【10オーダー目】 自己満足
「そんなんでいいわけねえだろ!」
翌朝、いつもと違い店のカウンターではなく家のテーブルに並ん朝食を前に顔を洗ってさっぱりしたところで力強く宣言した。
「やかましい。急に大きな声を出してどうした」
「あ、ごめんつい」
今日は居酒屋の仕事もないので目の前には親父もおふくろもいる。
そりゃ怒られるね、意味わかんないもんね。
つーか飯を用意しなければならない母さんはまだしも、なんで親父は休みの日でも早起きするんだろうか。
俺なら昼過ぎまで爆睡してるのに勿体ないって絶対。
とまあそんなわけで、炊きたてのご飯を一つまみ口に運びつつ、今度は心の中で考える。
昨日家に帰ってから寝るまでの間に何度も何度も答えを探した俺なりの結論を、今一度確認するように、自分に言い聞かせるように。
おせっかい? 欺瞞? 違うだろ?
助けてもらえるもんなら誰だって助けて欲しいに決まってんだよ。
それが叶わないから諦めて、我慢して、耐えて、抱え込んで、孤立するしかないんだろうが。
人付き合いが下手で人間的に捻くれていたこともあり俺も小学校、中学校はそんな生活が長かった。
だからこそ理解してやれる、なんてのは傲慢な考えなのかもしれないけど、それでも誰も彼もが見て見ぬふりをするからそういう状況が生まれるのだということぐらいは馬鹿な俺にだって分かる道理だ。
俺の場合、助けてくれたのは隠そうと、悟られまいとする中で些細な違和感や変化に気付いた両親だった。
そのおかげで塞ぎ込んだり自暴自棄になったりせずに、道を踏み外さず何とか生きてくることが出来たと言えるだろう。
如月の言う通り、人が人を助けるなんて烏滸がましいのかもしれないけど……知った上で放っておくなんてクソな野郎に成り下がるぐらいなら烏滸がましく傲慢な人間の方がいくらかマシだ。
例え誰にどう思われようとも、だ。
改めてそんな覚悟と決意を胸に、早々と飯をかっ込み俺はファミーユへと向かった。
○
「耶枝さん」
仕込みや搬入から補充やら在庫のチェックにプラスして洗濯と弁当作りが終わると、二階に上がった俺はすぐに行動を開始した。
りっちゃん含め、他の誰かに聞かれていい話ではない。
そう思い早めに家を出たこともあって誰かしらが起きてくる時間まではまだ余裕がある。
「どしたの?」
キッチンで朝食を作っている耶枝さんは首から上だけをこちらに向ける。
いつも通りに朝から鼻歌交じりでご機嫌なお母さんモードのにこやかな顔は、俺なんかと違って小さいことで悩んだり人を妬んだりしないんだろうなぁと思えて何だか今ばかりは羨ましくさえ感じられた。
「従業員名簿って金庫に入ってましたっけ?」
「名簿? 保険の書類とかと一緒に全部纏めて入れてあるよ?」
「ちょっと見てもいいっすか?」
「うん。それはいいけど、どうかしたの?」
「いえ、別に何かって程のことは。ちょっと確認したいことがあるだけっす」
金庫の番号は俺と耶枝さんしか知らない。
別に現金を入れてあるわけではないが、売り上げやら仕入れの伝票の他に言葉の通り個人情報が詰まったものや無くすと困る書類が保管してある。
同じ理由で耶枝さんにも悟られたくないため、料理をしていてこちらに気が向いていない間にサッと面接時に受け取った履歴書のファイルから必要な情報だけを記憶した。
まずは下調べと裏付け、それが俺がやろうと考えたことの第一歩である。
ついさっきそのための仕込みも済ませておいた。
何をするにも今は知りたいことを知るのが重要だ。
それからは普段通りを装いつつ、りっちゃん達が飯を食うのを待って登校の時間を迎える。
家で食べてきた日はコーヒー飲んでるだけの優雅な朝の一時かと思いきや大所帯ならではの賑やかというか騒がしいというかの食卓なのでゆったりとはいかないのだけど。
ちなみに耶枝さんは毎朝俺の分までご飯を用意してくれているが、この場合に余ったおかずは丸々リリーさんの胃袋に収まるので憂う必要はないのだった。
「じゃあね、優君。お弁当ありがとう」
「ああ。バイト遅れんなよ~」
なんて何気ない会話の締め括りと同時に音川と別れ、学校までの道をチャリで走る。
いつでもどこでも、何も感じさせない繕った態度と表情。
出会ってからの長くはない時間でただただ不思議キャラだとばかり思っていたその振る舞いに、どれだけの意味が隠されていたのだろうか。
いや、別にナチュラルに不思議っ子なだけの可能性も普通にありそうだが……今の俺にはやはりそうは思えない。
音川本人からしても余計なお世話なのかもしれないけど、これはもう音川の問題ではない。単に俺自身の問題だ。
俺が見て見ぬふりをするのが嫌だというだけの身勝手な自己満足でしかなかったとしても、むかついたまま過ごすよりは百倍いい。
とはいえ、
「らしくねえよなあ……これじゃむしろ俺の方がキャラ崩壊してんじゃねえか」
自嘲混じりの呟きを漏らし、やれやれと自分自身に呆れながら教室へと向かう。
どこか慣れない自発的に行動に緊張していることを感じながら。
○
あっという間に昼休みです。
この数時間何をしていたかって?
