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ファミーユの副店長戦線  作者: 天 乱丸
【第三話】
33/56

【1オーダー目】 チャラ男はいつだって面倒臭い



 朝からちょっとばかり幸せな気分になったものの、学校に到着する頃にはもうダルいと眠いという二つの思考が脳内の九割方を占めていた。

 何度もあくびをしながら、録画再生の如くいつも通り誰と接することもなく階段を登って教室へと向かう。

 無駄な、というと語弊があるが、副店長就任以前は間違ってもあり得なかった早起きをする生活リズムになってしまっているため登校時間も比例して早くなっており正直予鈴までの待ち時間が長くなって余計に帰りたさが増している感があるが、親に金を出してもらっている以上そういうわけにもいかず。

 これまた毎日同じ行動に他ならないが二人の陰キャ仲間がいる自分の席へと直行するのだった。

「おはよ」

 短く挨拶をすると、先に来て雑談していたらしい二人も片手を挙げて返事をくれる。

 松本と山本という似通った名前の、俺が校内で唯一まともにコミュニケーションを取れる相手である。

 馬鹿で女好きな松本、大人しめで空気を読める山本、それ以外に特に紹介すべき点はない。というか、あったとしても俺が知らない。

 三人揃っていないことがないぐらいに他に友達も居なければ気軽に話し掛けられる相手もいない残念な俺達はこうして群れていないと寝ている振りをするか読書をするしか教室でやることがないし居場所も市民権もないのだ。

 二人はどうやらゲームの話をしていたらしく、俺にもその話を振ってくる。

「なあアッキー、今日放課後予約してたゲーム取りに行くんだけどお前も来ねえ?」

「またオンゲーか? 好きだな~お前」

「ツッキーも前は一緒にやってたじゃん、最近全然ログインしてないみたいだけど」

 松本の誘いを誤魔化そうとすると、山本が追撃してくる。

 毎度断るのは心苦しいのでどうにか煙に巻きたいが、流石にそうもいかないか。だって店があるんだもん……放課後遊ぶ時間なんてないんだもん。

「誘ってくれるのはありがたいと思ってんだけど、今日も無理だわ。明日なら休みなんだけど」

「またバイトか? お前ほぼ毎日じゃねえか、どんだけ忙しいんだよ」

「しゃーないだろ、絶望的なまでに店長が丸投げしてくるんだから」

 これはマジ話だけど、間違っても耶枝さんの悪口ではない。二人が気を悪くしないように断るにはこう言うしかないだけだ。

 悪口では無くとも不満と改善要求は大いに口にしたいところだけども。

「じゃあ明日はお前のおごりでカラオケな」

「なんで奢りなんだよ……まあいいけど」

「ナイスまっちゃん。そういえば三人でカラオケって久々だよね」

「月に一度のアニソン祭りじゃ」

「おいお前声でけえよ、またヒソヒソされんだろやめろ馬鹿黙れ」

 今にも立ち上がらんばかりの勢いの松本の肩を力尽くで抑え座らせる。

 ほんと山本と違って言動が思い付くままだから困る。まあ、こういう奴が一人ぐらいいないと自己主張ゼロな奴の集まりになってより陰鬱な空気を醸し出す三人組になりかねないので助かっている部分もあるといえばあるんだけどさ。

「よう三人組、相変わらず仲良いなお前ら」

 呆れるやら殴りたいやらで複雑な気分になっていると、不意に頭上から声がする。

 休憩時間に俺達に話し掛けてくる奴なんてそれこそ月に一度も現れなかったので三人が三人とも面食らっていた。

 先日の社会見学以来なんかちょいちょいギャルが絡んでくるけど、あいつは他の二人のことは完全にスルーしてやがるからな。

 何事かと顔を向けると、席が固まっているため椅子に座って無駄話をしている俺達の脇に立っていたのは東城だ。

 所謂リア充組とでも言うのか、要するにこのクラスのイケてる系グループの男子で、髪型から服装から常に香水臭い体や言動まで全てにチャラさを感じる、口に出せないだけで見ていてイラっとする系統の野郎である。

