噂
空っ風が吹き初めた11月半ば
寒さに身を縮め、ため息を吐き出す。
その時、音楽が流れる。
小さな時から当たり前の様に慣れ親しんだ音楽だ。
そこでふと、ある噂を思い出す。
___あ、もしここで…いいなぁ、巡り会いたい
噂に少しの羨望を抱き、再び帰路につこうとしたとき、俺の名前を呼ぶ奴がいた。
「ん?椎凪じゃないか?」
「お、ホントだ。おーい椎凪!」
「石川、吉川。お前らが一緒って珍しいな」
俺に声をかけたのは、石川宏大と吉川祐希だった。
石川は、今時では珍しい硬派で義理堅い奴だ。
一方で吉川は三度のメシより軟派という奴で、流行に流されやすかったりする。
本人は流行に乗ってらしいが。
「先程会ったんだ」「そ〜ゆう椎凪はどったの?」
「芳川先生に雑用頼まれたんだ」
「うわーあの先生人遣い荒いんだよなー」
「ドンマイ」と手を合わせてくるから一発殴っておいた。
「そういやさーあの噂知ってる?夕方の音楽が流れた時に"人が死ぬ"って言う」
「逆に知らない奴が居るのかよ」
「うーん…じゃあさ!クラスの新田彩香ちゃんがその噂で死んだってのは?」
「噂だろ」
「いやまあ、そうなんだけどさー…」
どこか納得のいっていない吉川。
そして、その意識を遮断するようにサイレンが、辺りに響いた
「救急車?」
「え、まさか噂が?」
「まさか。そんなわけ無いだろう」
「見に行ってみようか」
「何?そんなの不謹慎だろう」
「非日常に会えるかもしれないんだ。ためらう理由は無いだろう?」
「え、ちょ、まっ…!」
石川と吉川の静止の声を無視して、駆け出す
「はぁ、ほんっと椎凪ってこーゆーの止まらないよね」