貴代の襲来する
午前一時に玄関のチャイムが鳴った。
「トリックオアトリート?」
仕方がないので出てみれば、へらへら顔の友人、貴代が居た。
「かぼちゃ祭りの季節じゃあないと思うんだけど」
「そのみのひらひらした部屋着の方が、よっぽど仮装っぽいね」
とりあえず、家の中に招き入れてぶどうジュースを振る舞う。
「ありがたいね、一宿の恩義はいつか返すよ」
「いつの間に泊まることになったの」
「大丈夫、その辺で適当に寝るからさ。屋内なら構わないよ、宿代賃タダに乾杯!」
ジュースを飲み干して、幸せそうに顔をゆるめる貴代に、まだ袋から出していないTシャツとジャージを投げ渡して、来客用の布団を引っ張り出しに、押し入れの襖を開けに行く。
「着替えてて、布団敷くから。お腹減ってんなら軽い夜食でも作って食べな。」
「いいよ、お構いなく。帰るのめんどかったから来ただけだし、悪いよ、何も言ってなかったし。」
そう言いながらもちゃっかりジャージに着替えるから、やっぱり帰る気は無いんだろうなと重たい布団を引きずって出す。
「どうせ先月の給金使い果たしたんでしょ。それで、今日残業してきて徒歩での帰宅に挑戦したと」
「ありゃ、ばれてんの」
「ばれるも何も、有名じゃない。貴代の金欠は」
押入れを閉めて布団を床に敷きながらちらっと貴代を見ると「いやははは、お恥ずかしい話で」と、冷蔵庫を漁っていた。
「慣れてるのね」
「言われ慣れてないから照れるんだよ。ああ、それとも冷蔵庫の話?そのみが夜食は自分で作れっていうから物色してるだけじゃん」
我が物顔で他人の家で堂々と過ごせることについてだったのだが、まぁいいか。
「貴代、火事しないでね」
「もちろん分かってるって大丈夫、人様の家を燃やす趣味はないからね」
「そう、じゃあ適当に後よろしく、私寝るから」
前髪を止めていたピンを外してからベットの中に潜り込み、部屋の明かりに睡眠を邪魔されないように布団を頭からかぶった。
「ええ、寝ちゃうの? せっかく友達がお泊りに来たのに、もったいない」
「私は明日朝から用事があるの、貴代は貴代の都合で家に泊まるんだから、私は私の都合でもう寝るのよ」
「あぁそっかそっか、予定があったんだね。んじゃ悪いことしたね、私も食べたら寝るから、おやすみなさい」
「……うん、おやすみ」
相変わらずのへらへら顔で冷蔵庫から大根と卵とスライスチーズとチョコプリンと醤油を出した貴代が、何を夜食にしようとしているのかは、安眠のために聞かない事にした。ついでにそのチョコプリンがデパ地下で買ったそこそこ高価なものだという事も、不問にしてやろうじゃないか。
この作品は「あなたのSFコンテスト」出品作です
どうにか完結まで持っていきますので
最後までお付き合いいただけたらと思います。