黒と赤
「うわぁぁぁぁん・・・」
道の真ん中で金髪の女の子がへたり込んで泣いている。耳は長く尖っており、エルフだと一目でわかった。
しかし、誰も気にする者はおらず、ただただ通り過ぎていくばかりだった。
「・・・大丈夫?」
少女を見下ろすように声をかける少女。
誰一人少女に声をかけなかった中で、この少女は声を掛けた。
「わ、私、エルフ、だからっ・・・」
「関係ない。」
声をかけたくせに興味のなさそうな少女。
「どこに行くの?」
「王宮に、行くの。ここの、王様優しいから、」
「そう。じゃあ一緒。」
そう言って少女はエルフの少女の手を握り、自分も立ち上がる。
そこで初めてエルフの少女は気付いた。
少女の両目には包帯が巻かれており、この少女の目が見えないことに。
それ以外にも不思議なところはあり、容姿は美しいという他ない。
先が緩いウェーブのかかった黒髪。
赤い簪。
スカート部分は普通のドレスのように真っ赤で胸元には黒い紐で作られたリボン。
スカート部分はドレスなのに、袖は着物のようになっていた。こちらは片腕部分が黒の生地に赤い花。もう片方は赤い生地に黒い花と、かなり変わったファッション。
一番目立つのは、この少女の肌以外が黒と赤で彩られていることだった。
「お姉ちゃんはどうして王宮に?」
すっかり泣き止んだエルフの少女が尋ねる。
「呼ばれた。」
「お姉ちゃんの部族が?」
「個人。」
「・・・何したの?」
「何も。手を借りたいだってさ。王は・・・ギルスは友。」
「へぇ!すごい人なんだね!」
「さぁね。」
やがて王宮についた。
「じゃあね。」
「うん、ありがとー!」
(友と言えるかわからないけど)
ギィっと兵士が重たそうな扉を開けるのを見ながら思う。
王自身の人柄の良さは自分もよく知っているし、彼もこの少女・・・ヒズミの数少ない理解者でもある。
ヒズミの名は、緋棲と書くものもいるが。
左の袖を口元に当てながら、スッと奥に歩いていく。これは和妖怪の癖のようなものだ。
「久しぶり、ギルス。」
通されたのは、会議室。
ヒズミが微笑む。
ギルスの言う手伝いが少女であったことに驚き、さらに呼び捨て。
ざわざわとする会議室だが、その元であるヒズミは微笑みを崩さない。
「上手くなった?」
「そうだな。今では判別がつかん。」
「それはそれは・・・」
周りにはなにが上手くなったのかわけがわからないが、2人の間では通用しているようなので、誰も口を挟まない。というかそんな無礼なことはしない。
「それで?」
「はっきりと言わせてもらう。お前には聖浄師と共に旅をし、聖浄師の手伝いをしてもらいたい。」
「どうして?私は良くても聖浄師の近くには飛燕族がいる。というか私自身よくない。」
「なぜだ?」
「私の力に相応しい者なの?」
ズバリと言い切るヒズミ。
「顔合わせ程度はしてもらいたい。」
「・・・いいよ、友の頼みだから。」
ふわりともう一度ヒズミは微笑んだ。