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赤手空拳  作者: ういすき
29/33

第29話 対最終試合

 一週間後、闘龍試合最終日。

 港に千年原重工、真路製薬の人間が集まりつつあった。。

 ここは貨物船やコンテナ船が荷物を受け渡しする商港である。

 日本で三番目に規模の大きい港で、周囲にはメタリックな色をした関連施設が、密集して建設されていた。

 コンクリート製の陸地の先には廃棄物で黒ずんだ海が広がっていた。

 ドロリとした油が浮いており、生き物の気配は感じられない。

 海上には何隻も船が並び順番を待っていた。

 南八郎は海の近くにある荷さばき施設で試合の開始を待っていた。

 施設は半月のような建物で今は格闘者の臨時控室として使われていた。

 中には積み荷の他にベンチとパーテーションで仕切られた、簡単な更衣室が用意されていた。

 八郎は黒の空手着に着替えスニーカーを履き、ストレッチをおこなった後ベンチに座っていた。

 そぐそばには凛子の姿もある。

 表情にはやや固いものがあった。

 試合本番前に感じるでそれであった。



「あと少しで時間ですわね。体長はいかかですの?」

「問題ない。万全だ」

「……勝手下さいね」

「ああ。祝勝会の用意をしておけ。アニメのDVDもな」

「ふふ。相変わらずですわね」

「うむ。二次元にお前に再び会うまでおれは死なん」



 それからすぐに開始を告げるアナウンスがあった。

 二人は建物を出た。





 ◆





 もう一つの荷さばき施設、。

 八郎と同じような部屋に真路製薬の関係者が集まっていた。

 人数が多く豪聖がこの試合にかける意気込みがわかった。

 黒服の護衛や白衣を着た医師たちが集まり、人垣がまるでオセロのようである。

 人垣の中心に真路愛聖、豪聖はいた。

 簡易ベッドが持ち込まれ愛聖はその上で仰向けになっていた。

 着衣はボクサーパンツだけである。

 靴は動作の妨げになるからと断っていた。

 腕にはチューブが通され点滴を受けていた。

 まず間違いなく合法的な薬物ではないだろう。

 顔を覗き込みながら豪聖が言った。

 愛聖の瞳には自分の父親でも、自らの顔が話しているように見える。

 この世界には同じ顔をして人間しか存在せず、区分は声や体臭の違いで見分けているだけだ。

 唯一の例外南八郎を除いて。



「やれるな愛聖?」

「うん。気分もいいし、楽しくファイトできそうかな」

「呑気なことを言うな。今日はわしが百億を稼ぎ、千年原凛子を二十八人目の妻にする記念すべき日だぞ。邪魔ものはすべて死体にして帰せ」

「はーい。パパはいつも元気満々だねえ」

「ふん。ずいぶん南八郎と仲がいいようだが手加減するなよ。お前が負けるとは微塵も思わんが、すでに三人の格闘者が奴に敗北を喫している。あの手のタイプは時間をかければかけるほど面倒になる。遊びは一切なしだ。見せ場も盛り上げどころもなく、試合会直後に終わらせてしまえ」

「ぼく的時間いっぱい楽しみたいんだけどな。あ、出来るだけぜんしょしまーす」

「まったく……お前は……」

「いいじゃん、いいじゃん。好きにしたって。ぼくの前では何年どれだけ努力したかなんて、実戦経験をつんで修羅場を乗り越えたかなんて関係ないんだらさ」

「まあな。世界中どの格闘者も玩具にしか見えんだろうよ」



 実際のところ愛聖には、本当に同じに見えるのだが。そのことを豪聖が知る由もない。

 そうしてるとアナウンスが鳴った。

 愛聖はベッドから身体を起こし、出口に向かって歩いていった。

 遠足に向かう児童のようにスキップをしていた。

 今日が人生最良の日になる確信があった。





 ◆





 貨物船の甲板の上に一同は集まっていた。

 千年原重工からは八郎、凛子、阿門。

 真路製薬からは愛聖、豪聖、護衛の黒服がいた。

 そして対峙する両者の中間地点に闘龍試合運営ハディソンの姿があった。

 今回は彼一人だけで他のスタッフのは見受けられなかった。

 ハディソンが顔ぶれを確認し最後の説明をおこなった。



「これより闘龍試合、千年原重工対真路製薬の最終試合を開始させていただきます。代表者凛子さま豪聖さま覚悟はよろしいでしょうか」



 返答はなかった。

 沈黙を肯定としハディソンは話を進めた。



「ではルール説明をさせていただきます。試合会場はここ貨物船の甲板すべてでございます。階段などを使い下の船室などに降りることは反則。即失格になります。武器、防具の使用は禁止ですが、甲板の上にあるものであれば、ご自由に使っていただいてもかまいません。もちろん衣服を攻撃手段のもちいることも禁止tなっております。ここまではよろしいでしょうか」



