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11話『お茶会』

 家中騎士ジーフリクは、抱えられるだけの剣や金品を持って、ようやく港湾都市フンボルトへと辿りついた。

 ジーフリクも騎士であるから、《大力》の闘気法くらいならば使える。しかし、《大力》の闘気法を持ってしても、フンボルトまでの道のりは楽ではなかった。

 なにしろ、冒険者10人分の遺品である。相当なかさと重さになったのだ。


 馴染みの故買屋へ行き、すべての武器やポーチ、魔法薬などを売り払った。これで『懐は重く、心は軽く』となるはずだったのだが、ジーフリクはどういうわけか、まったく心楽しまなかった。


 というのも、あの『銀色の髪の乙女』が気にかかっていたのである。より正確には彼女の『心の真実』という言葉を。


 あの『銀色の髪の乙女』は、こう言っていた。

「自分が『気に入ることはやる』。そして『気に入らないことはやらない』。私の言う『心の真実』とは、ただ、それだけさ」


(…俺は、貴族の三男坊として生まれた。どうにかこうにか家中騎士として食っていけるだけの身分でしかない。だからこそ、俺は『自由』にこだわった。自分の好きなように生きてやると己に誓った。……だというのに!)


 ジーフリクはこれまで、自由に生きてきたつもりだった。長男ゼノミオのように騎士道に囚われることもない、次男フォルケルのように教会の律法に囚われることもない。

 ただただ、やりたいように『自由』に生きてきたはずだった。


 なのに、今、フンボルトの街中を、取り巻き連中と歩き、街の女をひやかしても、酒場で暴れても、娼婦の安っぽい賛辞を受けても、『酔えなく』なっていた。


 ***


「どうにも、つまらん」

 そう独りごちたのは、馴染みの娼婦ラヴェルヌのところであった。


「あら、私の体が、お気に召しませんでしたの?」

 ラヴェルヌは、柔らかく笑いながら言った。


「いや、なに。そうじゃない。 どうにも『銀色の髪の乙女』の言葉が気にかかってな」

 ジーフリクは、正直なことを言った。ラヴェルヌは、物腰が柔らかで、つい色んな事を話してしまう。


「えぇ。そういえば、以前、ここに来てらしたときに聞きましたわ。 確か、お父様の情婦でしたわね?」


「あれが情婦なんてたま(・・)か!」


 つい、ジーフリクは叫んでしまった。あの機知、度胸、苛烈さ、どれをとっても、情婦なぞに収まる器ではない。


 大声を発したことに気づいて、ジーフリクは言い直した。


「いや、まぁ、類まれなる美人ではあったよ。麗質れいしつ玉の如きという奴だ」


 ラヴェルヌは優美な仕草で立ち上がると、キャンドルウォーマーから、ポットを取り上げた。

 高価なキャンドルを使っているあたり、この娼婦の格が分かるというものだ。


 優美な動作で、紅茶のカップをジーフリクに差し出しながら、ラヴェルヌは、いじわるを言った。


「あたしを目の前にして、他の女のことを考えているなんて、妬けますわね!」


 そして、いたずらっぽく笑って尋ねた。


「どうして、そんなに『銀髪の乙女』が気にかかりますの?」

「どうして…か…」

 何気ない質問であったが、その言葉は、ジーフリクを沈思させる結果となった。


「おれは兄貴達のように、何かを奉じるつもりなどない。所詮、三男坊の俺は、自由に生きていってやる。そう思っていたし、今まで『自由』に楽しく生きてきた」

「ええ」


 相槌を打ちながら、娼婦は、この男が、このように真面目な様子を見せたことに驚いた。

 ジーフリクは、これまで不真面目、不道徳、不敵の代名詞的な人間だったものだが……。


「だが、『銀色の髪の乙女』と会ってからは、どうにも楽しくない。酒にも女にも酔えん。あの『乙女』が持つ熱気に、酔いの雲を吹き飛ばされたかのようだ」

「……」

「結局のところ、酒も、女も、遊びにすぎん。……あの娘の生きざまには、何か心焦がされる真剣味がある」


 娼婦は目を伏せてみせた。


「……恋を、なさったのですね」

「恋?」

「ええ、その人のことを思い焦がれ、他の全てが手につかなくなる…。それ(・・)を呼び表すのに、恋以外の言葉を思いつきませんわ」


「恋か…」

 考えたこともなかったが、そうなのかもしれぬ。ジーフリクも25歳になるから、色恋沙汰の1つや2つはある。

 しかも、アイヴィゴース侯爵家の人間であるから、強く望めば、拒む人間など居なかった。目の前にあるマジパン・ビスケットや、七色葡萄のように、手を伸ばせばつまめる菓子……ジーフリクにとって、色恋とはそのようなものであった。


