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ファミーユの副店長戦線  作者: 天 乱丸
【第三話】
37/56

【5オーダー目】 走り屋達の夕暮れ

 


「はぁぁ~……」

 俺の休日。

 俺の自由。

 俺のカラオケ。

 その全てが理不尽に奪われた感がハンパないせいで気分が重い。

 いや、そりゃ奴等とカラオケに行くだけがオフの使い方というわけではないだろうし、バイト仲間? と遊ぶのも一興ではあるんだろうけど……それがこのチンピラ達だと思うともう不安しかない。

 といっても如月と遊ぶとかどう気が狂ってもあり得ないし、リリーさんや音川とは頻繁に耶枝さん宅でゲームしたり変なアニメの鑑賞会に参加させられたりするだけなので外で遊ぶ相手がいるのだとすればどう考えてもインドア系ではない相良しかいないんだけどね。

 関係無い話だけど、同じ家で寝泊まりしていることに加え元々ゲーム好きだったこともあってリリーさんと音川は最近随分と仲が良い。

 なぜ俺が強制参加させられるのかは分からないが、ゲーム自体はまあ楽しんでやれるとしても鑑賞会は俺いらんだろと思えてならないだけども。

 大体途中から寝てるだけだし、七割ぐらいの確率でりっちゃんが怒って乗り込んでくるから恐らくは音川がりっちゃんをからかうためにやってるんだろうな。

「どうしたんスか兄貴、溜息なんか吐いて」

「そうッスよアニキ、テンション低く過ぎッス。そんなんじゃ(あね)さんにブッ飛ばされますよ?」

 人気の少ない河川公園の端。

 真っ赤な特攻服を身に纏った少女が溢れるカオスな光景に囲まれ憂鬱に浸っていると俺をここまで連行してきた高橋とみちこが横から顔を覗き込んできた。

 何が悲しくてレディースとやらの集会に参加せにゃならんのか。

 簡単に売り飛ばす松本達も薄情だよなぁ。逆の立場だったら俺も百パーそうするけどさ、だってヤンキー怖えぇもん。

 今の聞いたろ? テンションが低いだけでぶっ飛ばされる可能性あるんだぜ?

「テンションが上がる理由が何一つないだろ、何だこの状況は」

 他の人に見られでもしたらどう考えても俺がこれからリンチされる展開以外に想像しようがない光景だぞこれ。

「せっかく姉さんが直々に誘ってくれたんスからもうちょっと盛り上がってくださいよ~。ていうか名前!!」

(あね)さんももうすぐ着くみたいッスし、そんな顔してたら気合い入れられちまいまスよ? ていうか名前!!」

「気合いって言われてもなぁ……というか心を読むな」

 高橋とみちこ改め華と香織が芝生の上に座る俺の両サイドに腰を下ろし、声を揃えて憤慨することで一層他の奴等の視線が集まってしまう。

 これが居心地の悪い最大の理由である。

 普段店に来る三、四人の一年以外は誰一人俺と面識のある奴はおらず、あからさまに物珍しげな目を向けられているのだ。

 連中にしてみれば大好きな総長様が連れてきた謎の男に他ならないわけで、あちこちから『あれが姉御の認めた男……』とか『思ってたより地味じゃね? ていうか弱そうじゃね?』とか『でも華と香織の兄貴分でもあるんだろ?』とか聞こえてくる。

 コミュ力のない非リア充を見知らぬ奴だらけの集団、しかも女子オンリーの中に放り込んだら悲劇と地獄しか生まれないことを分かっていないらしい。

 あ~帰りて~。

 何か適当に理由考えて相良が来る前に逃げるか?

 いや、そんなことしたら次に店で会った時に確実に鉄拳制裁だからなぁ。

「あ、姉さん来たッス」

 結局どっちつかずのまま一年二人が俺を挟んで会話しているのをボーッと聞いていると、ふと金色メッシュが遠くを指差した。

 目を向けると、確かにやや大きめのマフラー音を響かせながら一台の単車が向かってきているのが分かる。

 やがて砂利道に入った辺りで速度を落とし俺達の目の前で停車したのは他でもないバイト仲間であり何とかいうレディースの総長でもあらせられる暴力の化身、相良巴だった。

 頭を振りながらヘルメットを脱ぐ姿は偉く様になっていて、露わになっ右半分が金色で左半分が黒という奇抜な髪も真っ赤な特攻服と単車が合わさることで生まれる相乗効果かちょっと格好良いとか思ってしまった。

 とはいえ見てくれはチンピラでしかないわけだけど、服と同じ真っ赤なバイクでありながら思いの外族車っぽくないのがせめてもの救いである。


「「「チャーッス!!!」」」


「「「お疲れ様ッス!!!」」」


 相良がバイクから降りるなり、周りの奴等が一斉に姿勢を正し直立の状態から綺麗なお辞儀をした。

 え? 何そのルール、俺聞いてないけど?