 また返答はなかった。

 確かに質問するような内容ではないだろう。

 ハディソンは最後のポイントについて言った。

 格闘者の生死を左右する部分である。



「そして勝敗についてですが、どちらかが甲板に用意された手錠につながれた時点で決着とします。つながれた格闘者の生死は問いません。ルールに基づいていれば、どのような手段を用てもらっても結構で。最後に付け加えますと、この貨物船は一時間で爆発することになっております。つまり生きて船を降りることができるのは、勝者だけとなっております」



 ハディソンはさらりと重要事項を口にすると、甲板中心部分にある台座を指さした。

 台形の台座で真ん中に鎖で一メートルほど伸びた手錠があった。

 猛獣などに使う頑丈なタイプで人間の力ではどうやっても千切れそうにない。

 一度つながれたら自力での脱出は不可能だろう。

 八郎が手首を回しながら言った。

 早く始めないと身体が冷えるという感じだ。。



「説明はそれだけか? ならすぐに始めてくれ。とっくに心は決まっている」

「ですよね。あとは拳で語ったほうがいいですよ。いまさらぼくに怖いものなんてありませんし」」

「わかりました。八郎さま、愛聖さまお二人はこのまま船に残っていて下さい。まもなく出港しすますので。沿岸に被害の及ばない海域についたら試合開始です」



 二人を残して他の面々は船を下りた。

 すぐに貨物船は出港した。

 波しぶきを上げながら沖の方へと進んでいく。

 甲板は試合をやりやすように板張りに張り替えられ、最低限のマストと他にはコンテナ群くらいしかなかった。

 コンテナ群は船の前方向へ偏って配置されており、何もないスペースが半分後の半分は、サイコロサイズのコンテナが雑多な色に塗られて置かれていた。

 配置は十字路をいくつも組み合わせて形で、隙間は大人二、三人が通れるだけあった。

 格闘には師匠なさそうである。

 だだ一つだけ離れて所に別の箱があった。

 表面が銀色に光り大きさは縦横五メートルはあった。

 海に浮かぶ道場といった感じである。

 試合開始まであと十分くらいであろうか。

 八郎と愛聖は待ち時間の間話していた。

 とてもこれから殺し合う人間同士とは思えないほど自然であった。



「緊張するねー。ぼく闘龍試合試合は初めてだから、ドキドキするよ」

「手に人と書いて飲んでみたらどうだ。落ち着くぞ」

「人ってどう書くの?」

「……まじかお前」

「あー! いま馬鹿にした! いいじゃん格闘者に国語とか必要ないし!」

「おれが言うのもなんだが勉強はしろ。読み書きはできて損はない」

「じゃあ帰ったらパパに教えてもらうよ。百億稼ぐんだしご褒美があってもいいよね」

「残念だがそいつは無理だな。この船から降りるのはおれだ」

「いうよねー。ぶっ殺しちゃうよ?」

「お互いにな」



 馬鹿話を続けているとついにアナウンスが鳴った。

 試合がスタートするのだ。

 八郎は選手紹介を待っていた。

 だが実際にあったハディソンの声明は、



『これよりエキシビジョンマッチを開始させていただきます。対戦カードは真路愛聖対挑戦者セパード! セパード選手は我々が用意した選手でございます。会員の皆様には賭けもおこなっております』



 八郎は眉をしかめた。

 このような話は聞いていない。

 ハディソンに事情を問い詰めようとしていると、愛聖が言った。



「大丈夫だよ八郎。ぼくがハディソンさんにお願いしたんだ。八郎を驚かせようと思ってね。もちろん挑戦者にぼくが負けた場合は、自動的にそっちの勝利になるからね」

「どういうことだ愛聖。おれはー」

「しっ。もう来るよ」



 愛聖が言うと同時に銀の箱が開いた。

 中から出て来たのは一頭の熊であった。




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