他のパートだとサボっても最悪残された面子でカバー出来るし、周りの連中にしても絶対あいつ等が居ない方が平和だろうに。

 ああなるほど、だからこそ敢えてそうしたのか。参加せざるを得なくさせるために。

 悲しきかなそんな理屈が通じる奴じゃなかったというだけで。

 つーか……今気付いたんだけど、この場合最もヤベえのは俺じゃねえのか?

 いきなり全力で目立ってるし、全力でこの場にいる全員にドン引きされてるし。

 こんな状況でまた兄貴兄貴と寄ってこられようものなら俺まで全力で浮いてしまう。

 ……いや、浮いているのは最初からずっとそうなのでそれはいいとして、俺は絶対に悪目立ちはしたくない。

 なのに奴等の一味だと思われでもしたら後ろ指を指され、同じように腫れもの扱いされ、今後長らく謂われなき悪評を立てられたまま学生生活を送る羽目になること間違いなしじゃねえか!

「……よし」

 ここは気付いていないふりをしつつ、他人を装って奴等にばれないよう顔を伏せて凌ぐ。これしかない。

 ないのに、二つの視線がものっそい俺を突いてくるんですけど。

 二つといっても華と香織の視線ではなく、片方は東城である。

 列の真ん中辺りでチラチラと俺の方を見ていて、その表情から『お前どうにかしろよ』的なことが言いたいのだと一目で分かった。

 とはいえ野郎は脅迫紛いの絡まれ方をされたり兄貴が返り討ち? に遭って病院送りにされた(らしい)過去があるためピンク達を恐れている節があり、あいつ自身も華や香織に身バレしたくない気持ちであったり俺にちょっかいかけていると誤解されるのを恐れているのか妙に縮こまった動きである。

 まあ、馬鹿二人は東城のことなんて多分覚えてないだろうけど……問題はもう一つの視線だ。

 言わずもがな前述のコソコソとした動きではなく心底白けた目で前の方の席から俺を見ているのは如月大親分です。

 その面倒くさそうな顔から言わんとすることを察するに『あなたの仲間でしょう、煩わしいからどうにかして頂戴』とでも仰りたいのだろう。

 東城と違ってあの冷血女王は奴等や相良の前で面と向かって『学校では一切近寄らないで。戯れるなら大好きな兄貴分だけで十分でしょう』とか言っちゃう奴なので平気でガン見してきやがるんですけど。

 何なら『ウザいから早くどうにかして』とでも言いたげな、あの二人ではなくもはや俺に対して半ギレになっているんじゃねえかと思っちゃうレベル。

 だが後でどんな罵詈雑言を浴びせられようともこの場でしゃしゃり出るような真似だけは死んでもしない。

 そう決意し、無視という名の気付いていないフリを続行する無機物こと俺。

 その間にも馬鹿二人はイケメン先輩や女の先生に悪態を吐き続けている。

 あんまりヤンキーチックな生徒は居ないこの学校であれど我が物顔でデカいツラをする連中がカースト最上位に存在している辺りは他所の学校とそう大差はない。

 パンピーに害がないだけ百倍マシな人種なのかもしれないが、この教室にいる二年三年のそこにカテゴライズされる奴等が頑なに目を合わせないようにしているのは入学早々に起こした喧嘩騒動が原因なのだろうか。

 そうは言ってもここで関係無い奴が割って入っても余計にややこしくなるだけなのは目に見えているので正しい選択なのだろうけど、日頃から手を焼いているのかうんざりした表情で女教師に任せようと見守っていた体育教師がとうとうキレた。

 背も高くガッチリとしたガタイの体育委員を担当している通称ゴリラである。

「いい加減にせんか! いつまでも喚いているなら出て行け!」

「んだコラ、ゴリラ野郎! 図に乗んなよテメエ」

「何ぃ!?」

「やめなさい!」

 即決で矛先をゴリラに変える二人のアホさもさることながら、あっさりこめかみをピクつかせて半ギレになるゴリラも、さっきから二人の腕を掴んで必死に止めようとはしているが効果なんてほぼないに等しい残念な女教師も含めもうカオスな空間としか言いようがなかった。

