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31話『街道沿いの村』・上

……ごめんなさい。文章の推敲がおっつきません。無駄に文章量多いです。

 朝日は、生きとし生けるもの全てに与えられる神の恵みと、聖典はうたう。

 太陽の光は神のお恵みであるから、感謝しなければならぬというわけだ。

 信徒ではないミーシャなどからすれば、「地下牢獄の囚人はどうなんだ?」といささか皮肉げに思う。


 とはいえ、口には出さない。

 この国の住人にとっては、神は信じるものではない。神は常識であり、聖典が間違っているなど夢にも思わぬ者がほとんどなのだ。

 神を信じないと言えば、反感を買うより前に、正気を疑われるだろう。

 そのような時代の西方王国ミノシアにあって、ミーシャス・ジーネ・イチノセは、異端児といえた。


 街道に、朝日が差し込んでいる。

 その清涼な空気の中を、イレーネとミーシャの魔術師の師弟と、荷駄を乗せた騾馬らばが歩いている。


(神様がいようといまいと、朝日が気持ち良いのは変わらないな)


 ミーシャは、騾馬らばを引きながら、そんなことを思った。

 騾馬らばは小気味よく、蹄の音を響かせている。

 秋が過ぎて、冬の寒さが忍び寄ってくる時期ではあったが、朝の清涼な空気はミーシャの心身に心地いい。

 また、そう思えるのは、魔術の師匠イレーネが隣を歩いていることが無関係ではないだろう。


「気持ちのいい朝ですね。師匠」


 隣を歩くイレーネに、ミーシャは笑いかけた。

 イレーネはフードをとって、波打つミルクティー色の髪を朝の風になびかせている。横顔が凛々しくも、柔らかい。

 ミーシャにとって、この世界(オルゼスール)で、もっとも信頼する人が、彼女だった。幾度も命を救ってくれた恩人でもある。


 イレーネは錬金術士でもあり、この時代における知識人だった。開明的であり、信仰心はあれど頑迷ではない。

『霧の魔女』として、王国中を渡り歩いた経験から、東方にある王国リュキアや、南方に数多あまたある王国では、また別の神と宗教を信じていることを知っていた。

 なにより自分の好みを認めない宗教に、熱心になれないのは当然であった。


「そうね。心地いいわ」


 イレーネの返事は素っ気なかったが、その声音には、温かみがある。

 ミーシャがイレーネに感謝しているとすれば、イレーネもまた、ミーシャに感謝していた。

 イレーネは女性が好きなのだ。友情ではなく恋情として。教会の律法が罪と定める同性愛者であったのだが、それを弟子に告げた時、ミーシャは、ただ当たり前のものとして受け入れてくれたのだった。

 それがイレーネにとって、どれほど心の救いになったことか。


「ミーシャ、体の調子はどう? 本当なら、全身に怪我を負っているときに旅立ちたくはなかったんだけど」


 ふと心づいて、イレーネは言った。


「大丈夫ですよ。師匠に治療してもらいましたから。というか、傷と言ってもさほど深いものではなかったですし」

「でも無理はしないようにね。まだ治りきってないんだから」

「大丈夫ですよ」


 安心させるように、ミーシャは伸びをした。

 ほんの数日前、ミーシャは虜囚の身であった。そこから抜け出すときに、魔術師ゼファーによって、全身に切り傷を負ったのである。

 その場は、イレーネの協力もあって逃げ出したものの、追っ手がかかる事もあって、住み慣れた『魔女の庵』を離れなければならなかったのだ。


(それほど痛みがある様子でもなさそうね…)


