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▼52.メリークリスマス

 ハッピーメリークリスマス!(遅い)

 本当はクリスマスまでにここまで進めたかったんですが、もたもたしてたら新年になってしまいました。

 感想ねんりょう注入していただきましたんで、本日二話目となります。最新話から飛んできた方は、一個戻ってくださいね!

 何故か地球さんにかけた電話に出たのが天ヶ崎さんで、若干混乱する僕達を尻目に、おっとり刀でやってきた津軽さんが、面倒くさそうに声をあげた。

「なんでアンタがここにいんのよ。さっき死んだばっかりでしょうが」

「いきなり殺すな。俺も今来たばっかりだわボケ」

 あ、なるほど柄が悪い。

 売り言葉に買い言葉といった感じで、津軽さんにつっけんどんに対応する天ヶ崎さんを見ていたら、嗣深がこちらに寄ってきたので、耳を寄せると若干しょんぼりした声で言った。

「つぐにゃん。ガッちゃんが悠馬くんだったのはまぁ百歩譲って良いにしても、わたしの存在が望まれてなかったっぽいのは割とショックなんですけど」

「……ドンマイ?」

「ふぁっきん!」

 嗣深が若干グレた。ドンマイであるが気持ちはわからんでもない。

「悠馬くん!」

「お、おう? なんだ?」

「どうしてわたしのこといらない子扱いだったの!」

「何がだ!?」

 なんか驚いている天ヶ崎さんを見てると、どう見ても孤高のヒーローには見えないのだけれど。

 そんな事を考えていたら、拳銃をとっくに下ろしていたお父さんは、嘆息して言った。

「まぁ、とりあえずあがってもらいなさい。込み入った事情でもあるんだろう?」

 大人の対応である。

 かくして、夕暮れ時、というかまぁ冬なんでもうとっくの昔に真っ暗になっている午後七時。

 僕達は再度、おこた円卓会議を行うこととなった。

 そんな訳で、とりあえず手荷物パーティーグッズを僕が預かって居間のすみへと置いて、嗣深が居間のほりごたつへと案内する。

「第三回、おこた円卓会議をとりおこないます!」

 そして、高らかに行われる嗣深のタイトルコール。

 天ヶ崎さんが来た事で明らかにテンションが跳ね上がっている。

「あ、これ第三回だったのね……」

 津軽さんが若干呆れたような声でそう言いながらおこたの上に置かれたみかんに手を伸ばそうとするが、お父さんが「そろそろ夕飯を作るから、間食はほどほどにね」と言って会議から離れた事で手を引っ込めた。

 どうやらお父さんの手料理が割と気に入ったらしい。

「さて、悠馬くん。キリキリ吐いてもらうよ!」

「いや、何をだよ」

「全部だよ!」

「わかった。言い直す。何をどこから話しゃいいんだ?」

「……なんでわたしをいらない子扱いしたのかから!」

「いや、嗣深、そこはどうでも良いから」

「よくないよ!?」

「天ヶ崎さん。どうして地球さんの携帯を持っているのかから、説明してもらっていい?」

 嗣深が不満顔だが、大事なのはまずそこからである。

「あー……手っ取り早く言うと、ついさっきまで、俺がそのガイアだったからだ。あと、義嗣。同い年だしくん付けで良いぞ。お前にさん付けで呼ばれると違和感あるわ」

「あ、わかったよ。じゃあ天ヶ崎くん……え、同い歳なの!?」

「おう」

「ほえー……」

 てっきり大学生くらいかと思ったんだけれど、というのは口にはせず。

「いや、驚くのはそこじゃないから、つぐにゃん」

「まぁ、老け顔だし初めて知ったらそうなるのも仕方ないんじゃないかしら?」

「老け顔は余計だ」

 若干いじけた様子の天ヶ崎くんを見ると、確かに歳相応に見えなくも無い。

「こほん。話を戻すけど、悠馬くんはついさっきまでガイアちゃんだった、ってことは、今日、元に戻ったの? っていうか、本来の姿に戻るってどんな感じなの?」

「あぁ、なんか、ガイアとしての俺が百均でパーティーグッズ買って、家で準備して佐藤ん家に向かおうか、って時に突然、記憶が戻ってな。それに伴って、なんか身体も元に戻った」

