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▼51.助っ人

あけましておめでとうございます!

予約投稿する前に寝てしまって、朝になってしまいました……。

本日は感想ねんりょうがいただけていたので、ちょっとこのまま続きを書き進めて今日中にもう一話投稿しようかと思います……ッ!

 結局、僕は何も言い返せなかった。

 三時のオヤツ代わりの、お父さん特製サンドイッチを皆が食べ終えた後になっても、その後、夕食まで一時解散となった後も。

 部屋にいた女の子は、津軽さんが嗣深の部屋へと移動して、今はまた、僕は部屋で一人、ぼんやりと膝を抱えて布団の上にいる。

 倫理観は、大事だ。

 誰かのために、誰かを犠牲にするようなのは、間違っている。

 人を殺してはいけません。人を傷つけてはいけません。

 それは、当たり前の事で、当たり前の倫理観で。

 そして多分、それは僕の持つ倫理観であり、きっと矜持という奴である。

 僕という人物は、極めて善性に寄っている。無論、悪性が一切無いなどとは言わないけれど、それでも、善性の人間だ。

 そうであろうとしているし、そうあるべきであると思っている。

 だから、自分の犠牲は承知できても、他人の犠牲を承知できない。

 そして、その僕の倫理観はエゴであると、津軽さんは言う。

 そしてそれは実際その通りで、そのせいで、ただでさえ少ない選択肢をつぶしているのも分かっている。

 いや、違う。言われて初めて、そこに気付いた。けれど、それで良いと、そう思う。思っていた。

 だが、その矜持は大事な誰かを天秤にかけてまで保つべきものなのかと考えてしまうと、僕は苦しくなる。

 無論、津軽さんの言うとおりに幻想体の虎次郎くんを殺したとして、それで万事が上手くいくとは限らない以上、僕の考えが決して間違っているわけではないとは思う。

 思うけれども、それが選択肢を狭める原因になっていて、そして、それがただのエゴだとして、それで仮にどうしようもない事態になってしまったとしたら、僕は自分で自分を許せるか、といえば、きっと許せない。

 でも、僕が死んでも復活したように、仮に虎次郎くんを殺したところで、本当に幻想体の虎次郎くんは消えてしまうのか、と言うと疑問も残るところで。

「僕に判断を任せないでほしいなぁ……」

 ぺたり、と布団に横になる。

 弱音なようで、いや違う。実際弱音でしか無いけれど、僕が幻想体で、偽者だというのならば、偽者ではない、嗣深と津軽さんが全部決めてくれたら良いのに、なんてそんな事を考えて、溜め息を吐く。

 あの夢の中のお姉さん曰く、年内で僕は消えるらしいから、あと七日……一週間もすれば僕は消えてしまうというのに、なんで僕が音頭を取って進まなくてはいけないというのか。

 消えて行く人にこういう大事な事を任せないで欲しいよね。まったく、やれやれだ。

 なんて、そんな弱音を吐きたくなるけれど、お兄ちゃんという矜持がそれを許さない。

 仮に嗣深の中の人が嗣深で無かろうが、僕が偽者だろうがなんだろうが、今ここにいる嗣深のお兄ちゃんは僕で、であるならば、妹のために頑張るのがお兄ちゃんの責務というものである。

 頑張ろう、と気合を入れながら、寝返りを打つ。

 夢の中のお姉さん曰く、僕ではこの世界の根幹には触れられない的な。傍観者でしかない的な事を言っていた。

 アレがただの夢ではないのは、あの女の子が現れた事からも明白である以上、あれはヒントなのか、或いはただの示唆なのかはわからないけれど、少なくとも「この世界における主人公は僕ではない」ということだろう。

 多分、この世界には、別に主人公が居て、その人を中心に、この世界は動いていて――なんて、漫画やゲームの世界じゃあるまいし、と思いつつも、あながち間違いじゃないのかもなぁ、とぼんやり思う。

 でも、元の世界ならばそれは虎次郎くんなのだろうけれど、この世界だとその立ち位置は誰なのだろうか。

 嗣深? 宇迦之さん? 津軽さん? 地球さん?

 ……なんだか、全員、王道から外れている人達ばかりだ。

 というか、主人公が誰であったとしても、結局、僕にとってはどうでも良い話か。

 今大事なのは、どうやって宇迦之さんを説得して、元の世界に嗣深を帰すかで……。

「……あぁ、皆帰っちゃったら、寂しくなるんだろうなぁ」

 ふと、そんな事に思い至って、丸くなる。

 そもそも、僕自身も消えてしまうわけだけれど。

 新しい僕が作られたとしたら、その僕はとても寂しい思いをしそうだ。

 いや、僕を作ったと思われる地球さんがいなくなる時点で、もう別の僕が復活したりもしないのかな?

