▼?-2.追憶
どこか浮遊感を感じる。
世界はふわふわと現実感が無く、どこかもやがかった世界に、その二人はいた。
「例えばさ、俺が死にかけたとして、そしたら君は泣いてくれるかな」
「そうね。泣きはしないけど、呆れるわね」
どこかで見た青年に、どこかで見た彼女。
どこで見たのだろう、と思う。そして、思っている自分とは、そもそも誰なのだろう、とも。
「呆れるんだ……」
ぼんやりと見ている自分の前で、彼女の言葉に対し青年が苦笑する。
「えぇ、また面倒なことに首を突っ込んで、バカなことやらかしたのね、って」
「別に自分から突っ込んだ覚えは無いんだけど」
「無自覚だから余計にダメなのよね。今回だってそうでしょ?」
貴方って、いつも考えなしに色々やらかすんだもの、と笑う彼女の姿は、とても可愛らしかった。
板張りの床に、注連縄で囲まれた何かが置いてある室内で、青年と彼女はいつものようにくだらない話をして笑い合う。
「だって、助けられるなら助けたいと思うからさ。でも助けられそうにない人にまで手を伸ばした覚えはないよ」
「助けられるかどうかじゃないのよ。助けっていうのはね、求められてから助けるのが一番なのよ」
「それは自論?」
「自論ね。まぁ、求められたからと言って、助けるとは限らないけれど」
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「殴るわよ」
「それは勘弁」
窓から入る月明かりに照らされた彼女はどこまでも神秘的で、白い髪に白い肌、真っ赤な瞳は、まるで幽霊のようでありながらも、この世ならざる美を感じさせた。
まるで人形のようで、それでもこうしてくだらない話をして笑いあっていると、彼女が生気の通った人間であると分からせてくれる。
いつ会っても、彼女は美しい。そして、瞬きの間に消えてしまうのではないかと思えるほどに、儚く、そして気高い。
「それで、結局今回は何があったのかしらね?」
「あぁほら、この前連れてきた子がいたじゃない? ―――――側の」
「あぁ……大体わかったわ、それだけで。だから、ここなのね」
「そういうこと。だから、ココなのよ」
「罰当たりよね。貴方も大概」
「いやいや、本来の神道的には、そこの注連縄の空間にさえ入らなければ問題無いと思うわけよ、俺」
入ったとしても、別に神様怒ったりしないと思うけど、と笑う青年に、彼女は苦笑する。
「本当、無神論者多いわね、日本人って」
「いやいや、コレでも信じてますよ? ただ八百万の神様派なだけで」
それに、唯一神様とやらがいても、神はただ見守るのみで、別に人間を助けたりしようなんて思ったりしない、って、そう思ってるだけで。
そう告げると、それだけは間違いないわね、と彼女は笑う。
その時の青年は、きっと、幸せだった。