いつもと違って寝てないよ、頑張って起きてたよ。
なぜなら昨夜の如月の発言のせいで危機感が芽生えているから。テストもやべえ、進級もやべえとくれば当然だ。
半分ぐらいは寝ないように耐えるのに必死になっていただけで授業自体はほとんど頭に入っていないんだけど……まあ、ノートさえ取っておけばテスト勉強死に物狂いでやりゃ赤点はどうにか免れることが出来るはずだと信じたい。いや真剣に。
「あれ? アッキーどこ行くの?」
よし、と。
茶を一杯飲み込んで意を決して立ち上がると、隣で持参の弁当を広げている山本が不思議そうに見上げる。
パックのミルクティーを口に松本も『まあ座れよ、新しいネタがあるんだって』とか言って俺の机をバシバシ叩いていていた。
「悪い、ちょっと用事があってな。すぐ戻るから先に食っててくれ」
「まあ言われんでも待ってたりはしないけど」
でしょうね。
そうされても気を遣うのでそれは全然いいんだけど。
ということで、もう一度悪いなと片手を挙げて俺は教室を出た。
向かう先は一年の教室が並ぶ校舎三階、一番奥の部屋だ。
以前廊下で見掛けて慌てて引き返した時に目にした体操着姿のあの二人は、確か四組と書かれたゼッケンを付けていた連中が周りにいた。
はっきりとした記憶とまではいかないが、勘違いするような別の記憶もないのでまあ間違いないだろう。
問題は俺にとって他所の教室を訪ねるなどという暴挙は学生生活において初めてなのではないかというレベルの大冒険だということである。
周りにいるのは誰もが年下だとはいえ、既に居心地が悪いし逆にその状況だからこそ見知らぬ奴だらけの教室に入っていくことに躊躇いしかない。
出入り口の真ん前、教室の外でやや気を落ち着けるための時間を取り、それはそれで周囲の視線が痛くなってきたので覚悟を決めて入り口から中の様子を覗くと、傍にいた男子生徒へと声を掛けた。
誰とも知らん奴に喋り掛けるには相当コミュ力が足りないので出来るだけ大人しそうな奴を選んだ上で、である。
「あの、ちょっと君」
「……はい?」
眼鏡をかけた優等生風の生徒は『自分のこと?』と言わんばかりの落ち着かない顔と態度でこちらを見る。
声を掛けることのハードルが高すぎて何を話すのか考えてなかったでござる!
「えーっと……何だっけ?」
「は?」
やべえ、初対面の奴に話し掛けるのに全メンタル力を使い切ってしまって咄嗟に名前が出てこねえ。
「えっと、吉田と……あの、あれだ、分からん、とにかく吉田を呼んでくれないか?」
「……はあ」
何だこの人、みたいな顔をされていたが、それでも一応は受け付けてくれたらしく眼鏡はその場を離れていく。
が、すぐに二人になって戻ってきた眼鏡はなぜか見知らぬ男子生徒を連れていた。
「あの~、何のご用でしょうか」
俺が上級生だということは分かっているらしく、その誰かは恐る恐るといった様子で俺の前に立つ。
何だこの状況、また知らん奴が増えたぞ。誰だお前!
