ゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビ?
序章-初まり-
光が強いほど影は濃くなる、世界が放っていた光は一瞬にして消え暗く揺れていた影が世界を覆った。
始まりは簡単な失敗からだ。よく見る生物兵器の暴走ではなく自然発生した種かそれとも進化の結果か、「人間たち」は次々と消えていくのだ。代わりにゾンビが増えていく、それだけのことだが、恐怖に支配された人間は何を信用すれば良いのかわからなくなっていった。
ウィルスの変異が如何に恐ろしいものなのかを知った時には既に遅く、1年と経たぬ内に人類の半分は人間以外の何かに変化していた。
などというというありふれた説明は意味を持たないと述べておこう。
1章-ボクはゾンビ-
目を覚ますとボクは家族と一緒にゾンビになっていた。
「ゾンビ!?」家族に囲まれては居たが父さんも母さんも兄貴も映画でよく見るあのゾンビになっていた。皆どこかに怪我をしている。「大丈夫?」と言おうとしたが声が出なかった。
身振り手振りで聞こうとしたが体がゆっくりとしか動かない。
ボクはゆっくりと立ち上がって窓の外を見てみると、どうやら近所の人のほとんどがゾンビになっているようだ。
「なんてことだ!」ボクは叫んだがやっぱり声が出なかった。
外に出て見ようとドアの方に走ろうとしたがゆっくりとしか歩けない。なんだこれは?
父さんと母さんが心配そうに腕を前に突き出してボクの肩をつかもうとしている。
そうか、外は危ないのか、って言うかもうゾンビになっちゃってるし、これ以上悪いことは起きないだろう?と思ったとき一発の銃声がした。
ボクはゆっくりともう一度窓の外を見ると、ゾンビじゃない人間が銃を撃っていた。
パン!パン!パン!とご近所のゾンビさんを撃って車で走っていった。
本能っぽい気持ちが溢れ出し、ボクはその人間を追いかけたくなった。
2章-行こうと思ったが-
ボクはゆっくり歩いて車の走っていった方に向かった。
後ろからはボクの家族3人がボクを止めようと追いかけてくる。
しかし見る見る内に視界から遠ざかる自動車にはとても追いつけなかった
今日は父さん達と一緒に居よう、そう思って家に戻ることにした。
3章-そこらじゅうに-
まず、整理しよう。ボクはゾンビだ、それは間違いない。至極ステレオタイプなゾンビであることは間違いない。
家族もゾンビだ。
ご近所さんもおそらくほとんどがゾンビだ。家に入れず困っているゾンビも居るし間違いない。外開きドアを押している、それじゃ開くわけがないのに。
「あ、家の中からゾンビが出てきた。入れ替わるように困っていたゾンビが入った。」
と、言いたいところなのに声が出ない。仕方がない、慣れよう。
苦労するのはボクも一緒か、押すしか出来ないのは同じだし。でも何故僕達の家族は家に入れたのだろう?出入り口を見てこよう。
そういうことか、父さんか母さんか兄貴は賢いのかも知れない。ドアに物が挟んである。これは玄関に飾ってあった木彫のクマだ。
それにしても昨日から眠くもならないし、腹も空かない。これはゲームの主人公と同じだ。ボクは今ゲームの勇者と同じなんだ。
ということは、モンスターを倒しに行かないといけない。
そういえば昨日人間がご近所のゾンビを襲っていた。人間を倒さないといけないんだなボクは。そうか、そのためにゾンビになったのか。
人間同士なら戦争になってしまう、戦争はいけないがゾンビが人間を倒すことは問題ないからボクはゾンビになったんだ。
勇者が誕生したんだ!でもボクだけじゃなく、そこらじゅうに誕生、じゃなく大発生したんだ!