 胸中に渦巻くこの想いは、あの少女に焦がれるもののようでありながら、一方で、自分に苛立ちを覚えるようなものでもある。

 この感情を確かめるためにも、一度、あの『銀髪の乙女』に会わねばなるまい。

 ジーフリクは決心した。


「決めた。俺は、もう一度、『銀色の髪の乙女』に会いに行く」

「あら。よろしいんですの?」

「何がだ?」

「ご執心の『銀色の髪の乙女』は、お父様に引き渡されたのではなくて?」


「ああ…」ジーフリクは、笑った。

「いや、一度は捕まえ、話し合いもしたが、取り逃がしてしまった」


 娼婦は、「あら」と思った。

 妙に晴れ晴れとした物言いだったからだ。普通ならば、取り逃がせば悔しがるだろうに。


「『岩塩窟』の襲撃は、どうなさったの?」

「それも失敗さ。『銀色の髪の乙女』に、手勢がほぼ全滅させられた」


 なるほど、容易ならざる人物らしい。『銀色の髪の乙女』というのは。

 どうせ、手勢は冒険者くずれを雇っただけだろう。だが、それでも痛いことには変わりないだろうに、やはり、晴れ晴れとした物言いである。


(『岩塩窟』の話も気にかかるけれど……『霧の魔女』さまのためにも、もう少し、聞いておくべきかしら)


 娼婦ラヴェルヌは、『霧の魔女』イレーネの情報提供者である。こうして、貴族たちの内情を聞き出し、イレーネに伝えるのが、彼女の役目だった。

 このとき、ラヴェルヌの頭にあったのは、『銀色の髪の乙女』を、イレーネがずいぶん気にしていた様子だったことである。まさか、『銀色の髪の乙女』がイレーネの弟子になっているとは、思いもよらない。


