表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/98

31話『街道沿いの村』・中

「『アパング愚連隊』を舐めるんじゃねぇぞ、アマァ!」


 目を覚ました盗賊のリーダーの第一声がこれであった。縛られたままで、怒声を張り上げている。

 ミーシャは無言で魔法陣を描く。


 《貫く理力のクォーラル》


 無慈悲な光の矢が、腹部に突き刺さった。


「ぐっ! てめぇ、覚えてろよ……」


 《貫く理力のクォーラル》


 光の矢が再び、腹部に突き刺さった。

 男がおとなしく黙るまで、ミーシャはこれを続けた。《理力のクォーラル》の光の矢は、元来、肉体を傷つけるほどの威力はない。だが、当たれば悶絶するほどの痛みがある。


「私が訊きたいのは、二つだけだ。誰かに頼まれて私達を襲ったのか? それと、お前たちはこのような真似を何度やった?」


 ミーシャがこう訊いたのは、彼らが『ゼファーの追っ手』であるかどうかを確認するためだった。

 イレーネは尋問には加わらず、辺りの警戒を行っている。


「…ああ。頼まれたよ」


 しぶしぶと言った様子で、男は答えた。


「どんな奴だ?」

「……わかるだろ。『夜更けの切望』ギルドに入るためだ。 頭領のオウ・アグラに言われたんだ。ギルドに入りたきゃ、荷駄を襲って金を上納しろってな」


 ギルドとは、商工業者の同業組合のことだ。この場合は、盗賊の同業組合であろう。ヤクザと考えれば、大きく外れていない。この世界での日は浅いが、ミーシャもその位は分かる。

 どうやらギルドに入るために強盗を働こうとしただけで、ゼファーとの件とは無関係であるらしい。


「盗賊ギルドに入ってどうなる? せいぜい良いように使われ、捨てられるのが落ちだろう?」

「だからって、こんな田舎でくすぶってられるか! まっとうに働いたところで、俺らは一生浮かび上がれっこねぇ! それなら、一か八かやった方がマシだろうが!」

「それで、他人を食い物にして生きていくのか?」

「所詮、食うか食われるかだろうが! 綺麗事で世の中、渡っていけるかよ!」


 男は唾を地面に吐き捨てた。

 追っ手でないならば、彼ら『アパング愚連隊』とやらに関わる必要はないはずだった。

 しかし、ミーシャは捨て置けなかった。憤激がマグマのように滞留している。


「たとえ、お前一人が浮かび上がれたとしても、その分、誰かが沈み込むだけだ。全体としては何も変わらない。いや、お前がいる分だけ、マイナスになる。

 それじゃ結局、社会はほそるだけだ」

「もういいわよ、ジーネ(・・・)


 横合いから、イレーネが声をかけた。


「こういう手合いに、道徳を語って聞かせたところで無意味よ。他人を蹴落としてでも自分さえ良ければいいという人間は、それこそ星の数だけいるわ。……今更、どうしようもないことよ」


 冷たい声音でイレーネは言った。冷酷というより無関心なのだ。彼らがどうなろうと、どうでもいい。


「待ってください、天使様!」


 少年が声を上げた。

 確か、ブレカと呼ばれていた少年だ。いつの間にか、意識を取り戻していたらしい。

 縛られながらも、にじり寄って必死に頼み込んでくる。


「おいら達は悪いことをしました。でも、盗賊の真似事をしたのは今日が初めてで、まだ誰からも奪ってません。どうか、お慈悲を…!」

「馬鹿野郎。頭を下げるんじゃねぇ!」


 リーダーの男が叫んだ。


「俺は絶対に頭を下げねぇ……。のし上がってやると決めたんだ。こんな奴らに頭を下げられるかよ……!」

「のし上がりたいのなら、努力しろ!」


 ミーシャは叫んだ。

 不意の怒りが、頭に血をのぼらせていた。滞留していた怒りが、噴出し始める。


「学べ! 技を磨け! 寸暇を惜しまずに働け! 考え抜け! 何かを欲しいのなら、それに見合った努力をしろ! お前がやろうとしているのは、弱者を食い物にし、強者から食い物にされるだけの道だ!」


 ミーシャは怒っていた。この男にだけではなく、この世界に。この社会に。人が人を食い物にする社会は間違っている。


「ゼファーの言葉が、今なら分かる。食いものにする人間と食い物にされる人間。こんな奴らばかりを相手にしてきたというのなら、この世(オルゼスール)に絶望もする!」


 ミーシャの怒りに反応して、残っていた《浮遊する理力のクォーレル》がまばゆく輝きだした。

 心の昂ぶりが、魔力を高めたのだ。


「お前は何もしないで、他人から奪って生きていくつもりか? それが誇りある人生だとでも言うつもりか!」

「誇りで飯が食えるかよ!」

「頭を下げるなといったのは何だ! 誇りを失いたくないからじゃないのか!? なのに、誇りをないがしろにするのか? 努力するのも嫌、頭を下げるのも嫌。お前は、ただ楽して生きたいと願うだけの甘ったれだ!」


 光の矢を、男につきつける。


「いいか。真に誇りある人間というのは、目的のために、地に塗れることを良しとする人間だ。誰かのために命を張れる人間だ。決して誰かを食い物にする人間じゃない!」

「その位にしておきなさい」


 ミーシャの肩に手をおいて、静かにイレーネが言った。


「あなたの気持ちはわかるわ。でも、今は語るべき時ではないと思う。私達にも、目的があることを忘れないで」


 イレーネに振り返ったミーシャの顔は、紅潮していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