 イレーネは、ほっとする。

 弟子にしたのだから、彼女を憎からず思っているのは当然だが、ミーシャは少々型破りなところがある。

 そこが、どうにもイレーネを心配させるのだ。


 魔術師二人は「フンボルト内乱」の戦禍と、ゼファーの追っ手から逃げるために、自治都市フェレチへと向かう途中だった。

 自治都市フェレチは、王室の直轄地であるため、貴族たちの権威が及びにくい。退避するには、絶好の場所と言えた。


 途中にあるアパングの村で、仲間であるレイミアとアマロに合流する予定である。



 ***


「あれ? …あの人だかりは何でしょう?」


 彼女らが行く街道は、見晴らしが良い。保安上の観点から、不埒な盗賊や魔物をすぐに発見できるようにするためである。

 ミーシャが指さした先には人だかりができていた。七、八人が輪を作って話し込んでいるようにみえる。


「強盗よ。弱そうな相手なら襲って、そうでないなら旅人のふりをする種類のね」

「私達は…」

「女性二人だけよ。魔術師風の女性に、ゴーストの扮装をした子供じゃあ、格好の餌食に見えるでしょうね」


 ミーシャは、今、白いシーツを外套ローブのように、縫い合わせたものを着込んでいる。

 目立つプラチナ・ブロンドや、顔を隠して、身元を分からなくするためだが、シーツをかぶったお化け(ゴースト)のような格好ではある。


(好き好んで、こんな格好しているわけじゃないんだけどな……)などと思いつつ、ミーシャは師匠に別のことを尋ねた。


「……先制します?」

「んー。本当にただの旅人なら、良くないわね……」


 言いながら、イレーネは魔法陣を描いた。


 《生命の眼》


 生命の力を持つ存在が輝きとなって、イレーネの眼に映しだされる。


「……盗賊確定だわ。街道のそばの林に五人ほど潜んでいる。近寄ったところを挟み撃ちにするつもりね」

「……治安悪いなぁ」


 慨嘆がいたんして、ミーシャは空を見上げたが、長い時間ではなかった。「よし」と両手を打ち鳴らして、視線を戻す。


「私が対処します。師匠は援護を」


 事も無げに言ったが、イレーネは心配そうに聞いてくる。


「大丈夫なの? 言うまでもないことだけど、魔術師は魔法陣を描く分だけ接近戦には弱いのよ?」

「幸か不幸か、修羅場をくぐってますからね。 オーガを倒したこともあるんですよ、私」


 そう冗談めかして笑い、ミーシャは魔法陣を構築した。


 ***


「おうおう、なんだ? チンドン屋(ピエロ)か? ゴーストの仮装でもやってんのか?」


 ミーシャが人だかりに近づくと、ガラの悪い男が話しかけてきた。

 人だかりは、六人の男たちだった。いずれも若い男で、まだ子供の面影を残している者もいる。


(なんだか、強盗らしくないな…)


 ガラは悪いが、興味津々といった口調である。

 盗賊らしい口上なら、すぐにでも制圧してやるつもりだったが……。ミーシャは当てが外れていた。


 ちらりと「重度の伝染病患者だと嘘をついて逃げる」という考えがよぎったが、それでは彼らが『賊』なのか、『追っ手』なのかが分からない。

 善意の一般市民ではないことは、林の中に人を伏せているところからして間違いなさそうだが。


(リスクはあるけど……、顔を晒してみるか)


 ある程度『追っ手』にヒントを与えることは、師匠イレーネとも話し合い、計画の内に入っている。


「……」


 ミーシャは、フードを取り、マスクを下ろして素顔を晒した。

 素肌が外気に触れて、プラチナ・ブロンドの髪が風に揺れて輝く。


「おお…」


 どよめきがあがった。

 視線を動かして、彼らの反応を見る。


「綺麗なネーチャンだな…」「天使様みたい…」


 そんな声が上がったが、こちらに向かってくる様子はない。


(驚いてはいるけど…目当てを見つけたという印象じゃない……。ゼファーの追っ手ではない……?)


「……君たちは盗賊か?」


 ミーシャが尋ねると、ざわめいていた彼らが、一転して黙る。

 そして意味ありげに、互いに視線を交わす。やや長い沈黙の後、最初に声をかけてきたガラの悪い男が声を上げた。

 この男がリーダー格なのだろう。


「盗賊じゃねぇよ! 俺らは、ただ……この辺にいただけだ」

「この辺で何をしていたんだ? それに、なぜ、五人も木の陰に隠れている?」


 続けてミーシャが問いかけると、またしても彼らは黙った。


「……」

 ミーシャが沈黙を保ったまま、彼らを観察していると、一人の少年がたまりかねた様子で前に躍り出てきた。


「天使さま!」


 そして、聖印を結び、膝をついて懇願する。


「お許し下さい! 天使さま! 私達は悪い事をしました。懺悔ざんげいたしますから、どうか……」

「おい、ブレカ! 黙れ!」

「兄貴、この御方は天使様に違いねぇ。悪行をする前に、おいら達を止めに来てくださったんだ。ウィル達を隠してたこともバレてるし…見てくれよ、袖先そでさきから、光が漏れてるじゃないか!」


 ミーシャはこのとき、すでに《浮遊し追尾する理力のクォーラル》を構築していた。光の矢をあらかじめ周囲に浮かべておくもので、魔力操作のみで素早く発射できる。

 接近戦に弱い魔術師の切り札の一つであった。

 気付かれないように、白い外套シーツの下に隠していたのだが……その光が、漏れていたらしい。


「天使なんかいるもんかよ!」


 兄貴と呼ばれた男ががなりたてる。


「てめぇら、腹をくくれ! ここでやらなきゃ、一生這い上がれねぇぞ!!」


 ミーシャにはその言葉が、仲間よりもむしろ、自分を奮い立たせるための言葉に聞こえた。

 悪行に慣れていない。そんな印象がある。

 しかし、だからといって、手心を加えるミーシャではない。


 《浮遊し追尾する理力のクォーラル》


 外套の袖から、幾本もの矢が光をいて、襲いかかってきた盗賊たちを打ち据えた。十分に魔力を高めた光の矢は盗賊たちの急所に当たり、悶絶させていく。

 そして林に隠れていた盗賊たちも、ミーシャは捉えている。


「うらあああぁぁぁ」


 雄叫びをあげて、隠れていた盗賊たちが襲ってきたが、むしろいい的である。追尾する魔術の矢は、すでに捉えた標的を外すことはない。

 次々と盗賊を打ち倒していく。


 弓矢を使う者もいたが、後ろに控えていたイレーネの《風巻く防壁》で矢は吹き飛ばされている。そのままイレーネは駆け寄って、悶絶する盗賊たちを《昏睡の掌》で気絶させていった。

 当初の作戦通りに、盗賊はすべて制圧された。

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