 この後、娼婦は自らの手管によって、『銀色の髪の乙女』の捕獲や、その他の顛末てんまつを詳しく聞き出したが、それは役に立つこと無く、終わることとなった。


 ***


 そのころ、件の『銀色の髪の乙女』イチノセは、イレーネが主催する茶会サロンに顔を出していた。


 岩塩窟の館の比較的大きな一室を借りきって、女性の冒険者達が集まっている。岩塩窟に詰めている冒険者のおおよそ、三人に一人は女性であるから、数は大変なものだ。

 なるべく多くの人を入れるために、立食パーティの形式をとっており、本式の茶会サロンとは、かなり異なるものとなってしまったが、それでも評判は上々だった。


 茶会サロンとは、主に都市に居住する貴族たちが開くもので、小規模の社交界といった趣のものである。

 イレーネも都市貴族であったから、出席したことは多い。

 正直な所、水面下でのドロドロとした争いや、権勢の誇示ばかりで、うんざりしたものだったのだが、貴族ではない女性たちにとっては、憧れるものであった。


 この茶会の目的は、女性冒険者の間で、親睦を深めることが目的であるが、その他に隠れた目的もある。

 セクハラ対策である。

 以前、イチノセが、リェンホーにセクハラを受けていた事があったのだが、他の女性冒険者からも、同じような相談がイレーネにあったのだ。


 イレーネは、このような「お茶会サロン」を頻繁に開くことで、女性冒険者たちを男性から物理的に離し、セクハラから守りつつ、情報を集める機会を持つことにしたのである。


「…というわけで、美容にとって睡眠というのは、重要なんですよ。新陳代謝を促すホルモンが分泌されますので」

「へぇぇ…さすが、『霧の魔女』さまのお弟子さんね。勉強になるわ~」


 イチノセも、何人かの女性冒険者たちと談笑している。

 正直なところ、こういう親睦会というのは苦手なのだ。大学生時代もなるべくコンパなどは避けて通りたい方だった。

 ちなみに理由の半分は、自己紹介の時に、自分の恥ずかしい名前を言わなければならなかったことによる。

 親睦を深めるのが、重要であることは分かっているが、どうしても苦手意識が先に出てしまうのだ。


 といっても、ほとんどの女性冒険者にとっては「年下のかわいい女の子」であり、しかも高名な『霧の魔女』の弟子である。おとなしく壁の花になど、なれるわけがなかった。

 これで、ドロドロの男女関係などを話されたら、イチノセもついていけないところではあったが、さすがに年下に気を使ったのか、そのような話は出なかった。


 そして、女性冒険者の一人アマロット・ヴォーンが、「師弟揃って、美人なのね。なにか秘訣があるの?」と尋ねられたことを契機として、自分の美容についての異世界知識を、『霧の魔女』イレーネからの知識として披露することで、その場を凌ぐことが出来たのである。

 茶会サロンにおいては、知的で洗練された会話が好まれるとされており、イチノセの雑学は、その需要を満たせたということもある。

 もしかすると、衒学げんがく的と思われたかも知れなかったが、気にしても仕方がないだろう。


 日も落ちかかり、それに従って、お茶会もお開きとなった。


 ***


「ふぅー疲れたー」


 そう言って、イチノセは、部屋の寝台ベッドにごろんと寝転がった。師匠のイレーネも、同じ部屋の寝椅子に身を横たえている。


 師弟とも人の輪に囲まれて、お互いに話すことさえ、ろくに出来なかったのだが、ここにきてようやく、のんびりとした時間を持つことが出来たのだった。


「疲れました。もう、次回は勘弁したいです……」

 疲労困憊した様子のイチノセが言った。


 イレーネは流石に慣れたもので、けろりとして笑った。


「でも、こういう人の集まりって大切なのよ。情報交換にもなるし、人脈を作るのにも役立つわ。まぁ、疲れるのも分かるけどね」

「それも商家の娘の心得ですか」

「そうね。貴族というよりは、商家の心得ではあるわ。人脈を作るのに熱心かどうかで、その人物が栄達するかどうか分かるもの」

「へぇ」

「人と人が会って話す機会は、人脈を広げる機会だし、人脈というのは、情報や仕事を運んでくれる上に、自分の声望を増やす重要なものよ。それを分かっていて、労を惜しまない人間は遅かれ早かれ、有名になっていくし、有名になると思うからこそ、皆がその人を引き立てていくものよ」

「ふむ…。コンパに熱心であるほど、恋人が作れる法則と同じですね」

「コンパ? それもフィユスールの知識?」

「まぁ、そうです。…っと、そういえば、美容に関する異世界フィユスール知識を、イレーネさんから教えてもらったということにして、色々話しちゃったんですけど、大丈夫ですか?」


 イレーネは跳ね起きた。


「困るわよ! 適当な事言われたら、私の名に傷がつくでしょうが!」


 相当な剣幕である。もう一々、異世界について問い質しては来なくなったが、未だ信じてくれてなかったのを、イチノセは忘れていた。


「あ、や。ええと、大丈夫です。科学的裏付けのとれていることしか話してませんから」

「それは、こっちで判断するわ。どういうことを話したのか、洗いざらい速やかに吐きなさい!」


 こうして、イチノセは、イレーネに異世界知識について話すことになった。

 だが、驚いたことに、そのほとんどは実際に、イレーネが持っている知識に反するものではなかったのだ。


「驚いたわ……。あとでメモを読み返してみないと、断言できないものもあるけれど、ほとんど正解よ。中には、世に数冊しか残っていない本に書かれていることまで知ってるのね。どうやって、その知識を得たの?」