「ってことは、偽者さんがやられた時あたりかな」

「でしょうね。これで仮説はほぼ確定といえるわけだけど」

 ちらりとこちらを見る津軽さんに、小さく唸る。

 僕の時とは違って、偽者が消えれば本物がその位置に成り代わるのは分かったけれども、それでも倫理観を大切にしたいと思うのは抜けない。

「あん? 仮説?」

「えぇ。偽者が消えれば、本物がその位置に入れる、っていうね」

「あー……」

 納得した様子の天ヶ崎くんに、嗣深が畳み掛ける。

「そう、そして偽者さんは誰かが望んだから発生するはずなのに、わたしの偽者さんがいなかったんだけど、どういうことなの悠馬くん!」

 おこだよ! とぷんすかする嗣深に、天ヶ崎くんが「いや、そんなこと言われてもな……」と困り顔になった。

 まぁ、言われても困るよね、とちょっと同情する。

「というか、そういえば天ヶ崎くんの偽者、幻想体がいたってことは、誰かが望んだってことになるんだけど、誰が望んだの?」

「あ? 知らねえな……親しい奴も特に「わたしがいるよ!」あー、まぁ嗣深くらいしかいねえしな。その嗣深が望んでねえなら、誰も望まねぇのが普通だと思うんだが」

 だから、元に戻った時に自分でも驚いた、と天ヶ崎くんが言う。

 まぁ確かに、幻想体のあの口の悪さといい、見知らぬ家屋に窓を割って不法侵入してきたりといい、普通ならそんな人を望んで発現させたりはしないと思う。

「それなら簡単ね。望んだのはあの狐よ」

「「へ?」」「は?」

 その発現に、全員で固まる。

 いや、なんで宇迦之さん? 虎次郎くんだけじゃなかったの?

 そんな僕達の思いを読んだかのように、津軽さんはいつの間にか用意していた急須でお茶を入れながら続ける。

「簡単な話よ。バトル物の恋愛小説なら、かませいぬ役は必要でしょう?」

「「「あぁ……」」」

 とても分かりやすい説明に、皆で頷いた。

 確かに、それはそうだ。

 それも、出来ればあの化け物じゃなくて、こうライバル的なポジションの噛ませ犬とかのほうが、物語は盛り上がるよね。

 そう考えたら、天ヶ崎くんがとても嫌そうな顔をしていた。

 気持ちはわかります。

「俺は、そんな理由で今まで出てこれなかったのかよ……」

 げんなりした様子でそう呟く天ヶ崎くんに同情して、背中をぽんぽん叩いてあげると、若干嫌そうな顔をされたけど「ありがとよ」と返される。

「わたし、下手に偽者作られてなくて良かったと今心底思ったよ……」

「私も、そんな理由で作られてたら、作った奴ぶっ殺してたわね」

「俺も今猛烈にあのクソアマぶっ殺してえんだが?」

「許すわ」

「「許しちゃダメだよ!?」」

 今からでも早速殺りにいこうとしはじめた天ヶ崎くんを慌てて押しとどめると、津軽さんが小さく舌打ちした。

 この人、本当に宇迦之さんの事が嫌いなんだなぁ……。

「わかったわかった。んじゃあ、とりあえず現状を教えてくれや。ひとまず話はそれからだ」

 浮かしかけた腰を落ち着けた天ヶ崎くんに、嗣深と共に安堵の溜め息を吐きながら、嗣深が現状の僕達の状況を解説し始めるのを聞きながら、ふと思ったのだが。

 この人、こちらに協力してくれるとか一言も言っていないと思うのだけれど、あっさりこちらの状況を開示してよかったのかな、と。

 まぁでも、嗣深が仲良しみたいだし、多分こっち側についてくれ……いやどうだろう。嗣深の幻想体がいなかったってことは、この人は嗣深を必要としてなかったってことだと思うし、そうなってくれるとも限らないのでは……。

 そう思ったけれど、嗣深が嬉しそうに話してるのを見ると、それを告げる気も起きなくて、黙ってみている事にする。

 そうして、嗣深による解説と質疑応答がある程度終わったところで、天ヶ崎くんは言った。

「それもう、虎殺せば良いんじゃねえのか?」

「そうよねえ」

「「物騒な事はやめよう!?」」

 あっさりと殺人する方向に舵を切るのをやめていただきたいのですが……!

