【プロローグ】 いつだって凶報は急襲する
六月を迎えた。
窓の外はこれでもかと晴天を告げるべく青一色に染まっていて、まるで何もかもが順調な日々であることの証明を担おうとしているかのようだ。
そう感じてしまえばしまうほどやる気を失っていく俺の心持ちも順調に普段通りなのだから相変わらずといったところか。
予鈴まで数分になろうとしているこの二年B組の教室も同じく、普段と何ら変わりはない。
耳に障るクラスメイト達の喧騒、肌に触る和気藹々とした雰囲気、そして目に障る見飽きた二つの顔。どれもこれも毎日の繰り返しだ。
いや……最後のは取って付けただけだからアレだけども。
「どしたのアッキー」
その二つの顔の一つである山本が不思議そうに俺を覗き込んだ。
校内でまともに会話が出来る数少ないクラスメイトで、控えめな性格で人の良い山本とお調子者で女好きの松本という以外に語るべき情報は何一つない。
背丈や顔立ち、下の名前も含め今後それが具体的に描写される機会は永遠に訪れないので気にするだけ損だ。
そんな二人に俺を含めた三人は一日も欠かすことなく朝の時間や休み時間、昼休みはこうして教室の角で一塊になって誰の関心を引くこともなく過ごしている。
それが哀れな非リアの領分であり、決して超えることも超えさせることもない壁である。
先にも述べたがクラスの連中はいつも通りいくつかのブロックに分かれて楽しげに過ごしていて、そんな中ではっきりと浮いた存在ながらここまで目立たない残念な負け組三人衆の有り様もいつも通りだと言えよう。
最近はちょいちょい東城とかいうのが混ざってきて面倒臭いことこの上ないのだが、今日は幸いにもリア充グループと談笑しているらしい。
どうせならB組じゃなくて負け組って特待生用のクラスを作ってくれりゃいいのになぁ。……どう考えても劣等生ですね、分かります。分かってます。
「いや何でもない。ちょっとボーッとしていただけだ」
いつまでも卑屈な自己分析ばかりしていても帰りたくなる一方なので何気ない風を装ってみる。
「そう? ならいいけど」
「つーかお前この前言ってたゲームちゃんと買ったのかよ」
納得した風の山本とは対照的にお構いなく話を続けるのは馬鹿こと松本である。
中身はというと先週あたりに話していた新作のゲームを三人でやろうって提案の続編だろう。
「この間の土曜日に買いに行ったよ。まだ封も空けてないけどな」
はっきり言ってゲームしてる時間なんざそうそう取れねえよ。
平日の定休日までお預けくらってるよ。
今月から休みも増えるから多少時間も出来るかもしれねえけど、マジで激務なんだあの店。
この間の祝日に休みを貰えた時なんて驚きのあまり固まったからね。
「そんなんじゃ俺達との差が広がる一方じゃねえか。いつまでもアイテム集め手伝ってもらえると思うなよ?」
「わーってるよ、俺だってちょっとは楽しみにしてんだ。休みの日にきっちり進めるさ」
なんて会話が盛り上がろうとし始めた時、予鈴が鳴り響くと共に担任の斉藤先生(化学担当・三十歳・女・ついでに格闘技マニア)が扉を開けて教室に入っくる。
散り散りになっている生徒達が慌てて自分の席に着くと、挨拶や出欠確認を述べていくいるものルーティンの最後に予想だにしていなかった言葉を付け加えた。
「それから、月末には体育祭があります。組分けは今日のうちに決まるので明日の六限は担当を決めるのに使うからね」
ああ……もうそんな時期か。
朝から嫌な話を聞かされたもんだ。
まったく、たまに学校から物語が始まったかと思ったらすぐこれだよ。




