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1話『霧の魔女』

「はぁ、はぁ」


 鬱蒼うっそうとした森のなか、荒い息遣いが響く。

 こぶだらけの木の根を飛び越しながら、少女は走っていた。


 長い銀色の髪がたなびき、森の薄い闇のなかで、銀色の流星のように見える。

 髪の毛が枝に引っかかりそうになるが、少女はそんなことに頓着とんちゃくしてはいられなかった。


(逃げなければ…! どこか遠く……あれ(・・)が追ってこない内に…)


 頭が重く、朦朧もうろうとしているが、強迫観念のように足は動き続け、心臓は恐怖のために脈打っていた。


 どれほど、走っただろうか。

 走りは、歩みになり、ついで足がもつれそうになり、とうとう少女は足を止めた。見つけた木のうろの中に潜みつつ、荒い息を整える。


 そして、はたと気づく。


(これは、夢だ)

 考えてみれば、私は何から逃げているのか。自問してみるが、答えはなかった。

 逃げなければという気持ちばかりが先走って、足が前に進まないのも、良くある夢の特徴ではないか。


 夢だとしたら、解決するためにはこれしかない。

 立ち向かうことだ。


 少女は傲然と背を伸ばし、声を上げた。

「私はここだ! 逃げも隠れもしないぞ!!」


 ***


 フンボルトは、活気ある港湾都市である。

 潮騒の香りが涼風となって流れると、夏の日差しの暑さも和らぎ、心地良い。

 海の男達が交易や漁業から戻ると、その長いウサを晴らすために、大いに飲み、歌い、騒ぎ、そして女を抱く。そのために、酒場や妓楼は数多い。

 そして、市場通りには、各国から輸入された珍しい文物が売られていた。


 アイヴィゴース家の三男、ジーフリクもこの街が好きだった。堅苦しさを嫌い、自由を愛するこの男にとって、闊達かったつな街の女も、酒も、大の好物とするところである。


 そして今日はジーフリクにとって、記念すべき日だった。馴染みの娼婦であるラヴェルヌの家に、初めて招かれたのである。

 高級娼婦の家に招かれるのは、生半のことではない。娼婦への長年の蕩尽と引き換えにして、ようやく歓待を受けられる資格を得るのだ。


 招待された家は、素晴らしかった。調度品は豪華なだけでなく美的感覚に優れ、女主人のつややかな黒髪は、紗のように美しい。

 酌を受けて、ほどよく酔い、またラヴェルヌも酔わせたところで、ドアノッカーが無粋な音を響かせた。

 無視し得なかったのは、それが聞き覚えのある声だったからである。


「ジーフリク様、家宰かさいミゲイラでございます。主アゲネ様より伝達がございます」


 ジーフリクは、家中騎士である。一応、父から給金を貰う立場であるから、無視を決め込むわけにも行かない。

 だが一言、文句だけは言った。


「無粋だぞ、ミゲイラ。せめて事が終わるまで、待てなかったのか」

「ジーフリク様は性豪でございますから。終わるまで、長いこと待つよりは、始まる前に、お声がけしたほうが良いと思った次第」


 対する家宰の返答も、厳しい。家宰は家門に仕えるものであるが、三男くらいになれば、多少伝法(でんぽう)なことも言えるのだ。


「それで。親父殿がなにか言ってきたのか」

「はい。アゲネ様は、長男、次男と共に、次の日曜日に父のもとに参集せよとのことです」


 何のために兄弟を全員呼ぶのかと訊いたが、家宰は知らされていないと、突っぱねた。家宰ミゲイラは、言いたいことだけを言い放ち、さっぱりとした風情ふぜいで帰っていった。


「帰らなくても、よろしいの?」

 家宰かさいが言うところの長い戦いを終えた後も、なかなか帰ろうとしないジーフリクに娼婦が問いかける。


「なぁに、かまわんさ」

「主君のお怒りを被ることになりません?」

「主君と言っても、俺の父だ。それに、うちの長男のゼノミオと、親父殿は折り合いが悪くてね。顔を合わせれば、必ず喧嘩する。わざわざ居心地の悪い場所におることもあるまいよ」