 僕と嗣深が必死にとりなすと、天ヶ崎くんは面倒くさそうな顔をして溜め息を吐いた。

「んじゃあ訊くが、他にこの世界の脱出方法、考えついてんのか? あの狐を連れてくのが前提条件じゃねえなら、もう今すぐにでもその神様とやらに言えば出れるんだろうが。でも連れてきたい、って事だろ?」

「「うん」」

 嗣深と共に頷く。そこは絶対条件である。

「どうせ偽者なんだから、気にしないで殺っちまおうぜ? そしたらあのアマも諦めるだろ?」

「偽者でも生きてるんだし、そうやってすぐに殺す方面にシフトしちゃうのは……」

 嗣深の言葉に、僕もうんうんと頷くけれど、天ヶ崎くんは滅茶苦茶面倒くさそうな顔である。

「仮にあの虎がいたら、そんな周囲に迷惑しかかけねえような偽者、さっさとぶっ殺してくれとでも言うと思うんだが?」

「「う"」」

 その言葉に、僕も嗣深も言葉を詰まらせる。

 そう、偽者がいるということは、本物から見たらどう思うかという事も視野に入れるべき事であった。

「仮にお前等の偽者がいて、そいつらが他人様に迷惑かけまくってたら、どうして欲しいよ」

「それは……」

 それは、やめてほしいと思うのは、間違いない。

「そういう意味では、俺の偽者を消してくれたってのは、心底ありがたいと思うぜ? 俺はな」

「殺したのは私ね」

「そうかい。そりゃありがとよ」

「お礼は五百万くらいで良いわ」

「ほざけ。まぁ五万くらいならくれてやっても良い程度には感謝してやるが」

「交渉成立ね。あっちに戻ったらすぐによろしく」

「あいよ。それで貸し借りは無しだ」

「つぐにゃん。何やらしゅごい会話が行われているよ……」

 五万円あっさりあげられるとは、本当に中学生なのだろうか……。

 僕達一般町民には分からぬ世界である。

 まぁでも、天ヶ崎くんの言葉には、とても説得力がある。

 仮に僕が同じ立場だったら、あんな偽者にはすぐにでも消えてもらいたいと思うだろうし。

「ぐぬぬぬ……」

 でも、虎次郎くん、別に誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだよなぁ……。

 攻撃してきたのも、結局宇迦之さんだけな訳だし……。

 その事をなんとか告げるものの、天ヶ崎くんは肩を竦めて言った。

「お前等の窮地に助けに来ない時点で、あの虎ならそんな偽者は認めないと思うぞ」

 アイツはそういう奴だ、と若干嫌そうな顔をしながらも、自分が認めている相手なのだと暗に匂わせての発言に、結局僕は黙り込む。

 そう。虎次郎くんは正義の味方であり、自分の周囲に起きる不幸や事件、事故なんかにはとにかく敏感で、何食わぬ顔で介入してきて、解決させる。

 だからこそ、僕も嗣深も虎次郎くんに関しては、居てくれればどんな問題も解決してくれると信じてるし、今回も居てくれればきっと解決に導いてくれると思ってるのだけれど。

「ただまぁ、偽者消したところで虎は多分、来ねえけどな」

「え?」

 それは、結局幻想体を消したところで意味が無いのでは、と思ったのだけれど、天ヶ崎くんは真面目な顔で言った。

「現実のほうがクソみたいな状況だからな。俺も保護対象の娘っ子を助ける目的じゃなかったら、こんな世界来てねぇよ」

 なにそれ初耳なんですが。

「え、まって、現実世界のほうって、どうなってるの?」

「あん? あー……あれ、お前等、それに関して覚えてねえのか?」

 嗣深も、津軽さんも首を振る。

「おいおい、マジか。あっちじゃ今、巨大怪獣やら化け物やらが町中歩き回ってて、えらい事態だぞ?」

「なにそれこっちよりも危なさそうなんだけど!?」

 危険が無さそうな世界に行かせるために僕は神様に頼み込んでまで嗣深達を戻そうとしてたのに!?

「そりゃ危ねぇだろ。こっちの世界が侵食されてんのだって、その現実世界の怪異によるもんだろ?」

 なんでもないことのようにそう言って、津軽さんが淹れたお茶を啜る天ヶ崎くん。

「ちょっと。それ私のなんだけど」

「一万上乗せする」

「成立」

 一万円のお茶とは一体……。

「というか、え、ちょっと待って。天ヶ崎くんって、元の世界のこと、ほぼ覚えてるの?」

「ん? おう。まぁ男女だった時は殆ど自意識みたいなのは無かったが、戻ってからは大体覚えてるぞ?」

 まずそもそもなんでガイアさんになってたのかも気になるところなのだけれど、それはともかくとして、そうなると現実世界の事がとても気になるのですが……。

「悠馬くん。説明お願いして良い? 私もエリにゃんも、ちょっと元の世界の事微妙にうろ覚えな部分があるから」

「ん? まぁ良いが……」

 嗣深のお願いに、天ヶ崎くんは語りだした。

 元の世界も、このど田舎なのは変わらない事。

 賢者の石と呼ばれる、ちょっとした願望器もどきを巡って、ちょっとした小競り合いが起きていた事。

 そして、それに伴って一部で暴走する人間が出てきて、それまでもちょいちょい出てきていた巨大怪獣等の数が増えてきて、そちらはおさえこめているものの、小さい怪異が徐々に被害を出し始めている事。

