聖浄師
カツカツと廊下を歩く足音だけが響く。
ギルスとヒズミの歩く音が、静かな廊下に木霊す。
「・・・」
ヒズミの体がピク、と動く。
「感じたか?」
「弱い。」
「明らかに面倒臭そうだな。」
「私とあいつらなんて正反対だし。」
はぁ、とヒズミはため息をついた。
(・・・だから言ったじゃないバカ。)
ヒズミが部屋に入った瞬間構えられている。
聖浄師は、聖、という名の通り光の属性を持つ。
聖浄師は代々闇の属性を持つ魔物などを浄化する者で、魔物が大量発生した時、その根源となる者、もしくは物を破壊、討伐するのが役目だ。
対してヒズミは魔物の中でも特に強く、根源となる者、物を全て無視し、自然の流れに任せんとする者だった。つまり、ヒズミは闇の属性を持っている。
「ギルス王、そいつは・・・」
「魔物だが?」
「だが?って・・・」
「ねーねー・・・ねーってば!」
聖浄師と共にいた人間が大声を出し、その場にいた全員の意識がそちらに向く。
「その子さー、なんか悪い人じゃないと思うよー?」
「なんで?」
「だってさ、今まで会った悪い奴らってみーんな私たちを襲ってきたでしょ?この子明らかに面倒臭そーなんだもん。だったら悪い子じゃないのかなーって思って。子供なんて今まで居なかったから興味あるし。あ、今何気に欠伸したし。」
完全に暇で面倒臭そうに立つヒズミを指差し、その女性が言う。
「んー・・・じゃあ、良い人、なのかな?」
「そう簡単に決めるなよ!」
聖浄師の青年に突っ込む青年。
こちらは飛燕族のようだ。
そんなことには我関せずと言った風に明後日の方向に目を向けているヒズミ。そこで、ヒズミの目線が動いた。
その視線はドアに向けられ、3秒ほどでドアが叩き付けるように開かれた。
「大変です!賊が城内に侵入しました!腕が立つようで、兵士の中に負傷者は出ていませんがエルフの子供がメイドを庇い即死しました。」
「その子は金髪?」
ヒズミが口を開く。
「はい。」
「そう。」
「早くお逃げくださ・・・」
そう言いかけ、兵士の首が飛んだ。
女性陣から小さな悲鳴が上がる。
「女ばっかじゃねーかー。まー皆殺しにすりゃあいいだろ。」
髭を生やしたゴツい男が言う。
「エルフの子を殺したのはお前?」
「あー、そんな下等種族もいたっけなー。まぁ嬢ちゃんもすぐそっちに逝かせてやるよ!」
「三枚目、shadowsnake」
『シャァァァァ!』
バクン、と音がして、上半身を失った男が血飛沫を上げながら後ろに倒れる。
先ほどの音は蛇の叫びだった。
巨大な黒い蛇はシュルシュルとヒズミの元まで行くと、ヒズミを中心にとぐろを巻く。
「この女っ・・・」
「」
ヒズミが小さく何かを呟く。
「あ?」
「・・・頂戴?」
「何を?」
聖浄師が尋ねる。
「あなたたちのその傲慢、私に頂戴っ!!」
蛇が襲いかかるのと同時にヒズミも躍りかかる。
ヒズミにこの女、と言った者を除き、皆殺しにされるのは容易かった。
「これはなんだと思う?」
聖浄師たちの方を振り返り、手に持ったカードをシャッフルする。
「・・・トランプ?」
「正解。じゃあこれで何をする?」
「うーん、わかんない!」
「あっさり言っちゃダメだろう・・・」
「こうするの。・・・blank」
もう一つのトランプの束を取り出す。
「draw」
一枚のカードが浮かび上がり、ヒズミはそれを手にすると、男の元へと歩き、翳す。
「Get」
男の体が鈍く光り、光は球体に。そして、その球体はトランプに吸い込まれた。
空白のカードには絵が描かれ、タロットの様に上に文字が書かれていた。
『arrogance』
別の束に仕舞うと、その束から別のカードを取り出し、再び翳す。辺りは何もなかったかのように元に戻った。
「今のは見たことがないな。」
ギルスが言う。
「53枚目、Destruction」
「なるほど」
「待ってよ待ってよ!どういう意味?」
「隠滅。全てをなかったことにする力を持つ便利なカード。記憶は消せない。」
カードをドレスのホルダーに仕舞うと、
「これでも手伝いが欲しいの?」
カクリと首を傾げ聞いた。
「逆に来てほしくなった!」
「「は!?」」
ヒズミの声と聖浄師のツッコミ役のような青年の声が重なる。
「なんか強そうだし。」
「そういう問題じゃないだろ!」
「少々不用心過ぎませんか・・・?」
聖浄師のサポート役らしき飛燕族も不安そうにする。
「俺の友だ、心配はいらん。」
「と、ギルス王も言ってるし!てなわけでよろしく!」
青年や飛燕族はもう説得を諦めたようだ。
人間の女性はニコニコしてるし。
「はいはいよろしく聖浄師。」
「聖浄師じゃなくてフェインって呼んで。」
「・・・はいはい」