 ジーフリクには、所詮自分は、貴族の三男坊だという思いがある。

 頑張ろうと、そうでなかろうと、境遇が変わることはない。ならば「楽な方を選んで何が悪い」と、ジーフリクは考えている。


「それにな、父と兄が対立してくれたほうが、俺には都合がいい」

「それはどうして?」


 娼婦は目を輝かせた。人様の揉め事を聞くのが、好きなのだ。


「貴族の三男坊なんざ、屁みたいなもんさ。家を継ぐ()もなく、一生、小部屋住まいの家中騎士で終わっちまう。だが、父と兄の間に揉め事があるってんなら、話は別だ。

 俺は、間に立って仲裁役にもなれるし、逆に一方に味方することもできる。

 一方が破滅したらしたで、勝った方の陣営でございという顔をしていれば、うまい汁を吸う()もあるってことよ」

「さすがですわ、ジーフリク様。本当に頭がいいのね」


 ジーフリクは、娼婦の白々しい褒め言葉にも、酒にも心地よく酔うことが出来た。どうせ、境遇が変わらぬなら、今を楽しんでやる……それがジーフリクの哲学だった。


 ***


 その夜のことである。

 ジーフリクが十分に満足して帰った後、娼婦の家をおとなうものがあった。夜露に濡れたフードを脱いだのは、ゆるく波打つ金髪をまとめた若い女だった。


「いらっしゃいまし。お久しぶりでございます。『霧の魔女』さま」


 魔女は苦笑しながら言う。


「『霧の魔女』はやめてちょうだい。私が、その二つ名を嫌いなのは知っているでしょう?」


 娼婦もまた、笑って返した。


「失礼しました。イレーネさま」

「息災で何よりね、ラヴェルヌ。お茶を頂いてもいい?」

「ええ、もちろん」


 招き入れられた娼婦の家は、ジーフリクのような特別な客を入れることもあって、くつろげるように調度品にも気を使っている。

 娼婦はお茶をいれ、魔女は、持参した菓子を並べる。

 二人だけのお茶会をしながら、ここ数ヶ月の客のことを話す。もちろん、その中には、今日のお客ジーフリクのことも含まれていた。


「…というわけで、今をときめくアイヴィゴース家も、内情はなかなか面白いことになっているようですわ」

「なるほどねぇ」


 魔女はお茶を一口、口に含んだ。

 アイヴィゴース家といえば、もともとは王都住まいの木っ端貴族に過ぎなかった。だが、王家の『お家騒動』の際に上手く立ち回り、常に自分を勝者の側においてきた家である。

 あげく加増転封を許され、この中央半島の南部はすべてアイヴィゴース家の所領となっていた。

 その悪辣あくらつな手腕は、およそ当主アゲネ一人によってなされたものだという。


(アイヴィゴース家は、よくよく注視しておくべきね。特に、勝者の側にいながら、なぜ辺境の領土を得たのかが気にかかる)


 権勢を増した人間は、その権勢をもたらしたモノにしがみつくのが、人の常である。アゲネは政治力によって、権勢を得た。普通ならば、王都で、その権勢にしがみつくはず。

 だのに、なぜ、王都から遠く離れ、政治力を自ら手放そうとするのか。

 確かに領土は大幅に増加し、騎士団も得たが……。


「ありがとう。今日も面白い話をたくさん聞かせてもらったわ。これは些少さしょうだけど、とっておいて」


 いくつかの話を聞いた後、心づけとして、灰銀ミスリル貨を一枚、ラヴェルヌに握らせる。


「あ、これは…イレーネ様、ありがとうございます」

「それと、アイヴィゴース家の三男坊の話は、気に入ったわ。ご当主が何をしようとしているのか、聞けるなら聞いておいてくれる?」

「はい。かならず」

「あんまり無理しないで。聞けそうなら聞いてというだけだからね」


 イレーネはかろやかに笑って、ラヴェルヌに別れの挨拶をした。これで、次回来た時にはより詳しい話を聞かせてもらえるだろう。


 ラヴェルヌの家を出て、夜道を歩く。

 夜、女の一人歩きは怖いものだ。だが、イレーネは、熟練の冒険者であり、『霧の魔女』だ。どうということはなく、《生命の目》や《魔力の目》を駆使して、暗い夜道を危なげなく歩く。