4章-理解できたこと-
映画でよく見かけた、ドアを普通に開けられないこととか、何故か群れで居ることとか、ゾンビ同士で争い合わないこととか、素手であることとか、後ろに歩けないこととか、話ができないこととか、服が汚いこととか、動物を襲わないこととか、腐らないこととか、走れないこととか、色々と分かった。
ドアを開けられないのと後ろに歩けないのは、前にしか進めないからだ。
群れで居るのとゾンビ同士で争わないのは、仲間意識があるからだ
素手しか居ないのは武器を使うのは卑怯だと考えているからだ
話が出来ないのは息をしていないからだ
服が汚いのは洗濯が出来ないからだ
動物を襲わないのは勇者は敵しか倒さないからだ
腐らないのは新陳代謝がかろうじてあるからだ
走れないのは・・・やっぱりわからない
とにかくボクの疑問のほとんどは解決した。よかったよかった。
5章-興味が無い-
ボクがゾンビになってから何週間かが過ぎたけど、変わりなく日は続いたりする。
食事は要らないし眠ることもないので日がな一日家の中を歩きまわったり、ご近所さんと散歩をしながら人間を探したりして暇つぶしをしていた。
時々他の街まで出かけるけど人間は居ない。このあたりにはもうゾンビしか居ないらしい。困ったことにボク達勇者には人間以外の何にも興味が無いのだ。
6章-殴る蹴るの暴力を受ける-
ある日いつもの散歩をしていると道路を歩いてくるゾンビの一団に出くわした。
そしてついに人間数人を発見したのだった。ボク達とその一団の丁度真ん中あたりで。
「やったぞ、ついに戦いが始まる!」そう思いながら人間たちの方に急いでゆっくりと歩いていった。もちろん向こうの一団も同じ気持なんだろう、腕の動きが少し早い。
挟み打ちだ!と機嫌よく近寄って行くと、パン!パン!パン!と人間が銃を乱射してきた。なんて卑怯な奴らだ、素手のボク達相手に武器を使うとは。
でも、でも、なのだ、弾切れになったようで今度は持っているバットやバールで攻撃してきた。飛び道具じゃないだけマシだが、ボク達も向こうのゾンビ達もボコボコにされた。
痛くないから良いけど、やっぱり卑怯な奴らだ、人間め!と思っていると、あ、一人噛み付いてる。そうか、噛み付けばいいんだ。
しかしどうしてこんなに殴られたり蹴られたりするんだろう。人間ってのは動きの素早い奴らだ。いや、ボク達が遅すぎるのか。じゃあ一人を大勢で退治してやる、数で勝負だ。と、思ったが逃げていった。
追いかけようとしたけど、急いでも追いつけない程速かった。人間というやつは逃げるのだけは早い。さすが悪の権化だ。
7章-どうして集団が出来るのか分かった-
ボク達と向こうのゾンビの一団は何ゾンビかやられたようだ。ここだけはゲームと違って復活させられない。しかたがないので動けないゾンビは置いていくことにした。
今回みたいな事があると危ないので、これからは出来るだけ大勢で動くことにしようとボクは思った。それは他のゾンビも同じようなので、数の少なくなった向こうの一団はボク達とボク達の街に向かうことにした。
そして、帰り道にまた他のゾンビの一団と出会い、みんなでゆらゆらと帰ることになった。
8章-人里離れた山の中に大量のゾンビ-
結構遠くまで来ていたんだな、と思ったのは帰り道が長かったからだ。
そういえば3日位は散歩していたかもしれない。道路を歩くとまた同じだけかかるかも知れないので森を突っ切ることにした。丁度人間が逃げていった森の中だ。
暫く歩くと色んな方向から少数のゾンビが合流してきた。どうやら同じ人間を追ってきたゾンビ達のようだ。
ここでボクはまた思い出した。
なぜ映画では人里離れた森の中にゾンビの大群が居るのか、ということの解答だ。
道路を歩くのも森の中を歩くのも同じ速さなら街へ戻るには森を突っ切ったほうが早い。その上人間は我々ゾンビから逃れるために森の中に隠れているのかもしれない。人間が逃げたのも森の中だ。
9章-どうしてゾンビはゾンビにならないのだろう-
ゾンビがゾンビを襲う事はまずないけど、ゾンビがゾンビを襲うと襲われたゾンビはどうなるんだろう?と思ったので、ボクは好奇心で一緒に散歩に来ていたご近所ゾンビさんを襲ってみた。突然噛みつかれたご近所ゾンビさんは不機嫌になったが、軽く噛み付いただけなのだし怒ることじゃないじゃないか、とボクは考えたけど、よく考えてみるとボクがそうされたらきっと不機嫌になるだろうし仕方ないな、とボクなりに謝った。
10章-これはゾンビゾンビだ-
ボクの好奇心は思わない形で結果を出した。ボクが襲ったご近所ゾンビさんが倒れてしまったのだ。これは困ったぞ?とボクは慌ててゆっくりうろうろした。
死んじゃったのかな?ごめんね?と言おうとしたけどやっぱり声は出なかったから伝わったかはわからなかった。
よほど珍しいことなのか、しばらくゾンビの皆さんとボクは倒れてしまったゾンビさんを眺めていた。すると、死んじゃったと思ったゾンビさんがムクリと起き上がり、ボクに襲いかかろうとした。そりゃそうだよね、いきなり思いつきでやっちゃったんだし、噛まれても仕方ないな、と諦めて襲われるがままにした。痛くないしまあいいや、と。
噛まれて分かったんだけど、ボクが襲ったゾンビさんは、もっとゾンビになっていたようだった。多分人間を噛むとその人間がゾンビになるように、ゾンビがゾンビを噛むともう一回ゾンビになっちゃうみたいなんだ。
