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友人へ助けを乞う

 洗い終わったパーカーをベランダに干しつつ、貴代ジャージとかもって帰ったのかなぁと気付く。まあ、わざわざ仕事着に着替え直すのもめんどいだろうし、まあいっか。

 室内に戻って、冷蔵庫を開ける。チョコプリンもないが、簡単に何か食べられるものもない。そろそろお腹もへったので、近くのスーパーまで夕御飯をかって、ついでにおやつも買っておこうかな。

 そうと決まれば部屋着からちゃかちゃか出かけられるような服に着替えて、髪を手櫛で整えてから玄関に出る、二本足で立ちこちらを見つめるお人形に驚いて半歩下がる。びっくりした、お人形が居たの忘れてた。

「えーっと、あー、行ってくるね……?」

 見張られているような錯覚を覚えて、軽くお人形へ手を振る。そろそろと移動して靴を履き、エコバックを取ろうとした手が空振った。靴箱の取っ手に、いつも吊るしているお気に入りの白いエコバックがなかった。

「あれ、おかしいな?昨日は確かに、ここへ下げたはずなんだけど」

 うろうろと辺りを探せば、そばのビニール袋の中に、エコバックに入っているはずの財布等か入れてあるのを見つけた。あさってみれば、メモの切れ端も入っていた。

〔ジャージ借りて帰るね、来たときに着てた服はそこにあった鞄に入れて帰るから〕

 貴代はどうやら絶好調らしい。あの自由人め、そこに刺さってる玩具の刀、お前が置いていったんじゃないだろうな。

 自由人相手になにを言っても本人が謝ってくれるわけないので、諦めて今日のところはこのビニール袋をエコバックの代用として持っていこう、なんだか貧相だけど、まあ仕方ない……のかな?大半貴代のせいなんだけどな。

 ドアノブを捻って向こう側へ扉を押すと、がたんという音と共に何かに引っ掛かった手応えを感じた。 

「あれ、開かない?なんで」

 がたがたがたとゆすっても、開く気配がない。あ、まさか貴代鍵かけたのかなと、ロックを捻ってみてもやっぱり開かない、なんで……まさかマジで呪われた系ですか? やだやだ、やめてよ、どうせ貴代のいたずらでしょ。あいつどうせ始発で帰るとかいいながらドアの前はってたんじゃないの、暇人だなあ。私の寝てる間にお人形とか洗濯機に潜ませちゃってさあ。

 がたがたとドアノブを掴んで扉をゆするけど、やっぱり開かない。やばい、やばいって、これは一人暮らしにはちと怖いよ。

「ちょっと貴代! いい加減やめてよ、十分驚いたから、貴代にしてやられちゃったから、出してよ!」

 扉の向こうに声をかけるけど、なにも言ってこない。諦めて部屋のなかに戻って、滝子に電話をかけた。今日、約束を破っちゃったあの友人だ。

「はい、もしもし?」

 いつも通りの声に、少しだけ落ち着く。

「もしもし、そのみだけど。今ひまかな、ちょっと困ってて」

「誰かさんが予定潰したから今日一日予定ないけど、どうしたの、なにに困ってんの?」

 刺々しい言葉が突き刺さるよ、ごめんってさっき散々謝ったじゃん、機嫌直してほしいなぁ。そして私を助けて、ヘルプ。

「えーっとね、いま家の扉が空かなくって、その、多分貴代のせいだと思うんだけど」

「え、貴代? 最近見てなかったけど……あ、そういえばもう月末か。もしかして泊まりに来たとか?」

 貴代の給料前のお宿探しについての噂を私に流した彼女には、すぐ思い当る事らしい。すっかり機嫌が直ったらしく、嬉々とした声が聞こえてくる。噂好きなのね。

「そうそう、今日間に合わなかったのも貴代が関わってるんだけど」

「へー、でもよかったじゃん。楽しみだね、何が起こるかな」

「え、何が? いやそうじゃなくて扉が……」

「あれ、そのみ知らないの? 貴代が金欠で泊まりに来ると幸せになれるらしいよ」

「え、嘘だ」

 貴代のせい是散々な目に今あっているのに、何が幸せだ。約束に遅れちゃったんだぞ、そしてお前に怒られたじゃないか。しかも現在進行形で自宅に閉じ込められてますし。お外出たいです。

「いやいや、結構本当らしいんだって、私の知り合いだけでも三人いるよ、泊めた子」

「へぇ……それで、その子たちは幸せになったの」

「みたいだよ、なんでも失くしたものが見つかったとか、親と仲直りできたとか、成績が良くなったとか。」

「ふうん、そうなんだ。」

 いいな。私だって昨日貴代を泊めたし、私も幸せになりたかったです。

「あとはね、ずっと欲しかったアンティークドールがいつの間にか家に居たとか、書いた絵が賞を取ったとか……」

「え、まってまって、アンティークドール? さっき家の洗濯機の底に座ってたけど」

「そうなの? じゃあそれがそのみのラッキーなのかな」

「いやいや、私この年になってまで人形が欲しいなんて、子供っぽい願いもってないし」

 そこまで言って、恐ろしい事に気付いた。そういえば私、扉あけっぱじゃなかったかなぁとか、あのお人形、座らせて置かなかったかなぁ、とか。

 ああぁ、冗談じゃないよ、怖いよ! 何が幸せだラッキーだ。貴代の疫病神め!


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