お菓子を確保する
ばんばんと叩くお人形を、靴箱と並んで座り、携帯をいじりながら待つ。着信履歴と留守電を占拠する滝子の二文字を削除して回った後は、電話帳の整理をしていた。ほとんどかかってこない相手の番号は、この際消してしまおうと思って、ぴんとこない番号を容赦なくゴミ箱に叩きつけていく。その間もお人形は両手を扉に叩きつけていた。
マ行の欄を下って行くと、三積貴代の文字が流れてきた。そこはかとなく自由人、貴代の電話番号だ。あいつ携帯持ってたんだ……そういえば、今朝に時間見るとき携帯だしてたっけ。もう少し早ければ、さんざ溜まった愚痴を聞かせてやったのに。いまはもう、動くお人形に悪気を吸い取られてしまった。まだばんばんやってるし。
「ま、かけてみようかな」
数度のコール音に続いて、貴代の珍しくきりりとした声が聞こえた。
「もしもし貴代?私そのみだけど、もしかして仕事中?」
「あ、なんだそのみか。昼休み中だよ。なんかさ、午前中にちょっとミスっちゃって、いま遅いお昼御飯中」
そうなんだ、と答えようとして、嫌な偶然に言葉が詰まる。えっと、あー…と、もどろに言葉を繋げて、ひとつ落しどころを見つけた。
「貴代が私の家の物持って帰る代わりに、いろいろと忘れ物置いてったから罰が当たったんじゃない?」
「えぇ、なにそれ。ジャージとかは借りてっちゃったけど、質はちゃんと置いてったからいいじゃん」
「じゃあ、ジャージとエコバックとデパ地下のチョコプリンの代わりに貴代が引き取ってくれるの。というか玩具のポン刀とか、どうやって持ってきたの、まさか嫌がらせ?」
「ええー、ひどいな、違うよ」
困った声でごめんってばと謝る貴代に笑う。仕事に行ってたはずなのに、あんな多彩な置き土産を用意している貴代は、やっぱり常識が少しずれているようだ。これだから自由人は。
ひとりで笑っていると、近くまでお人形がやってきて、私を見上げていた。終わったの? と小声で聞くと、お人形は頷いた。
「じゃあ、貴代。私気が済んだから切るね。次来るときはチョコプリン忘れずに買って来てよね」
「うん、わかったよ。じゃあね」
「はいはい、じゃーね」
ぴっと通話を切って、お人形を持ち上げる。靴箱の上に座らせて、携帯を財布達が入れられているコンビニ袋の中に入れて腕にかける。
「それじゃ、行ってきます」
靴を履いてお人形に手を振れば、お人形も頷きながら手を振りかえしてくれる。鍵を袋から取り出して、玄関の扉を開け、すぐに閉めた。