 誰よりも俺達みたいなのを見下し馬鹿にしているタイプの東城がなぜ朝っぱらから俺達の所に来るのだろうか。

 なにゆえ東城が登場するのだろうか……言ってる場合か。

「えっと……どうしたの、東城君」

 恐る恐るといった風に山本が言葉を返す。

 少し前の社会見学で如月とくっつきたいからと班の組み合わせを変えろと半ば脅しに来た記憶は俺だって鮮明に覚えている。

 なぜか現れたピンク軍団に黙らされたせいで有耶無耶になったわけだけど。

「どうしたってそりゃ休み時間なんだから話に混ぜてもらいに来たってだけだよ。俺達親友だろ?」

「……そうなのか?」

 何言ってんだこいつ……頭おかしいんじゃねえの。

 とは勿論言えず、再び言葉を失う俺達などお構いなしに東城は近くにあった椅子に座り勝手に輪に加わってくる。

「なあ秋月、一個聞きたいことがあるんだけどよ」

「……何?」

「お前、カフェでバイトしてんの? 最近出来たえらい洒落た感じの」

「なぜそれを……」

「いや俺んちあそこから割と近くてさ、昨日学校帰りに見掛けたんだよ。お前があの英語の名前のカフェにエプロン姿で入ってくの」

「まあ、見てたんなら……その通りだよ、うん」

 英語じゃないけど。

「やっぱそうか。で、本題はこっからなんだけどよお、もしかして……つーか、こっちも実際に見てっから間違いないと思うんだけどさ、如月もそこで働いてるよな?」

「「マジで!?」」

 松本と山本が仰け反りながら声を揃える。

 くそ……学校の奴らには絶対知られたくなかったのに。

 マジで空気読めよチャラ男、天然で人に嫌がられる才能でも持って生まれたのかお前。如月の情報を得るためだけに親友とか言い出すだけでも迷惑なのに。

「もしかして、お前も如月狙いなのか?」

 心の中で二千発ぐらい舌打ちをしている隙に東城は椅子を寄せ、声を潜めてそんなことを言った。

 如月。すなわち如月神弥。

 今や他校にも知っている奴がいる(らしい※松本情報)程の美少女で外見は非の打ち所がない程に完璧とまで言えるものを持ちながら性格は非の打ち所しかないぐらいに極悪辛辣毒舌自己中なクラスメイトである。

 先に述べた通り、この東城は如月を狙っているらしい。が、であれば尚更そんな勘違いをされては困る。

 俺が狙っているのは生涯白咲さんただ一人だ。

 いつしか松本や山本までもが興味津々で俺の反応を待っているし、こういうのが面倒臭いから頑なにバイト先は言わなかったんだよ俺は。

 こうなってはハッキリと言っておくしかあるまい。

「断じて違う。言っとくけど、あの店に入ったのは俺が先だから。何なら俺が最初の一人だったから」

「だとしても何で今まで黙ってたんだよ。如月さんと一緒にバイトだと? この裏切り者~」

 松本はバンバン机を叩きながら悔しがっている。

 俺が誰をどう裏切ったというのか。

 山本は流石にここまでは出来ないらしく、あははと苦笑いしている。

 その横では東城が何やら真剣な顔をしていた。

「マジな話、俺もそこでバイトしたんだけど募集とかしてねえの?」

「それは俺に聞かれてもちょっと分からないな……」

 多分、というか確実にしてないけど。

 アルバイトが一人も居ない状態の時から男を入れる気なかったもん耶枝さん。

「どっちにしても今日放課後行くわ、昨日は外から覗いただけだったしな。二人も一緒に行こうぜ」

「行く行く」

「俺もぜってー行く」

「マジかよ……」

 なんで二人ともノリノリなんだ……本当に、最悪じゃねえか。


          ○


 そして迎えた放課後。

 俺はホームルームが終わるなり急いで店に向かい、誰よりも先に到着していた。

 チャラ男こと東城とその他は俺との時間差を作るためにのんびり向かうとかぬかして教室で俺を見送ったのだが、結局はたかだか五分後ぐらいに来ているのだからどんだけ楽しみなんだよと言いたくて仕方がない。