 そして、通りを数十間ほど歩いたところだった。

 鞘鳴りの音が、連続して鳴った。テラテラと危険な輝きをもった長剣が、魔女イレーネの周りを取り囲んでいる。

 イレーネは立ち止まった。

 誰何すいかはしない。盗賊であることは明らかだった。ただ静かに印を結び、袖の裏で魔法陣を描き出す。


「かかれ!」


 声を上げながら、狗盗どもが襲い掛かった。

 魔女は、囲みを突破しようと大地を蹴った。一気に距離をつめてきた魔女に、あわてて狗盗が剣を振りかぶる。

 刹那、金属音とともに、剣が弾き返された。

 篭手をつけていたかと思うと同時に、鼻柱に強い衝撃を受け、もんどりうった。硬い篭手で殴られたのだ。

 その隙に魔女は、賊の囲みを突破している。


「逃すな!」


 狗盗の長らしきものが叫ぶ。魔女イレーネは涼やかに返した。


「もう、終わっているわ」

「何を馬鹿な」


 剣を振り上げて、魔女を斬ろうとする。

 だが、すでに魔女の姿が見えなかった。逃げられたかと一瞬思ったが、そうではない。

 そして、そればかりでも無かった。仲間たちの白刃の煌きすら見えぬ。どういうことだ。狼狽しているうちに、魔女の冷徹な声が響いた。


「これは、|《痺れの霧》。濃い霧のために前が見えず、そして霧を吸い込めば、体がしびれるという魔術。すぐに動けなくなるわけではないけど……」


 位置を探らせぬためか、声が回りこむように、移動している。

 命乞いをするべきか。

 盗賊は頭を巡らしたが、無意味だった。

 喉元に熱い鉄の棒が差し込まれたかと思うと、体から力が抜けていく。


(……。魔術で…喉をやられたのか…。声が移動していたのも、それに気を取らせるため。初めからこうやって、殺すつもり…だった…のか……)