 つーか俺達はいつまで座ってりゃいいんだよこれ。

 何を見せられてんだよこれ。

 そのチンピラに説教しようが停学なり退学にしようがどうでもいいからもう帰らせてくれよ。

 当初こそ緊張感が蔓延していた見物している側にもそろそろそんな空気が流れ始めている。

 そんな中、追い出そうとするゴリラと上等だと出て行こうとする二人組、そしてそれをどうにか阻止して参加させようとする女教師の口論をかれこれ五分ぐらいは見守り、最終的に無理矢理一年の列に座らされたところでようやく先輩達に話の続きが許される時間が戻ってきた。

 そしてまさかと思っていた事態は現実のものとなり、またイケメン先輩が一から説明し直すのを黙って聞く拷問みたいな女王の巻き添えとなってある意味では体育祭の花形ともいえるダンスパフォーマンスに任命された日から二日が経った。

 明日からは五限、六限が約一か月後に行われる体育祭準備に充てられることになっていて、その前段階として今日の放課後に各組が担当ごとに集まっての顔合わせや段取りの説明会が行われる。

 行きたくね~、と一片の疑いもなく抱く揺るぎない気持ちを否定出来る材料は皆無なのだが……こればかりは別にダンスであろうと小道具であろうと変わらないので文句を言っても回避の術は無い。

 とはいえこんなもんは始まる前から棲み分けがされていて、ダンスなんざ陽キャの集まりで裏方は文化系や陰キャがやると相場が決まっているってもんだ。

 だからこそ未だ納得が出来ん、何が悲しくて俺が陽の当たる世界に巻き込まれるんだ如月の野郎。

「はぁ……」

 既にやる気などゼロをすっ飛ばしてマイナスグラフを突き抜けている。

 一人とぼとぼと多目的室に移動する足はどうしたって元来持ち合わせている陰鬱さを三倍マシにしていることが自分でも分かった。

 一縷の望みを託して相談した我らが店長耶枝さんがすんなり了承しちゃったためもう俺に逃げ道などない。

 そりゃ学校行事を持ち出してノーの言葉を突き付けるような人ではないことなんて知っていたけども、何なら精一杯楽しみなさいと笑顔で俺と如月を応援しちゃうのだから今ばかりはその人の良さが恨めしい限りである。

 つーか『本番はお店は休みにして見に行くからね♪』とか言われても最悪度が増すからマジでやめてほしい。

 こちとら両親にすら言ってないのに……。

「なあおい秋月」

「……ん?」

 指定された教室に入ると、既に多くの生徒が集まっていた。

 黒板に書かれた文字列を読み解くに、三列に並べられた長テーブルが学年ごとに振り分けられており右から三年、二年、一年となっているようだ。

 この学校の体育祭は一学年六クラスが赤、白、青の三つのチームに分かれて競い合うシステムである。

 俺の居るクラスは白組に振り分けられていて、白咲さんの白とはなんて縁起がいいんだ。とか俺は勝手に思っていたりする。いや、ハナっから勝ち負けとか何一つ興味ないけど。

 若干話がそれたが、要はこの教室には各学年の白組ダンス担当者が集まっているわけだ。

 棲み分けの話そのまんまに当然の如く男子陽キャ軍団が前の方を陣取り、その後ろに女子が固まり、一番後ろの俺、ぼっち。

 目立たなければ何でもいいかと息と存在感を潜めていたところに寄ってきたかと思うと同じく声を潜めて話しかけてきたのは何を隠そうある意味如月の次に俺がこの場にいる原因を担っている東城だった。

 余程周囲に聞かれたくないのか、やけに小さい声で的外れなことをほざき始める。

「俺が如月とペアってこといいだろ?」

「それでいいからもう俺を開放してくれない? 誰も知らないところでポンポンとか作ってる方が性に合ってるから俺」

「そういうわけにもいかねえだろー。あいつもお前と組めるなら予定が立てられるからって了承したんだから」

「如月の前にまず俺の了承を得るところから始めるという発想はないんですかね……」

 最近こればっか言ってる気がするんだけど。

 とうとう学校でも口にするようになっちゃったよオイ。

「まあそう言うなって。こういうのも青春ってやつだろ? おっと、つーことで俺は戻るからよろしくな」

「え?」

 いつ話終わったの?