 三人は角の席に座って飲み物を俺に注文し、早くもダベっている。

 今日のシフトは如月、相良の二人なのだが俺が急ぎすぎたこともあって相良はまだ来ておらず、如月も今ちょうど二階に上がっていったところ。

 必然俺がオーダーを取りに行かないといけないというわけだ。

 ちなみに交代で休憩に行った耶枝さんが店長だと知ると、これまた三人ともやたらと色めきだっていた。

「あんな若い人が店長なのかよ」

 とか、

「何でお前ばっかり、俺だってここで働く!」

 とか、とりわけ東城と松本が煩かった。

 お前ら如月に惚れてんじゃなかったのかよ……ほんと馬鹿ばっかりだ。

「はぁ~、面倒くせえ」

 知り合いがいる時間ほど嫌なものはない。

 この店であってもうちの居酒屋にしても俺にとって店に立つ時間とそれ以外は別物で、今この時こそが本当の自分であって学校での誰にも相手にされない自分はどうだっていいんだという現実逃避がもたらす心の防波堤が決壊してしまうのが何よりも虚しくなる。

 分けて考えないと、いつか自分を嫌いになってしまいそうだから。

 なんていうの少々大袈裟すぎるかもしれないけど、それぐらい俺にとっては絶対的な自分の空間の一つになっているのだ。

「……あ」

 特技というか悪い癖というか、色々とナーバスになっている間に階段から足音が聞こえていた。

 下りてくるのは当然のこと如月だろう。

 こっちはこっちで俺に災いが降り懸かる気しかしないんだよなぁ……。

 オープン時の制服であった赤と黒のチェック柄のメイド服に身を包んだ如月は当たり前のように到着時も就業時も俺に挨拶などせず、それどころか一瞥すらくれることなくそのままホールへと歩いていく。

 かと思いきや、そこにあった異物(、、)に気付いたらしくすぐに戻ってきて、あろうことか俺が立つ厨房に入ってきた。

 ほらみたことか、絶対俺に文句言ってくるパターンだろこれ。

 こっちも被害者みたいなもんなのにお前の愚痴なんて聞いてられるか。

 その意思表示として俺は敢えて気付いていないふりをして、奴らのドリンクを入れるグラスを用意するためっぽく装い何気ない動作で微妙に背を向ける。

 次の瞬間、背中に激痛が走った。

「ちょっと」

 背後から聞こえる、いつもと何ら変わらない声色。

 振り返った先にあったのは同じくいつも通り表情の変化をほとんど感じさせない恐ろしいまでの顔面偏差値をお持ちの美少女だった。

 如月神弥。

 クラスメイトであり有名人。

 クラスや学年を問わず、それどころか他校の生徒にまで名前を知られている程の外見を持ち他人に、こと異性に対する拒絶の意志を隠そうともしない辛辣な言動と喜怒哀楽を表に出さない無表情かつクールさからアイスドール、或いは名前を取って氷の国のかぐや姫と呼ばれる神に愛されし(って松本が言ってた)ビジュアルを持つ唯我独尊女である。

「何でクラスの連中がいるのかしら?」

 これまた普段通り、如月は俺が憤慨するのを分かった上で勝手にその遣り取りを省略して本題を口にする。

 省略させてたまるか。

「その前に呼び方! 何回やんだよこのくだり、用がある度にお前に蹴られるのか俺は」

「煩い黙れ、用があるのが分かっているくせに無視しようとするからでしょう。逆ギレしてんじゃないわよ」

「…………」

 バレてました。

 逆ギレは今お前がやってることだけどな。

「で? 何でクラスの連中がいるわけ? あなたはそういうことを嫌うと思っていたのに」

「……そういうことって?」

「友達を呼ぶとか、そういうことよ。迷惑だからやめて欲しいわ、他の奴にも広がったら鬱陶しいじゃない」

「いつも言ってるけどな、俺には呼ぶ友達も呼ばない友達もいねえ。あのチャラ男いんだろ、見てるだけでストレス溜まりそうな茶髪の奴。あいつがここの近所に住んでるらしくて、昨日偶然俺やお前が出入りしてんのを見掛けたんだとさ」