 死ぬ寸前に気づいたが、どうすることも出来ない。重力にひかれるままに、狗盗は地に倒れた。

 冒険者になろうとして田舎から出てきた男は、盗賊として、フンボルトの街の片隅で死んだ。


 ***


 《光明》

 光を生み出す魔術を描き、『霧の魔女』は、死体を検分していく。


「帆布の服に、鋳鉄の剣、装束から見るに、冒険者くずれの盗賊ってところね……。やれやれ。ミスリル貨一枚くらいにはなるかしらね」


 賊の装備を剥ぎ取りながら、イレーネはそう独り言を言った。

 結局、故買屋に持っていった鋳鉄の剣4本は、ミスリル貨1枚と白銅貨1枚に変わった。すなわち、娼婦に渡した分を合わせると、白銅貨一枚分の黒字だったわけである。


 魔女は顔をほころばせた。イレーネは元々、商会を取りしきる都市貴族の出であるためか、収支が黒字であると、些少であっても気分が良くなるのである。

 三つ子の魂百までということなのか、と自分のことを面白く思う。


 とはいえ、イレーネは、決して守銭奴というわけでもない。

 娼婦にお金を渡したのも、その一つだが、将来のための「投資」を欠かしたことはなかった。

 冒険者は、魔物を倒すだけの商売だと思われがちだが、それでは大成することはない。

 イレーネが『霧の魔女』として有名な冒険者となれたのも、騒動の種を見つけ、時には回避し、時には介入することで、大きな儲けを得てきたからだ。


 商家兼貴族の娘のイレーネが、魔術師を志したのは別に商会の仕事が嫌いだったわけではない。両親に、魔術に関わる商品を扱えるようになりたいと語ったこともある。


 しかし、実のところ、イレーネはお伽話に出てくる魔女になりたかったのだ。

 お伽話には、健気けなげに頑張る少女と、それを助ける魔女が頻繁に登場する。

 大抵は、健気な少女の方に自分を投影するものだが、イレーネは”魔女”に憧れた。

 なぜなら結局のところ、健気な少女は、どこかのぽっと出の王子と結婚してしまうからだ。

 幼少の頃からイレーネは、お伽話の少女の行動には納得がいかなかった。


(私は絶対に嫌だわ。いくら金持ちだろうと、あんな得体のしれない王子と結婚するなんて。私が魔女なら、女の子をあんな奴に渡したりはしないのに。ずっと、ずっと女の子を助けてあげるのに!)


 今にして思えば、それが、イレーネが自分の性的嗜好を自覚した始めてなのかもしれない。

 年頃になっても、イレーネは男に気を向けることはなかった。

 周りの女友達が、かっこいい男について噂しても、話に乗りきれなかった。どうしても、男が美しいとも、愛らしいとも思えなかったのだ。


 決定的な出来事が、17歳のときに起きた。

 親が見つけ出してきた、お見合い相手と小旅行に行っていた時のことである。

 どうにも乗り気ではないイレーネに気を揉んだのか、男が乱暴に迫ってきたのだった。

 その頃、すでに覚えていた魔術を使って撃退したものの、もはや「いずれ年頃になったら、男を好きになる」という両親の言葉を信じることは、できなくなっていた。


 その後、イレーネは魔術の修練に精を出すことになる。

 大学にさえ行けば、親から結婚について、とやかく言われまいと思ったからだ。

 そして、ついにブリコシオン魔導大学に入学を果たし、魔術師として3年、錬金術士として3年の在学を経て、イレーネは魔術師と錬金術士の免状を得たのだった。


 その後…。

 運命の奇妙な作用によって、イレーネは、冒険者として成功した後、今は『魔女の庵』にて、隠遁生活をしている。

 冒険者時代の蓄えも十分にあるし、魔法薬や魔法具を作ることも出来るから、生活にはまったく困らない。


 それでも。

 隣に伴侶がいる人生を夢想することが、イレーネにはよくあった。むろん、その伴侶は男性ではなく、女性である。

 もはや、イレーネは開き直っている。

 たとえ教会がなんと言おうと、周りがなんと言おうと、イレーネは女の子が好きなのだ。……だが、同時に、自分と一緒にいてくれる女性が居ないのも知っていた。


(どこからか、女の子が好きな、可愛い女の子が落ちてこないものかしら…)