 そして、最悪なのが、現実世界の宇迦之さん曰く"クトゥルフ神話"なるものの化け物が実際に現れ始めている事。

 それに伴って、未来を悲観してこの世界へと引きずり込まれる人間が増えた事。

 宇迦之さんは一番最初に囚われたらしく、津軽さんは早苗さんが死んだのを契機に一気にやる気を無くしてこの世界に囚われてしまった事。

 その二人を助けるために僕と嗣深がこの世界に来て、天ヶ崎くんは、この世界の核となってしまった、自分が保護していた女の子を助けるため、ついでに僕と嗣深を守ってあげるために来る事になったらしい。

 そして、僕達――いや、僕は偽者だから、本物の僕と、嗣深、そして天ヶ崎くんをこの世界に運んだのは、胡散臭い、やたら妖艶な美人なお姉さんだということ。

 夢渡りの能力がある、と言われたらしいが、実際の所は怪しいところだ、と天ヶ崎くんは言うが、嗣深もそれを聞いて思い出したらしく「あぁ……あああ、そうだった。ナイアさんだっけ……」と頭を抱えた。

 その美女、嗣深曰くナイアさんというのがもしかしたら、僕が昼過ぎに見た夢の中の人かもしれない。

「ちょっと待って嗣深、今ナイアって言ったかしら……?」

「え? うん。そうだけど」

「それ、ナイアーラトホテップじゃないでしょうね」

「……自称、ニャルラトホテプさんだね」

「思いっきり邪神じゃないの……」

 なんでそんなのと取引したのよ、と呆れる津軽さんに、嗣深が「てへぺろ☆」とか自分の頭を小突きながらやって誤魔化した。

 そうか。邪神だったのかあのお姉さん……。

 ……なんか、僕が眷属にとかいうのがおぼろげに覚えてるのだけれど、大丈夫だろうか。僕。

「なんだ、そのラトホテップってのは」

「あー、まぁ一般向けでは無いかしら? クトゥルフ神話における、邪神の一つよ。私も詳しくは無いんだけどね。ただ、クトゥルフ神話って、創作の筈なんだけど……」

 今度図書館で借りてこようと決心した。

 僕の寿命、あと七日しかないけれど。

「まぁそれはともかくだよ!」

 バン、と嗣深がテーブルを叩いて、全員の視線を集める。

「完全に忘れかけていたけれど、今日はクリスマスです!」

 あぁ、僕もあのパーティーグッズ見るまでは忘れかけてたけども。

 大体何を言うのかを察した僕は、部屋の隅に置いたパーティーグッズを取るために立ち上がる。

「今日は、クリスマスパーティーですっ!」

 いえーいやったぜどんどんぱふぱふ、と自分の口で効果音を出す嗣深に、津軽さんはおろか、パーティーグッズを持ってきた筈の天ヶ崎くんまで「何言ってんだコイツ」みたいな顔をし始めたが、僕はそれに賛同するように、買い物袋の中からゴソゴソとリースやらパーティーハットやらを取り出し、ついでに鼻メガネがあったので、それを装着して宣言する。

「そうです。聖夜に相応しい祭をおこないます!」

「いや、間違いなくその格好は聖夜に相応しくはないと思うわよ」

 津軽さんが冷静にツッコミをいれて来るが、知ったことではない。

 そう。パーティーである。やりたかった。地味にやりたかったパーティーである!

「「さぁ、レッツパーリィ!」」

 嗣深と息を合わせてハイタッチしながらそう言うと、津軽さんと天ヶ崎くんは、顔を見合わせた後、苦笑して肩を竦めた。

「はいはい、それじゃ、飾りつけからかしらね?」

「指示を頼むぞ。嗣深」

「あいあいさー! さーやるよ皆!」

「おうけーばっちこーい!」

 さぁ今夜は寝かせないぜ皆ぁ!

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