 思いつつも、東城は仲間に呼ばれて前の方へと戻っていく。

 ポツンと残された俺は数秒間その遠ざかっていく背中を睨み付けたのち、他の奴と目が合ったら気まずいのですぐに一人で俯き時間が過ぎるのを待つ作業を再開する以外に行動の選択はなかった。

 そんなことをしているうちに教室は大勢の生徒で埋まっていき、やがて顔合わせという名目の会合が始まる。

 あちらこちらで談笑が続くざわついた雰囲気を黒板の前に立った一組の男女が制し、視線を集めた。

 話の流れからすると三年の体育委員らしい。

 どうみても運動部のモテキャラと思われる爽やかイケメンとショートカットのスポーティーなお姉さんだ。

「俺は三年の田村、そしてこっちが同じく三年の中島だ。ここでのパートリーダーをさせてもらうことになった、皆よろしく頼むよ」

 爽やか先輩が自己紹介をすると、スポーティー先輩も『よろしくね~』と砕けた挨拶を続ける。

 パラパラと疎らに拍手が起こると二人はにこりと微笑み、脇に控えている体育教師、ゴリラこと馬場先生とアイコンタクトを交わして本題へと移った。

「明日の午後からは曲を決めたりペアや配置なんかを決めて出来るだけ早く練習に取り掛かれるようにしたいと思う。今日は顔合わせだけだけど、何か提案やアイディアがあれば学年関係なくどんどん発言して欲しい」

「部活、その他みんなにも予定や事情があると思うけど、一致団結して全員で特別賞を取れるように頑張りましょう」

「振付に関してはダンス部が担当することになっている、使う曲に関しては案を出してもらって話し合いの予定だ。投票でもいいんだけど、大勢で踊ったり振付をするには合う合わないってのがあるから……」

 と、そこまで爽やか先輩が言った時、教室の入口開いた。

 現れたのは何やら若い女教師らしき人物と二人の女生徒だ。

 その姿に教室内がざわつく。

 それもそのはず、今や学内ではちょっとした有名人である金色と金色混じりの頭髪がいかにも警戒色である女子二人組は今や誰もが近付きたがらない危険物だった。

 有名といっても勿論悪い意味なので皆の驚きも当然悪い意味で、その見覚えのある二人組に俺も一気にげんなりした。

 一年のチンピラコンビ、その名もピンクである。

 何故あいつ等がここに現れるというのか。

 いや、そりゃ理由なんざ一つしかないんだろうけど……お前等絶対積極的に参加するタイプじゃないだろ。

 ああそういえば体育は好きとか言ってたっけなこの前。

 なるほど、あれが噂のイベントだけ張り切りだすヤンキーか。

「遅れてごめんなさい、この子達もここだから参加させてもらえますか」

 二人を連行してきた女の先生が頭を下げる。

 対して華と香織は心の底からウザそうな顔を浮かべていた。

 腕を掴まれている辺り、バックレようとしたのがばれて無理矢理連れてこられたといったところか。

「それは構いませんけど……顔合わせだけなのでもうほとんど終わりかけですよ? 取り敢えず二人とも席に着け、一年はそっちだ」

「あ? 誰にナメた口きいてんだお前、オモテ引き摺りだすぞコラ」

 三年が相手でも無問題、挨拶や謝罪など微塵も心には浮かんでいないらしく瞬時に喧嘩腰になる華だった。

 全力で舌打ちをしながら顔を顰め、爽やか先輩に詰め寄っていこうとするのを連れてきた先生が慌てて腕を引っ張り制止する。

「やめなさい大城戸さん! 上級生に向かってなんてこと言うの!」

「うるっせえババア! てめえが勝手に決めたんだろ、チョーシ乗んなよ?」

 その口ぶりに教室内が一層ザワつく。

 何というかまあ、相変わらずのチンピラっぷりである。

 つーか先生も先生で強制参加ってのは仕方ないにしても何でここに連れて来るんだよ。

 他のパートだとサボっても最悪残された面子でカバー出来るし、周りの連中にしても絶対あいつ等が居ない方が平和だろうに。

 ああなるほど、だからこそ敢えてそうしたのか。参加せざるを得なくさせるために。

 悲しきかなそんな理屈が通じる奴じゃなかったというだけで。

 つーか……今気付いたんだけど、この場合最もヤベえのは俺じゃねえのか?