「悪い、人違いだ。そうじゃなくて……」
吉田じゃなかったのかよあいつ、逆に何で吉田じゃないんだよあいつ。別の吉田君が来ちゃったじゃねえか。
名字なんか思い出せねえ……この前なんて言ってたっけな。
「華だ、そう華と香織を呼んで欲しいんだ」
改心の思い出しを見せた俺ナイス。
なのだが、なぜか眼鏡と吉田はえらく気まずそうに顔を見合わせている。
「え…………大城戸さんと石崎さんですか? ちょっとそれは俺等には……」
「え? なんで?」
「だって、何されるか分かんないし」
「あぁ……そういうこと」
なるほど、クラスではやはりそういう扱いなのね。
気持ちは分かる。よーく分かる。
誰がどうみたってクラスからいなくなって欲しい人種だもんね。
とはいえ、どうしよう。
「あの、後ろにいると思うんで用があるなら中に入って直接会いに行ってもらえますか?」
「入っていいのか?」
「え、ええ……別にそれは俺等がどうこういう話じゃないですし」
「そっか。ありがとう、ていうか悪かったな」
一言詫びて、言われた通り俺は教室の中へと足を踏み入れる。
後ろと聞いたので机の間を縫って最後部の空きスペースまで歩くと、目的である女生徒二人の姿があった。
金色のメッシュと純正金髪というチンピラ丸出しの二人組は、スカート短いのに地べたに胡座をかいて座っているためパンツまで丸出しになりそうでありながらそれを気にする様子は皆無という顔立ちが幼いくせに見た目の柄が悪く、ほぼ間違いなくそのせいで教室内で浮きまくっていて他の生徒があからさまに距離を取り周囲にだけ人の姿がないのがはっきりと分かる残念な光景を作り出している。
パックのジュースやらパンの空き袋やらを散らかしているわ、でけえ声で盛り上がっているわと完全にそうなって然るべき環境を生んでいるのは他ならぬこいつら自身なのだろうが……俺とは違った意味で協調性や社会性の欠片もない連中だな。
「おい」
呆れつつこちらに気付いていない二人に声を掛ける。
やや攻撃的な口調になってしまったせいか、あらぬ誤解を生んだらしく教室内が心なしかざわつき、注目を集めてしまっていることが分かった。
そうか……二年のフロアでは度々遭遇するから気にならなくなりつつあったけど、一年のエリアでは俺がこいつらと面識があることなんて誰も知らないんだった。
「あ、兄貴!!」
「アニキ!!」
ピンク二人組(今はピンクではないが)は俺に気付くなり慌てて立ち上がった。
社会不適合社にしか見えないくせに縦社会のルールにだけは忠実な奴等である。
勿論、俺であると認識する前にほとんど反射的に『あ?』とか言って睨み付けようとしたのはお約束だ。
「急に悪いな、ちょっと話があってさ。ああ、飯の邪魔をするつもりはないからそのままでいいんだけど、話だけ聞いて貰ってもいいか?」
「水臭いじゃないッスか、なに気ぃ遣ってんスか兄貴」
「そうっスよ、アニキならいつでも大歓迎ッスよ」
「まあ……そう言ってくれると助かるよ」
二年が一年の教室に来たら周りが迷惑でしょうが。
という理屈はこいつらには通用しないんだろうなぁ。
なにせ入学早々に三年を病院送りにしているような奴等ですものね、ルールや秩序へのアンチテーゼが座右の銘みたいな奴等ですものね。
「ささっ、どうぞ座ってください兄貴」
「いや、地べたじゃねえか……」
「こんなんしか無いッスけど、飲みますかアニキ」
「いや、飲みかけじゃねえか……」
馬鹿なりにどうにかもてなそうとしているのだろうが、駄目だこいつ等。
そんなもんより椅子をくれと言いたいこと山の如しではあるが、多分いくら待っても出てこなさそうなので差し出されたイチゴミルクらしきジュースをやんわりと押し返し、仕方なく俺も同じように床に腰を下ろす。
よほど俺の方から訪ねてきたのを珍しく思っているのか、何やら興奮気味に寄ってくるあたり無邪気なのか邪悪なのかよく分からん奴等だ。
「それで今日はどうしたんすか」
「誰かシメる相談ッスか」