 自分の棲家である『魔女の庵』に向かう途中の森の小道で、そんな埒もないことを夢想していた時のことである。


 ガサガサと、草木を掻き分ける音が聞こえてきた。

 銀色の流星が目に飛び込んでくる。

 一瞬の自失を経て、それが見事なプラチナ・ブロンドの少女であることに気づいた。

 全力で疾駆していたために、少女の髪の毛が流れ、流星に見えていたのだった。


「……どうやら、誰かに追われているみたいね。このあたりも治安が悪くなったものだわ」


 駈け出しながら、ひとりごちる。

 少女を助けるつもりだった。年端もいかぬ少女を複数人で追いかけ回すなど、どう考えても、まっとうな人間ではない。

 あるいは教会に禁止されている奴隷商人かもしれぬ。だとしたら、なおのこと、許すことは出来ない。


 マナを励起させ、魔法陣を構築する。


 《追尾する炎のクォーラル》


 3つの炎が尾を引いて、追手の三人にあたった。追手がこちらに気づいた。そして、追われていた銀髪の少女も、足を止め、こちらを見つめている。

 少女のそれは単なる驚きではなかった。

 ありえないものを見た驚愕に、眼が見開かれている。


 そして。

 おどろくべきことに。

 少女は、そのまま、崩れ落ちてしまった。


『霧の魔女』は、何が起きたのかさえ分からなかった。炎の矢が当たったわけでもない。

 茂みに隠れて、少女の姿は見えない。

 生きているのか死んでいるのかも分からなかった。

 それに、少女の居た場所は、尾根になっていて、向こう側にも「追っ手」が居るかもしれない。


 そして、魔女は「追っ手」が人間ではないことにも気づいた。アンデッドだった。怨毒で生まれる不死の怪物。

 イレーネはすばやく、次の魔法陣を編む。


 《巨人の怠惰な錘》

 草木が根本から折れ、アンデッドが、腰から砕け落ちる。

 重力を増すこの魔術は、魔力の消費が多いものの、広範囲の敵の動きを止めるにはうってつけの魔法だった。力の弱いアンデッドならば、かけただけで立ち上がれなくなる。


 《力場の刃》

 霧の魔女イレーネは歩みを緩めながら、アンデッドを一体一体、不可視の刃で確実に仕留めていく。

 銀色の髪をした少女は、足の甲を尖った木の根に貫かれていた。

 幸いというべきか、気を失っている様子である。


「……。炎の矢で驚いた隙に、木の根を踏んでしまったのね……。これは、私のせい、ということになるのかしら」


 魔女は慎重に、少女の足から木の根を抜き取り、酒で拭いて、薬を塗りこめた。冒険者として、このくらいは嗜みである。


 《治癒の掌》

 魔法陣が展開して、傷口を照らす。魔力をこめた掌を傷に当てる。


「一応、傷の治りが早くなる魔術をかけたわ。 僧侶に診てもらえれば、一発なんだけど、ないものねだりをしても仕方ないしね」


 それにしても、と魔女は思う。彼女は何者だろうか?

  足には脚絆ゲートルしか巻かれておらず、靴を履いていない。着ている服も貫頭衣である。一見すれば、乞食の服装そのままだ。


 だが、乞食とはいえない。

 乞食の着る貫頭衣はたいてい、安い麻でできているが、これは質の良い綿で出来ている。それに、ところどころ汚れているものの、年季の入った汚れ方ではない。まず間違いなく、ここ最近につけられた汚れであろう。


 少女の体もやつれてはいるが、やつれすぎてはいない。乞食はたいてい、歳月が降り積もったようなやつれ方をしているが、この少女はそうではなかった。


(まるで、わざと乞食の扮装をしている……そんな格好だわ……)


 少女の顔には、銀色の美しい髪が貼りつき、少女は、苦しそうに息を荒らげている。だがそれでも、この少女は美しかった。もしかすると、演劇女優なのかもしれない。

 イレーネは不意に見とれ、気を抜いてしまった。


 その刹那。

 イレーネは、衝撃を感じた。

 突き飛ばされたのだ。少女に。


「なにを…」


 イレーネが呻いた一瞬、木の枝からアンデッドが落ちてきた。


 少女は、先ほどまで気絶したとは思えぬ素早さで、アンデッドの頭に尖った木の根を下から突き刺した。

 粘っこい音がして、アンデッドは脳漿をまき散らした。そのまま動かなくなる。


 少女は、アンデッドが襲ってくるのを見て、イレーネをとっさに突き飛ばし、助けたのだ。


「助かって良かった……」


 あどけない表情で、それだけを言うと、少女はまた気を失って倒れこもうとした。寸前、イレーネは、少女の体を支える。


「助けられたわね…。アンデッドが木に登るなんて…始めてよ……。それに、この子……あの一瞬で、私を突き飛ばして、木の根で攻撃までするなんて……、何者なの?」


 疑問を抱えたまま、イレーネは、少女を魔女の庵へと連れて帰ることにした。

 面倒事かもしれないが、少女に助けられたのは事実である。恩を返さぬわけにはいかなかった。

脚絆ゲートル

 …足に巻く包帯のようなもの。この時代にあっては、足の鬱血うっけつ防止や、サイズの合わない靴に合わせるために、足先から脛に巻いた。

 また、靴も買えないような貧乏人は、ゲートルを巻いて靴代わりにすることもある。

言ってみれば、靴下の前身。

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