 一人で座ったままの俺が馬鹿みたいじゃん。

 だいぶ遅れながらも相良が「おう」とか男前な返事をした所で俺も立ち上がる。

「優、よく来たな。これがうちのチームとうちのツレだ」

「お、おう……」

 としか言えない。

 ここで直に不満を口にしようものなら相良が許しても周りの舎弟達に埋められる気しかしない。

 どう頑張ってみても顔が引き攣るのを隠せていなかったであろう俺だったが、幸いにも取り巻き達とわいわい挨拶がてらの談笑をしているため気付かれていないようだ。

 そういう内輪の盛り上がりをされても俺は混ざれないし、より帰りたい感が増していくんだけど。

 わいわいやってる間にこっそり帰ってもばれないかな……うん、無理だね。確実にブッ飛ばされるね。

「よっし、んじゃそろそろ行くぞテメエら」

「「うっす!!」」

 ああ……迷ってる間に雑談終わってんじゃねえか。

 完全に逃げるタイミング逃したよぉ。

「優はうち等の後ろ着いて来いよ」

「あ、ああ……でもさ」

 俺は珍走団みたくブンブンと騒音撒き散らして走る気もないし、交通ルールや法律は絶対やぶらないからな。

 と、念を押しておこうとした時。

 珍しくご機嫌だったはずの相良が俺のバイクを見た途端に「あ?」とか言いながら眉根を釣り上げた。

「おい、お前これスクーターじゃねえか」

「そうだけど、それが何か?」

「バッキャロー、こんなんでうち等に混じって走るつもりかテメエは」

「そう言われても……俺これしか持ってないし」

 そもそも自ら望んでここに居るわけでもなのに。

「駄目だ駄目だ、そんなんじゃ他所の奴等にナメられっだろうが」

「誰だよ他所の奴等って、お前達はこの法治国家で一体誰と闘ってるんだよ」

 という至極真っ当な指摘は勿論無視され、

「ったく、これだから男ってのは。しゃーねえ、優は誰かのケツに乗ってけ」

「えぇぇ……なんでぇぇ」

「いいか優、よく覚えとけ。うち等のチームはスクーター禁止だ。これはここに置いていくからな」

「俺はお前のチームの一員じゃなくね?」

 やだよー、怖いよー。

「うだうだ言ってんじゃねえ、誰の後ろに乗るかサッサと決めろ。仲良いみてえだし華や香織の後ろにすっか?」

「兄貴、アタシの後ろ乗っていいっすよ」

 と、我先に手を上げたのは華である。

 何が楽しいのか期待に満ちた目をしていやがるが、この流れは絶対やばい。絶対危ない。

「待て、焦るな、落ち着け。俺は一番安全な後ろがいい」

「うーん、まあ安全度で言えばそりゃ姉さんの後ろっしょ。姉さんを煽って来る奴なんていねえっすからね」

「そういう意味じゃないから、誰も敵襲の心配なんてしてないから。純粋に運転技術とか安全運転の度合いの話だよ」

 なぜこうも話が噛み合わぬのか。

「その辺は心配すんな。お前がうち等のことをどう思ってんのかは知らねえけど、このチームは喧嘩以外パクられるようなことは禁止してんだ」

「そうなのか……正直意外だったわ。出来れば喧嘩も禁止しようぜ」

「そりゃ無理だろ、うち等みたいなもんはナメられたらしまいだからな。あと煙草だ酒だので補導されんのは自己責任でツレを巻き込むなってのが最低限のルールだ、これも覚えとけよ」

「だから……何で俺が覚えるんだよ」

 そのうち特攻服の着用を強要されるんじゃないだろうな。

 絶対嫌だぞそんなの。俺みたいなのが着てたら逆に全力で絡まれるわ。

 とまあ色々と前途多難な一時を経て、総長の号令により相良率いるレディースチーム『赤龍』プラスレベル100のパンピーである俺を加えた十数人の一団は公道へと繰り出した。

 車種とかはステッカーで隠してるから分からないが、相良の赤くやけにゴツイ単車に跨る俺は不安と恐怖しかなかったわけだけど、一般道を列になって走り回る時間は特にそれらを感じるタイミングが訪れることもなく過ぎていく。

 確かに交通ルールは守っているし、暴走族という程マフラーを改造して爆音を鳴り響かせるわけでもない。

 強いて言えば相良の、言い換えれば女子の腰に手を回し密着していることが相当恥ずかしいというぐらいだ。童貞ナメんな。

 相良曰く「今時警察と追いかけっこしてイキがってるような時代遅れな連中なんていねえよ」というとのことだ。

 だったら特攻服は? という疑問を抱かなかったわけではないが、口にしたら即死なので勿論心の中に留めておいたさ。

 こいつはバイトの面接にこれで着てくるぐらいだからな。何か拘りがあるんだろ……うん。

「こういうのもいいもんだろ?」

 車通りの少ない川沿いの陸橋を走る最中。

 途中に一つだけある信号で止まったタイミングで相良は首を横に向け俺に言った。

 半キャから覗く金髪からはやけに良い香りが漂ってくる。

「まあ、目立つことを除けば悪い気はしないかな」

「こうやって仲間と走ってる時がうちは一番好きなんだ。気持ちいい風を浴びてっと嫌なこと全部忘れられるっつーかさ」

「……何となくだけどな、分かる気はするよ。何て言うか、小さいことでウジウジ腐ってるのが馬鹿らしくなってくるような感じがさ」

 確かに俺も一人でバイクで走っている時間は結構好きだったりする。

 開放感とはまた少し違うのだろうけど、何だかスッとするんだよな。

「そうなんだよ、よく分かってんじゃねえか。だからうちはバイクが好きなんだよ、お前もあとはスクーターを卒業したら完璧だな」

「そんな完璧は求めてないんだけど……」

 ボソリと呟いたそんな言葉は発進の合図となるエンジン音が掻き消した。

 それでも相良はへへっとどこか満足げに笑っている。

 何というか、偏見でチンピラ扱いしていたけど、こいつもこいつで色々あるのかなぁとか。

 普通の高校生のように普通に周りと打ち解けて普通に学生ライフを送れない人種という意味では俺と同じなのかもしれないな、とか。

 そういうことを思った謎の放課後だった。

 その後、一時間ぐらい車通りの少ない道路を走り回って元の河川敷へと戻った俺は急いでりっちゃん指定のショッピングモールに向かい、言われるがままあちこちへと買い物に付き合わされるわけだけど……なんだか今日は連れ回される一日だったなぁと疲れ果てた後にしみじみ思ったことは内緒だ。


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