「そんなわけないだろ……とは、まだちょっと言い切れないんだけど、ちょっと頼みがあってな」
「何でも言ってくださいッスよ、兄貴の頼みを断るうち等じゃねえッスよ」
「そうッス、そうッス。つーかマジ事件ッスよ、アニキから会いに来てくれることなんて一回もなかったのに」
「まあ、基本的に学食とトイレ以外で教室から出ないからな俺は。急なのは悪かったと思ってるけど、事前に伝えることも出来んし勘弁してくれ」
「それは全然いいんすけど、なら連絡先交換すればよくないっすか?」
「そもそもうちらが兄貴の連絡先知らないのおかしくないっすか?」
「いや、別におかしくはないだろ」
「交換しましょうよ」
「しょうよ」
「いや、いらん。で、本題なんだけどさ」
「「えぇぇ~……」」
なぜか二人揃ってげんなりしていた。
そりゃそうだろう、別に俺とこいつらは友達でもないのに余計な連絡先を増やすなんてとんでもない。
「で、本題なんだけど、お前達ピンク軍団の中に笹川西高の奴っていないか?」
「笹西っすか」
「つーかピンク軍団て何スか。いつまで色で認識されてんスかうち等。ショッカーじゃあるまいし、もしかしてまだうちらの名前覚えてないんスか」
「兄貴に取っては姉さんプラスその他大勢的な扱いなんすか」
「まあ、そんな感じかなぁ」
「「えぇぇ~……」」
息ピッタリだね君達。
「冗談だって、華と香織だろ? ちゃんと覚えてるよ」
正確にはちゃんと思い出した、だけど。
さすがに俺も高校生、何度も何度も自己紹介されりゃ流石に記憶の片隅には残る。
惜しむらくはフルネームを言わないせいで名字を知らないことだが、まあ直接呼ぶこともそうないだろうから何でもいい。そういやさっき吉田が口にしてたっけか、もう忘れたわ。
とはいえこれ以上やる気をなくされると協力を仰ぎに来た身としては困るので軽くフォローしつつ、
「で、どうなの?」
「笹西なら三人ぐらい居たはずッスけど、それがどうしたんすか?」
「ああ、そいつらを使って調べて欲しいことがあってな。結構マジな話だからお前達を通して頼んで欲しいんだ。多分俺とは面識無いだろうから」
「いや面識はあるっしょ、集会の時も挨拶してたし姉さんの店にも二回ぐらい連れて行きましたもん」
「そうなの? つってもそれだけでどこ高とか分からんし、君ら以外のピンクと絡むことなんてそうそう無いから名前を聞いたところで分からないんだけど」
「ピンク!」
「ピンク!」
「何だよ急に、周りの皆さんがびっくりするから大きな声を出すんじゃない」
「分かりやした。ならピンクって呼ぶのをやめてくれたら協力するってことで」
「あと連絡先も」
「えぇぇ~……」
げんなりした。
まさか交換条件を出されるなどとは思いもよらず、普通にげんなりした。
「さあさあ、どうすんスか兄貴~」
「どうすんスか~?」
精神的優位に立ったからか、二人はニヤつきながら両サイドで俺の脇腹を肘でつついてくる。
先輩に対して従順なのか馴れ馴れしいだけなのかよく分からん奴等だなおい。
まあ、元々こっちが頼み事をしに来ている立場なので礼の一つや二つは当然の筋なんだろうけど、条件厳しいなぁ。
ボスの相良も含めなぜどいつもこいつもチーム内のルールを俺に強いるのだろうか。
いつの日か俺も特攻服を着ることになるのかな……ならねえよ。
「はぁ……分かったよ、その条件でいいから。さっきも言ったけど真剣な頼みなんだ、その代わりマジで取り組んでくれよ?」
言うと、二人は『いえ~い』と謎のハイタッチ。
これは後に知ることだが、連中のチームは禁止されているわけではないが男と馴れ合うのを嫌う奴が多いらしく野郎の連絡先を持っているだけでも珍しいということらしい。
どういうわけかそのチーム内で『相良に唯一認められた男』という異名を勝手に付けられている俺というのも合わせてレア度を仲間に自慢したかったというのが真相のようだ。
「もう何でもいいから、いい加減そこから先の話をしてもいいですかねえ」
