表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/98

41話『温泉回』・下

総合ポイントが1000を超えました! ありがとうございます!!


この物語を投稿し始める前に、目標としていたことが三つあります。

・統合ポイント1000を超えること。

・レビューを書いてもらうこと。

もうすでに二つ叶ってしまいました!


ありがとう! めちゃめちゃ嬉しいです!! 次回、8月25日更新予定です!

 

 何が起こったのか理解できなかった。

 仰向けに倒れたオルタモルの眼に、少女の美しい裸体が映った。裸を恥ずかしがる様子もなく、ミスリルの短剣を手に持っている。さっきまで、この男が持っていたものだ。


「一応解説しておくと……」


 裸身の少女は、鈴の音のような声で話し始めた。

 一方のオルタモルは、体中が針に刺されたように痛み、筋肉が硬直して身動きが取れない。


「水というのは雷霆でんきを通す。とくに電気を通す物質(電解質)がたっぷりと溶け込んでいる温泉水なら、なおさら。まぁ、言っても理解できないだろうけどね…」


 少女は、あえてオルタモルを激昂させて、雷霆の魔術を撃たせたのだ。


 同時に、たっぷり温泉水を含んだタオルを投げつけることで、その電撃を、術者自身に与えたのである。


 とはいえ、これは半分は計略だが、もう半分は性格であった。

 ミーシャは、心にそまぬ生き方よりも、危険を承知で、自分の意志を貫くことを良しとするところがある。


「こんな感じか」


 少女はミスリルの短剣に魔力を流して、雷霆の魔法陣を描いた。


「お前は…随分と、この魔方陣を自慢していたが、この魔方陣には、威力を設定する魔術文字シジルが描かれてない。何の事はない。お前は、人をしばらく痺れさせる程度の魔力しか、生み出せなかっただけだ」


「さて…」少女はむしろ沈痛な面持ちで、話を続けた。

「お前の名前はなんという?」


 恐怖がじわりと、オルタモルの心を蚕食していく。

 格の違いを思い知らされていた。


「オ…オルタモルだ。ま、待ってくれ。 出来心だったんだ。つい、調子に乗っちまったんだよぉ。誰だって魔が差す時くらいあるだろぉ? これが初めてなんだよぉ。本当は、もっと真面目なんだ! うう……許してくれぇ!」


 小悪党のオルタモルは、まくし立てた。彼自身がかつて説明したように、痺れて動けなかったが、喋ることは出来た。


「初めてだって? それは私に敵対したことか? それとも、女性を慰み者にしようとしたことがか?」

「りょ、両方だ……! 本気で襲おうなんて…そんな事一度も思ってなかったんだ。出来心なんだよぅ。本当は、善良な冒険者なんだよぉおお。勘弁してくれぇえぇぇ!」

「嘘だね」

「え?」

「私がミスリルの短剣を奪われたのは、フンボルトの内乱の時。だが、お前は騎士でもなく、捕まえた追跡者でもない。つまり、オルタモル。お前は、私の顔合わせをした人物。となれば、オーガを使って倒した山賊の一人だ。

 “初めて”私と敵対しただって? すでに三度も敵対しているだろう?」


 ミーシャの瞳が怒りに燃えて、鋼色に輝いている。


「さらにお前は、自分の《雷霆のクォーラル》が傷をつけず、なおかつ喋ることが出来るのを知っていた! 一度も試したことがなく、そんなことがわかるものか!」

「ま、待ってくれ! なぁ……殺さないでくれぇ。故郷に、残した女房とガキがいるんだ。あいつらを残したら、路頭に迷っちまう。これからは、まっとうに生きる。教会の律法にも従う! だから、どうか命だけは助けてくれぇ! これは、これだけは、本当だ!」


「…『三度目の正直』のつもりか? これからは心を切り替えて、まっとうに生きると誓うのか?」

「ち、誓う。もちろんだ。ガキのためにも良い父親になる。だから……」

「……そう」


 ミーシャは、思案げに視線を外した。そして、そのまま小悪党に背中を見せて、歩き去ろうとする。

 その後ろ姿を見て、オルタモルは、自分の運がまだ消えてないことを確信した。


(ころっと言うことを、信じまいやがった。甘ちゃんのガキめ。おりゃあ、こういう男勝りな女は、大嫌れぇなんだ。……あのミスリルのナイフを奪って、ぶっ刺してやるぞ。………今だ!)


 オルタモルは、痺れの残る体を強引に引き剥がして、裸身の少女に襲いかかった!


「うらああぁ」

「だと思った」


 振り返りざま、ミーシャは《雷霆のクォーラル》を撃ち放った!


「やはり……。スタンガンと同じ。……痺れて動けなくなったとしても、一時的なものか」

「あぐッ……」

「『二度ある事は三度あった』な、オルタモル。魔力とはすなわち、精神の力。お前のゲスな魔力振動ヴァイブレーションで、何をしようとしているのか丸わかりだったよ。そも、お前みたいなグズが、簡単に心を入れ替えれるものか!」


「ぐ…」

 鋼色の瞳に射すくめられて、オルタモルは弁解も出来ない。

 体中が、さっきに倍する痛みで、指一本すら動かせない。


「意識はあるようだな。というより、痛みで気絶することも出来ないのか?」


「こ、殺さないで……か、家族がいるんだ」


「まぁ、いいさ。お前みたいな父親が居ないほうが、母子ともに真っ当に生きるだろうよ。

 個人的恨みを言うようでなんだが、私は、子供を成しておきながら、親の役目を果たさない奴が大嫌いなんだ。けどまぁ……」


 銀髪の少女は、不吉な笑みを浮かべた。


「殺しはしないさ。 だが、今後悪いことが出来ないように、“ご褒美”を与えてやる」

「な、何を…」


 少女は何を思ったのか、右足を男の股間に置いた。


「目には目を、歯には歯を……」


 そう唱えて、小さく跳躍し、全体重を男の股間にかけた。

 男は、今度こそ気絶した。


 ***


「ふぅー」


 ミーシャは、温泉に体を沈めた。冬の寒気に冷えた体が、じんわりと温まってくる。

 その温泉の近くには、のぞき魔オルタモルが倒れていた。

 念のため《昏睡の掌》によって、この乱れ髪の男を無力化している。


 温泉に入ったまま、ミーシャはミスリルの短剣をもう一度、鞘から引き抜いて眺めた。

 その細身の刀身はゆるやかに反りがあり、流麗さを感じさせる。

 鞘には細い革紐がついており、短剣のつばに絡ませることで鞘走らないようにする仕組みだ。


「やっぱり、師匠から貰った短剣だ……」


 ミーシャの灰色の瞳が緩んだ。

 このミスリルの短剣を取り戻せるとは思っていなかった。素直に嬉しかった。胸の奥から優しく温かい泉が湧くのを感じた。


 温泉に浸かりながら、景色を見晴らしていると、小さな複数の人影がみえた。

 料理屋の女将エッダが、自警団の番兵をつれて来てくれたのだろう。さすがに、番兵にまで肌を晒すつもりはない。


 そろそろ、服を着なければならないようだった。

『目には目を歯には歯を』

 ……ハンムラビ法典からの引用とされる。その意味は、「やられたらやり返せ」ではなく、過剰な報復を戒めるもの。

 ミーシャも、同程度の罰を与えるという意味で使っている。それはミーシャに襲いかかったことではなく、無頼のオルタモルが女性を泣かせてきたことへの罰である。

 ちなみに調べたところ、睾丸は意外に丈夫らしく、踏みつけたくらいでは潰れないらしい。

 さらに余談ながら、金玉潰しという性癖があるということを、はじめて知りました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