 イレーネも美容に関しては、並々ならぬ関心があり、ブリコシオン大学の図書館で、その手の知識を収集したものだった。だからこそ、イチノセの知識の豊富さと正確さに驚く。


「ええと、ネットとか、本とかですけど……。というか、私の異世界フィユスール転生について、師匠は、どう考えているんですか?」

「どうしてそこで、捕獲網ネットが出てくるのかわからないけれど……。

 そうね。いくらなんでも、あの世(フィユスール)なんて、信じてないわ。でも、学者見習いだったことは信じる。色々知っているし、頭もいいしね」


 イレーネは体を倒して、寝椅子の背もたれに身を預けた。


「だから、たぶんあなたは、どこか遠くの国に生まれたんだと思うわ。そこでは、雷を使う魔術が発達していたようだけど、ここにあるような魔術はなかった。

 それで、この国に来て、何かがあって、記憶をなくした。いきなり環境が変わったものだから、異世界だと誤認したのよ」

「でも、私は、こんな可愛くなかったし、髪の毛も黒かったんですよ」

「それは、きっと記憶の混乱よ。記憶を失うほどの事があったんだもの、混乱して当然だわ」


 イチノセは、脱力して寝台に体を沈み込ませた。まぁ、信じてもらえないのは分かる。


「ふぅ。違うんですけど、それでいいです」

「強情ねぇ」

「この世界オルゼスールは、どこかの時点で枝分かれしたパラレル・ワールド(平行して存在する世界)だと思うんです。……中近世のヨーロッパのような文明なのに、トマトやジャガイモがあるし、師匠から聞く知識にも、明らかに間違っているものは少ない。

 だからきっと、私はパラレル・ワールドに転生したんだと思うんです。だって、星の位置も、月の模様も、前居たところ同じなんですよ」


 イレーネは、やはりと思った。

 イチノセが話す『フィユスール』という言葉は、イチノセ自身は、異世界という意味で使っている。だが、この時代、イレーネのような知識人であっても、異なる世界という発想はない。