ややイラッとしつつ、グッと堪えて冷静に務める。
二人はウッスとか言ってなぜか背筋を伸ばし姿勢を正した。。
「うちのバイトに音川ってのがいるんだけど、分かるか? あの相良をよくからかっている一番ちっこい奴」
「顔は分かるッスよ。名前は今初めて知ったって感じッスけど」
「そいつがどうかしたんスか?」
「その音川も笹川西高に通ってるんだけど、そいつの周辺を調べて欲しいんだ。言うまでもないけど、周りに知られないように」
「調べるって、何でッスか?」
「もしかしてストーカー的なあれッスか」
「ちげえよ馬鹿」
何言ってんだこいつは。
それだけで察してくれというのも無理があるけども。
こうなりゃやむを得まい。
事情を隠して協力を仰ぐというのは都合が良い話にも程があると、俺は全てを明かすことにした。
二人は黙って聞いてくれてはいたが、当然のこと俺ほどは感じ入ることもない様子だ。
「なるほどね~、いじめッスか。どこにでもそういうツマらねえ奴はいるんスね~」
と、金色メッシュの華は腕を組みうんうんと頷いた。
「うち等の周りでそんなんやってたら目障りなんでシメますけどね」
「まあ、まだ疑惑の段階でしかないんだけどな。でもそれが事実なら俺はどうにかしたいんだよ、だから調べて欲しいってわけ。つーか、お前等の身内がやってたりしないだろうな……」
「そりゃねえと思いやすよ? 兄貴の店に通ってるから同僚さん達の顔は知ってますし、店に迷惑掛けたらぶっ殺死ってルールがありますんで」
「そもそもそういうの姉さん大嫌いッスから、絡まれたりしない限りパンピーに手ぇ出したりしないっスもん」
「そうなのか、それなら安心だけど……とにかく、頼めるか?」
「笹西なら由佳がいるんで大丈夫だと思いますけどね。あいつちょーほー? とかいうのが得意なんで」
「ちょーほー? ああ、諜報か。今時の珍走団ってのは諜報員までいるんか」
「兄貴……それ姉さんの前で口にしたらタイガードライバーの刑ッスからね」
……今時の珍走団ってのはタイガードライバーまで使えるのか。
「いやまあ、今のは無しってことで。で、そいつに頼めばいけるんだな?」
「学校の中ぐらいなら楽勝ッスよ。他所のチームのこと調べたり探ったりするのが得意ッスから。この前それで拉致られたッスけど」
「…………」
お前か、オープン二日目の地獄を生み出した原因の一端を担ったのは。
それはさておき、
「ならそいつに頼んでもらえるか? 改めて礼はするし、借りを返せと言われりゃきっちり返すからさ」
「アニキ、頭なんて下げないでくださいッスよ。最初に言ったっしょ、アニキの頼みなら何でも聞くって」
「香織の言う通りっスよ」
「うん……気持ちは嬉しいけどね」
結構あれこれ渋られたよ?
最終的には交換条件付きだよ?
「とにかく、出来るだけ急ぎで頼む」
「今日にでも伝えておきやすよ。由佳なら二、三日もあれば知りたいことを調べてくれるはずなんで」
「助かる。念を押しておくけど、絶対に誰にも知られないようにしてくれよ? 勿論音川だけじゃなく相良にもだ」
「姉さんにもッスか? アタシ等、姉さんに隠し事は出来ないッスよ?」
「ッスよ?」
「別に隠しておこうってわけじゃないんだ。最終的には相良に相談するつもりだし、協力もしてもらいたいんだけど、その前に周りに知られると面倒だから知りたいことを知って、その上でどう動くかを決めるまでは慎重にいきたいんだよ」
「なるほど~、了解ッス。放課後に会うんで、その時にでも伝えておきやすよ」
「恩に着る」
もう一度二人に頭を下げる。
何を知ることになるか、何を受け止めることになるか。
ひとまずはこれで結論が出る。
怖くもあるし不安もあるけど、後悔はしたくない。
その気持ちに揺るぎはなく、今は迷いもない。
飯の邪魔して悪かったなとドヤる二人に告げて立ち上がると、帰ろうとしたところで連絡先を交換させられ、改めて教室に戻る。
ちなみに、俺の昼飯は食う時間が無かったさ。