「ずっとこっちをチラチラ見てるし、そんなにクラスメイトが働いてるのが珍しいのかしら。気持ち悪いったりゃありゃしない」

 いや……多分それはあいつがお前に好意を寄せてるからだけど。とは勿論言えない。

 言ったら俺が蹴られるだけだもの。

 というか、

「クラスメイトに気持ち悪いとか言うな。あんなんでもクラスの中じゃイケメンな部類だろ、香水臭いしチャラいけど」

「だから何なのよ。絡まれたくないし、巴さんが来たら私の担当テーブルと入れ替えてもらうわよ」

「はぁ……分かったよ、俺から言っとく」

「そうしなさい。巴さんが来るまではここで待機しているから」

「なんでここで!? 上に行けばいいじゃん」

「嫌よ、店長にサボっていると思われるじゃない」

「……さもそれが誤解であるかのように言うな」

「何? 文句あるわけ? あなた如きが私に対して」

「迷惑というか……俺の精神衛生上とてもよろしくないのですボス。威圧感と殺意で死んでしまうのですボス」

「何がボスよ、馬鹿じゃないの。ふざけている暇があったらサッサとそれを届けて来なさい、間違っても私にお呼びが掛かったらねじ切るわよ」

「…………」

 出たよ出たよ身勝手な独裁者め、もうどっちが上の立場か分かったもんじゃない。

 そんなの最初からずっとだけどさ……というかどの部位をねじ切るつもりだ。

 数々の愚痴を全て飲み込み、三人が注文したドリンクをトレイに乗せて運ぶことにした。

 これも最初からずっとだけど、どれだけの正論であれ言い返したところで俺が傷付くだけだ。

 テーブルまで行くと三人はものっそい俺に視線を集めている。これは余談だがバレたら面倒なので副店長という記載がある名札は今日は外しておいた。

「おい秋月、如月来てんじゃん。何で出てこねえの?」

「あ、いや、まだ就業時間じゃないからもう一人のバイトが来るまで待機してるんだよ」

「つーかアッキーお前、如月さんとすげえ喋ってなかった? 仲良いの?」

「んなわけないだろ。暴言を浴びせられる以外の会話をした記憶がねえよ」

「でもさ、すっごい可愛らしい制服だね。店長さんも着てたけど」

「ああ……あれは店長の趣味だ」

 三者三様に疑問と感想をぶつけてくる。

 この時間は混み合うことも中々ないので多忙を理由に無駄話を拒否出来ないのが辛いところだ。

「ああ、そうだ」

 と、そこで思い出したことが一つ。

 こいつらにとって、特に東城にとっては知っておいた方がいい情報があったんだった。

「この前教室に来た馬鹿みたいな髪型した一年の女子いるだろ? あいつら多分今日ここに来るぞ」

「それって、喧嘩沙汰の話があった子達?」

 山本はすぐに思い至ったらしく、不思議そうに首を傾げる。

「ああ、そいつらだ」

「つーか何で来るんだよ、そんな奴らが」

「あいつ等の親玉みたいなのがここでバイトしててな……半分溜まり場みたいになってんだよ。店内では人に迷惑を掛けるような真似は絶対しないから面倒なことにはならないだろうけど」

 一応のフォローはしておいたものの、東城は舌打ちを漏らしあからさまに鬱陶しいと思っていそうな顔をしている。

 逆にあの時特に被害のなかった他の二人は普通というか、松本に至っては「結構可愛かったけどな」とか言ってる始末。

 噂話をしたのがフラグになったのか、まさにそんなタイミングでドアベルが来客を告げる。

 振り返ると入って来たのは上下ピンクのジャージーに身を包んだ女子の三人組だ。

 その中の金色のメッシュが入った髪の女、すなわち同じ学校であることが判明したピンク軍団二人組のうちの一人……名前はまあ、全然覚えていないが、とにかくそいつがすぐに俺に気付き、傍まで寄ってきてペコリと頭を下げる。