つまりボクが襲ったゾンビさんはゾンビゾンビさんになっちゃったんだろう。その証拠にボクは眠くなったことがなかったのに急に意識が無くなって倒れたらしい。
起き上がると、ボクの周りにも沢山のゾンビさん達が倒れていて、最初にボクが襲ったゾンビさんじゃなくてゾンビゾンビさんになってしまったゾンビさんだけがうろうろしていた。
どうやらゾンビがゾンビを襲うとゾンビを襲うゾンビになるのかもしれない。つまり勇者の中の勇者だ。ということはボクはゾンビゾンビさんに噛まれたのでゾンビゾンビゾンビになったのかな?でも変ったところは無いからまぁいっかとゾンビゾンビさんと一緒に倒れたゾンビさん達の周りをうろうろすることにした。
11章-かなしいけどボクってゾンビなのよね-
好奇心というのはボクは抑えきれないらしい。倒れて動かないゾンビさん達をほっといて、ゾンビゾンビさんをもう一度噛んでみようと襲ってみた。やっぱり不機嫌になってゾンビゾンビさんは倒れたけど、今度はどうなるんだろうとワクワクしながらうろうろ見てると、ゾンビゾンビさんに襲われて倒れてたゾンビさん達が順番にゆっくり立ち上がって来た。
この遊びを始めたのはボクだし、また噛まれるのかな?と思ったけど、皆さん何もなかったようにうろうろするだけだった。
あとはボクがもう一回襲って倒れたゾンビゾンビさんが起き上がれば全員揃うことになる。ボクの始めた遊びでなんだか悪いことになっちゃったな、と思ったんで皆さんに精一杯謝って、ゾンビゾンビさんが起きるのをうろうろと待ってると、ゾンビゾンビさんがギギギと起き上がって、少しボクの方を見たけど仕返しはされなかった。
あまり遊びすぎてもいけないので、ボク達は森を突き抜けて街に帰ることにした。
12章-これはゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビ=ゾンビ?-
森を歩きながらボクはずっと考えていた、噛まれれば噛まれるほどゾンビになれると思ったのにそうじゃなかったからだった。
つまり、ゾンビのボクがゾンビさんを噛んでゾンビゾンビさんになって、ゾンビゾンビさんがボクを噛んだからボクはゾンビゾンビゾンビになったはずだ。
ということは、ゾンビゾンビゾンビのボクがゾンビゾンビさんを噛むとゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビになるはずじゃないか?と思ったんだけど、どうやら奇数と偶数の関係なのかもしれない。
つまり今歩いてるゾンビさん達はやっぱりゾンビさんなのだろう、ということだ。
でもまた面白いことを考えたら噛んでみようとこっそり思いながら皆さんについて行った。
終章-壊れたら終り一
ボク達は1日で森を抜けて街に出た。ただ、ボクの街は山というか崖の下にあるからそのまま下るのは危険なので一旦森を少しだけ回って坂を降りて行かないといけない。ボクがゾンビじゃ無かった頃はこの崖の上から街を眺めて遊んだりしたので降りる道は知っていた。
ただ、途中で合流したゾンビさんの中にはそのまま降りようとするゾンビさんが居て、「危ないよ!」と言おうとしたけど声が出なかったので落ちちゃったゾンビさんが居た。
ボクは「高いところから落ちたらどうなるんだろう?」とワクワクしながらゾンビじゃなかった頃の道を急いでゆっくり降りていった。
そして、落ちちゃったゾンビさんのところまで来ると、動かないゾンビさんになってた。
しばらくすればまた起きてくるかな?と思ってずっと待ってたけど、そのゾンビさんはもう起きてこなかった。
そうか、壊れちゃったら起きれないんだ。とわかって、ボクは壊れないようにしようと心に決めて、でもイタズラ心で少し噛んでみた。
でもやっぱり起きなかったんで、ゾンビになっても危ない事はしないことに決めた。
相変わらずドアを押して入れないご近所ゾンビさんを横目にゆらゆらとボクの家へ向かってのんびりとゆっくり歩いて行った。
どうやらまた人間が来ていたようだ。そこらに動けなくなっているゾンビさんたちが居る。ボクの父さんや母さんや兄貴はどうなっているのだろう?不安っぽい気分になったような気がするがそんな感情はゾンビにはない。
5日も家に帰らなかったけれど状況は相変わらず何も変化は無かった。
「ただいま」と言おうとしたが、当然話せないのでそのまま家に入ることにした。
一緒にいろんな場所から来たゾンビさん達はバラバラに家に入ったり入れなかったり、ウロウロしているようだったけど、ボクには関係の無いことだ。
何ゾンビさん達かはボクの家に入ってきたがそれも問題なんてない。ウロウロしてくれてればいいし。
そして父さんと母さんと兄貴はいつもどおり家の中をうろうろするだけだったから、よかったな。と思いながら、次はどこへ行こうか考えながら家の中をうろうろすることにした。
次はそうだな、もっと遠くまで行くことにしよう。また人間を退治したいしなと考えながらボクは最初の冒険を終わらせた。
多分ゲームで言うならLv5くらいにはなってるはずだし、次こそ噛み付いてやる。と思いつつボクは早速出かけることにした。どこに行くかは決めてないけどそんなこと関係無いしどうでもいいんだ。出かけることに意味があるのだから。
でも壊れないようにしないと駄目だな、とは思ったので人間を見つけても安全第一で襲うようにしよう。と決意しながら。