 いきなり全力で目立ってるし、全力でこの場にいる全員にドン引きされてるし。

 こんな状況でまた兄貴兄貴と寄ってこられようものなら俺まで全力で浮いてしまう。

 ……いや、浮いているのは最初からずっとそうなのでそれはいいとして、俺は絶対に悪目立ちはしたくない。

 なのに奴等の一味だと思われでもしたら後ろ指を指され、同じように腫れもの扱いされ、今後長らく謂われなき悪評を立てられたまま学生生活を送る羽目になること間違いなしじゃねえか!

「……よし」

 ここは気付いていないふりをしつつ、他人を装って奴等にばれないよう顔を伏せて凌ぐ。これしかない。

 ないのに、二つの視線がものっそい俺を突いてくるんですけど。

 二つといっても華と香織の視線ではなく、片方は東城である。

 列の真ん中辺りでチラチラと俺の方を見ていて、その表情から『お前どうにかしろよ』的なことが言いたいのだと一目で分かった。

 とはいえ野郎は脅迫紛いの絡まれ方をされたり兄貴が返り討ち? に遭って病院送りにされた(らしい)過去があるためピンク達を恐れている節があり、あいつ自身も華や香織に身バレしたくない気持ちであったり俺にちょっかいかけていると誤解されるのを恐れているのか妙に縮こまった動きである。

 まあ、馬鹿二人は東城のことなんて多分覚えてないだろうけど……問題はもう一つの視線だ。

 言わずもがな前述のコソコソとした動きではなく心底白けた目で前の方の席から俺を見ているのは如月大親分です。

 その面倒くさそうな顔から言わんとすることを察するに『あなたの仲間でしょう、煩わしいからどうにかして頂戴』とでも仰りたいのだろう。

 東城と違ってあの冷血女王は奴等や相良の前で面と向かって『学校では一切近寄らないで。戯れるなら大好きな兄貴分だけで十分でしょう』とか言っちゃう奴なので平気でガン見してきやがるんですけど。

 何なら『ウザいから早くどうにかして』とでも言いたげな、あの二人ではなくもはや俺に対して半ギレになっているんじゃねえかと思っちゃうレベル。

 だが後でどんな罵詈雑言を浴びせられようともこの場でしゃしゃり出るような真似だけは死んでもしない。

 そう決意し、無視という名の気付いていないフリを続行する無機物こと俺。

 その間にも馬鹿二人はイケメン先輩や女の先生に悪態を吐き続けている。

 あんまりヤンキーチックな生徒は居ないこの学校であれど我が物顔でデカいツラをする連中がカースト最上位に存在している辺りは他所の学校とそう大差はない。

 パンピーに害がないだけ百倍マシな人種なのかもしれないが、この教室にいる二年三年のそこにカテゴライズされる奴等が頑なに目を合わせないようにしているのは入学早々に起こした喧嘩騒動が原因なのだろうか。

 そうは言ってもここで関係無い奴が割って入っても余計にややこしくなるだけなのは目に見えているので正しい選択なのだろうけど、日頃から手を焼いているのかうんざりした表情で女教師に任せようと見守っていた体育教師がとうとうキレた。

 背も高くガッチリとしたガタイの体育委員を担当している通称ゴリラである。

「いい加減にせんか! いつまでも喚いているなら出て行け!」

「んだコラ、ゴリラ野郎! 図に乗んなよテメエ」

「何ぃ!?」

「やめなさい!」

 即決で矛先をゴリラに変える二人のアホさもさることながら、あっさりこめかみをピクつかせて半ギレになるゴリラも、さっきから二人の腕を掴んで必死に止めようとはしているが効果なんてほぼないに等しい残念な女教師も含めもうカオスな空間としか言いようがなかった。

 つーか俺達はいつまで座ってりゃいいんだよこれ。

 何を見せられてんだよこれ。

 そのチンピラに説教しようが停学なり退学にしようがどうでもいいからもう帰らせてくれよ。

 当初こそ緊張感が蔓延していた見物している側にもそろそろそんな空気が流れ始めている。

 そんな中、追い出そうとするゴリラと上等だと出て行こうとする二人組、そしてそれをどうにか阻止して参加させようとする女教師の口論をかれこれ五分ぐらいは見守り、最終的に無理矢理一年の列に座らされたところでようやく先輩達に話の続きが許される時間が戻ってきた。

 そしてまさかと思っていた事態は現実のものとなり、また爽やか先輩が一から説明し直すのを黙って聞くだけの空虚で残念な空間が終わりを迎えるとようやくアンケート用の紙を配られたところで解散の許可が出るのだった。


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