「兄貴~、ザッス」

「「ザッス!」」

「……ザッスってなんだよ、どこの星の言語だよ」

 もはや兄貴と呼ばれながらも敬われているのかどうかすら分かんねえよ。

 と、呆れる俺だったが金色メッシュは全然気にせず話を続けている。

「姉さんまだ来てないんスか?」

「ああ、まだだけどすぐ来るだろ」

「つーか聞いてくださいよ兄貴~。今日たまたま体操服忘れちゃったんスけど、それを体育の細山が担任にチクりやがったんスよ。しかも忘れただけだっつってんのに勝手にサボったことにされて文句タレやがるし、ぜってーブチ切れてもいいッスよねこれ」

「ブチ切れたら駄目だろ……つーかもうそれは日頃の行いのせいとしか言い様がないし」

「つまんねえ英語だの社会だのならまだしもアタシが体育サボるわけないじゃないッスか~」

 メッシュは拗ねたような表情で俺を見るが、お前が体育好きとか知らない俺に何を汲み取れと。

「それならそれでやりようがあったろ。高橋? だっけ? あの金髪の相方に借りるとかさ」

「相方は今日体育なかったんスもん。ていうか高橋って誰ッスか、前から言おうと思ってたんスけど兄貴絶対アタシ等の名前覚える気無いッスよね!? アタシは華で相方は香織、でこっちが志帆と沙希ッス。いい加減ピンクとか金髪とかヤメましょうよ~」

「覚える気がないとは心外だな。俺もお前も人間なんだ、うっかり忘れてしまうことはある。それをわざとだと決め付けて文句を言うってのは今お前自身が批難していた教師達と同じになるんじゃないのか?」

「う……確かにそうッスね、サーセンっした」

 え、納得したの? 馬鹿だな~こいつ。

「でも、そう言うってことは兄貴も先公どもが悪いって思ってくれてるってことッスよね?」

「そうだな、お前は悪くない。お前は間違っていない」

 全く思っていないどころか、心底どうでもいいのでテキトーに答えておいた。

 ただこの話が続くのが面倒になっただけだ。

 しかし華? という名前らしいピンクは満足げにしている。やっぱ馬鹿だ。

「さすが兄貴、姉さんに認められた男だけあって下のモンを大事にしてくれるッスね」

「いや……天地がひっくり返ってもお前等は俺の下のモンではないからね?」

「今度から担任に説教カマされそうになったら兄貴を呼ぶッスわ」

「呼ばんでいいわ……そこに俺が登場して何が解決するんだよ。もういいからサッサと席に座ってくれ」

 言うと、無駄に元気な返事が三つ響き三人組は角を曲がった一番奥のテーブル席へと向かっていく。

 流石に来るなとは言えないので最も他の客の目に付きにくいテーブルがいつしか指定席みたいになっている迷惑なチンピラ軍団だった。

 どうあれ厄介事の一つは片付いた。

 ついでに流しの洗い物も片付けるかと厨房に戻ろうとした時、また違った三つの視線が俺の足を止める。

「……何?」

「いや、お前随分あいつらと仲良いんだな」

「そうだそうだ、年下の女の子に慕われてるお前にイラっとした」

「イラっとしたは言い過ぎだよまっちゃん。確か近所の子達なんだっけユッキー」

 そう言えばそんな言い訳したな。

 なんだこの面倒事の連鎖反応は、誰か俺の聖域を守ってください。

 誰に対してかも分からない哀願も虚しく、その後の勤務時間は過ぎていく。

 次の日、全然如月と喋れなかったじゃないかと東城に文句を言われるわ相良や店長を紹介しろと松本が宣い始めるわと散々だったことは言うまでもない。

 それどころか「また行くからな」と馴れ馴れしく言ってくるのだからチャラ男という人種はやっぱりいつだって傍迷惑な存在だ。

 


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