移動都市マーサ
あるところに、マーサという街がありました。
マーサは街全体が、魔法と科学のちからで移動する不思議な街です。
戦争に巻き込まれてひどい被害を被ったマーサの人々は、しかし故郷を離れがたく、街ごと移動するという方法を思いついたのです。
常に空を飛んで移動しているマーサは、他の街からの物資を得ることが難しいため、全て自給自足で暮らしていました。
マーサの人々は悩んでいました。
常に移動しているおかげで、どこかで戦争が起きたとしても、マーサの街はその戦火から逃げることができます。
大事な故郷を離れる心配もありません。
しかし、既に他の街へ旅に出かけたり、仕事で街を離れている家族と手紙をやりとりすることができません。
また、食料はなんとか街の中だけでもまかなえますが、いざという時、田畑や建物を建てるのに必要な土地を見つけて、あてがうことができません。
そこで、外の街との行き来を楽にする方法を思いつきました。
街が空を飛ぶように、人も空を飛べるようになればいいのです。
マーサの街を移動できるようにした開発者や研究者、それに魔法使いが集まり、一人ひとりが空を飛ぶ方法を研究しました。
しかし、マーサの街のように人自身にも魔法をかけて浮かび上がらせる方法は、人自身の体に悪影響が出てしまい失敗。
次に、鳥のように翼を作って飛ぶ方法も、鳥に比べて人の体は軽くないため、大きな翼を作ることができず失敗。
そして海に潜るように船を作る方法を考えました。
雨風をしのげるような丈夫な素材を作り、船のように組み立て、化学薬品で燃料を作りました。
あとは実際に人が乗り込み、運転ができるかどうかの実験だけとなりました。
研究者たちが乗り込み、いざ浮上開始となったまさにその時。
船は急激に飛び上がり、ものすごい勢いで上昇しました。
空を移動するマーサの人々は、船の操縦を知らなかったのです。
見よう見まねで舵をとろうとあちこちを操作するうち、燃料を必要以上に燃やしてしまい、とうとう爆発してしまいました。
空から落ちてくる船と炎から、マーサの人々は逃げることができませんでした。
マーサの街も空を飛んでいて、どこかに逃げる場所がなかったのです。
マーサの街の下の地上にも、きっと火の粉が飛んだことでしょう。
あるところに、マーサという街がありました。
戦争に巻き込まれてひどい被害を被ったマーサの人々は、しかし故郷を離れがたく、街ごと移動するという方法を思いついたのです。
常に空を飛んで移動しているマーサの街は、他の街からの物資を得ることが難しいため、全て自給自足で暮らしています。
戦争に巻き込まれないよう空へと逃げたマーサの人々は、他の街と関わることなく、今でも空でひっそりと浮かんで暮らしているのです。