 フィユスールは、直訳すると異なる世界であったが、本来の意味は「この世」に対する「あの世」。すなわち、死後の世界を指しているのだ。

 そして、この時代の世界観では、死んだ霊魂は、あの世である月の世界に行って、幸せに暮らすという伝承がある。


 つまり、イチノセは『死後の世界である月』から、甦ってきた人間だと自称したのである。

 もし、本当に月の世界に居たのなら、そこにも「同じ月」があるはずはない。だから、イレーネは、イチノセがやはり遠い国の人間であると確信した。


 きっと、死んでしまったと錯覚するほどの恐ろしい目にあったのだろう。

 そして、幸福だった幼少時代の国の思い出を、あの世にいたのだと思い込んでしまったのだ。

 この少女は、せいぜい15歳程度。そんな年若い娘が、記憶を失うほどに恐ろしい目にあったのだ。混乱しても、仕方がないことである。


 ここで、その矛盾を問い詰めるのは、大人のすることではないだろう。

 だから、イチノセという少女自身が、記憶を取り戻し、向き合う力をつけられるように、そっと背中を押してやろう。

 イレーネは一瞬で、そのように考えを巡らした。

 だから、口に出してはこういった。


「そうね……。星の位置が同じなら、同じ空の下で、あなたのご両親もきっと幸せに暮らしているわ」


 イチノセも聡いから、その言葉で、イレーネが平行世界や、異世界ということを信じていないということは分かる。

 それでも、自分の両親を案じてくれた言葉を嬉しく思った。


「やさしいんですね。師匠。……ありがとうございます」


 イチノセは思う。

 この世界で心づいてから、師匠イレーネには、たくさん助けられていた。

 そして、今も自分の心をおもんばかってくれている。


 それは嬉しかったが、同時に戸惑う感情だった。

 そのような『愛情』は、真っ当ではない両親のもとに生まれ、養護施設で育ったイチノセにとって、知ってはいるものの、縁遠い感情だった。


 イチノセは寝転んだまま、右腕を顔に乗せて、視界を遮った。

 すこし、心苦しくなったのだ。

 受けるべくもないものを、受けているように思う。


「岩塩窟の食客しょっかくになったのも、私のせい…ですよね。私をかくまうために、わざわざ、アイヴィゴース家に目をつけられるような立場になって……」

「逆よ。イチノセのおかげ(・・・)で、軍事顧問になれたのよ」

「…でも、無償で働いているじゃないですか」

「……」


 イレーネは寝椅子カウチから立ち上がって、イチノセの横たわっている寝台ベッドに、腰掛けた。

 こうしたのは、弟子の口調に消沈を感じたからである。

 そして、イチノセを見つめて、優しく語りかけた。


「ねぇ、イチノセ。別に強いられたわけじゃなくて、自分でそう望んだのよ。

 城代騎士のヘスメン卿が、十分な資金を出してくれたら、私は騎士団との戦いでも、講和に持ち込めるだけの自負はあるわ。

 でも、お金を出してくれなかった時に、後腐れなく逃げ出すには、『無償で善意の協力者』という立ち位置である必要があるの」


 給金を貰えば、雇用関係が生まれて、不十分な防備でも戦わなければならない『義務』が生まれてしまう。

 無償であれば、城代騎士と対等な立場での『協力者』ということになり、資金が十分でなければ、道義に反すること無く、『約束を破った』という名目で協力を取りやめることが出来る。

 言ってみれば、仕事としてやるか、ボランティアとしてやるかの違いである。

 加えて、『善意の協力者』として行動すれば、『善意と仁徳がある』という風評も得られる可能性があるのだ。

 イレーネはそう説明した。


「それと、この地位も、重要なの。考えてみて。イチノセは、村でジーフリクに見つかった。当然、アイヴィゴース家の手勢は、あの村の周辺を嗅ぎまわるでしょう?」

「……だから、岩塩窟に居なくちゃ、危ないってことは分かります」

「そうだけど…それだけじゃないの。

 軍事顧問になれば、斥候せっこうを放つことができるわ。そうすれば、手勢を捕まえて、情報を吐き出させることができる。これが重要な事は分かる?」

「分かります……」


 未だに、イチノセが追われている理由は不明なのだ。

 なぜ、追われているのか。

 どこまで、執着されているのか。


 最低でも、この二つを調べなければ、どこまで逃げれば良いのか分からない。

 それに、もしかすると、人違いだと分かって、逃げなくても良くなるかもしれない。


 闇雲に逃げるよりも、まず、情報収集が大切なのだろう。

 イチノセが、そう考えたことを話すと、師匠は柔らかな声で、褒めてくれた。


「イチノセは、賢いわね。 だからこそ、心苦しく思うのでしょうけれど。

 でもね。あのまま逃げたとしても、すぐに、私がイチノセの師匠だって、分かってしまうでしょう?

 結局、アイヴィゴース家に目をつけられるのは、変わりないわ。それなら、岩塩窟の軍事顧問になって、事態を統制コントロールできる地位にいた方がいいのよ」


 そう言って、イレーネは、横たわったままのイチノセの髪を撫でた。


「それにね。まだまだ、あなたは若いわ。だから、もっと、年上に頼ったっていいのよ」


 優しくしてくれるのは、嬉しかった。

 けれど、自分はそれに値するのだろうか。

・都市貴族

 …この物語における都市貴族とは、その名の通り、都市に居住する貴族である。

 貴族の、特に若者の中には、何もない田舎の荘園に引っ込むのが、嫌だという者が多く、刺激にあふれた都市に居住することが多い。

 また、結婚後も都市に居住し、自らの荘園には数度しか足を運んだことがないという貴族も少なくない。


・荘園貴族

 …荘園貴族とは、そのまま貴族の領土である荘園に住んでいる貴族のことを指す。

 さまざまな事例があり、一概にはまとめられないが、貴族の一族の中で、ゴミゴミとした都会に嫌気が差した年配の者が、居住する場合がある。

 あるいは、その貴族の家政や領政を引き受ける家宰が、荘官として働く内に実権を握り、実質上の貴族となったり、爵位の乗っ取りを行ったりする例も多い。


・貴族市民

 …都市在住者で、裕福な人や、功績を立てた人に対して、一代限りの爵位を授けられた人。多くは士爵だが、それ以上のものも居る。

 本来の都市貴族の意味に近いのは、こちら。


お茶会(サロン)

 …都市貴族や、貴族市民が、各々の邸宅等で催すティーパーティーのこと。女性の出席者が多いのは、若い男性は、騎士になるからである。

 基本的には、お茶を飲みながらのガールズトークや、詩の朗読、楽器の演奏などが行われる。

 時には、画家、芸人、楽師、学者、俳優などが招かれることもあり、そこで後援者パトロンを得ることもあるため、お茶会は彼らにとっての登竜門的存在でもある。

 流行は、お茶会から生まれることも多く、庶民の女性にとって、お茶会は憧れである。

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