 まぁなんにしても、寂しい話だ。

「最後に、皆と遊んだり、したかったなぁ……」

 ぽつりと呟いて、目が潤んで来たので、慌てて袖で拭って、立ち上がる。

 消える事は怖くなんか無いけれど、寂しい思いをするのは、ちょっと怖い。

 こうやってぼんやりしていると、暗い気分になってきそうなので、僕は一度居間へと戻って、テレビでもつけながらお茶でも飲んでこようと思ったら、チャイムが鳴り響いた。

 本日は先客万来である。

「僕出てくるねー!」

 声を張り上げて、部屋を出て、階段を駆け下り、誰が来たのかなと玄関へと向かうと、そこでは先に対応に出たらしいお父さんが、来訪者に向けて拳銃を突きつけていた。

「エキセントリック対応……!」

 なんたるバイオレンスな対応だ、と慌てて誰が来たのかと駆け寄ったら、そこにいたのは、つい先ほど二階の窓から侵入してきて、首を斬り飛ばされた銀髪のヤンキーさん、ユウマくんとやらの姿。

 なるほど、お父さんの対応も納得である。

「義嗣は部屋に戻ってなさい」

「あ、えと、う、うん」

「ちょっと待った」

 お父さんの言葉に、慌てて戻ろうと踵を返したところで、ユウマくんとやらが慌てて引き止めたため、振り返ると、若干困ったような顔で、ユウマくんとやらはこちらへと手を飛ばした姿で止まっていて、首を傾げると、彼は暫し迷った末に、手に持っていたどこかの百均ショップの袋を持ち上げて、言った。

「土産だ」

 何の、と思って、思わずお父さんのほうを見ると、お父さんもどうしたものかといった顔をしている。

「……これは、パーティー用の、小道具、かい?」

「……おう」

 そして、その袋の中身を確認したお父さんがそう零すと、若干恥ずかしそうにしながらユウマくんとやらは顔を背けた。

 なんでパーティーグッズ……?

 首を傾げつつ対応に困っていると、ユウマくんとやらは、ハッとした顔になる。

「お前、もしかして義嗣じゃねーのか……?」

「いえ、義嗣ですけども」

 なんか壮絶に酷い勘違いをされかけたが、僕は義嗣です。

「あー……OK、わかった。言い方を変える。俺と面識がある義嗣じゃねーな?」

「先ほどこの家に襲撃かけてきた貴方とは面識が一応ある義嗣さんです」

「この世界の俺なにやってんだよオイ……」

 空いている手で額に手を当てて搾り出すような声を出した後「それで父親がこの態度か……」と納得したらしい。

 というか、この口ぶりだと、元の世界の僕は知り合いのようだ。

 とりあえず、嗣深と津軽さんを呼んだほうが早そうである。

「ちょっと待っててね」

 僕はそう言って、お父さんに見張りを目線でお願いしてから、二階へと戻って、嗣深達を呼びに戻るのだった。




「悠馬くううぅぅん!」

 ユウマくんとやらが来ている、と嗣深達に知らせたところ、部屋で人生ゲームをしていた二人の内、嗣深は勢い良く部屋を飛び出していったので慌てて追いかけると、玄関で立ち往生しているユウマくんとやらに勢い良く抱きつきにいった。

 思わず目に殺気が宿るお父さん。落ち着いてください。

「つ、嗣深!? おま、いきなりだな!?」

 と驚きつつも、ちょっと嬉しそうなユウマくんとやら。

「ふわあぁ、本物だあぁぁ! 会いたかったよぉぉ!」

「いや、わかったからちょっと待て!? 落ち着け!?」

 嗣深に抱きつかれて狼狽するその姿に、警戒度を下げる。

「嗣深、紹介してもらっていい?」

「いいよ! この人はねえ、天ヶあまがさき悠馬ゆうまくん! 孤高のヒーロー的な人だよ!」

 その孤高のヒーローさん、パーティーグッズ買い込んで遊びに来てるんですが、最近の孤高のヒーローはパーティーを喜んでするようなものなんでしょうか。

「色々と恥ずかしいからその紹介はやめろ!?」

 とりあえず、年上っぽいので天ヶ崎さんと呼称することとする。

「えーと、天ヶ崎さん。本日はどういったご用件で……」

「つぐにゃん、最強の援軍だよ!」

 ドヤ顔でなんか割り込んできた嗣深の言葉に、天ヶ崎さんは手に持っていた買い物袋をそっと下ろすと、足で横にどかした。

 こやつ、見られると恥ずかしいと判断したな。

「で、その天ヶ崎さんは、パーティーグッズ買い込んできたみたいなんだけども」

「クリスマスパーティーだね!?」

 わぁ凄い喜んでる。

「お、おう。いや、その、いや、おう! そうだぞ!」

 あ、開き直った。

 今ほど少し退かした買い物袋を持ち上げて、嗣深に手渡す天ヶ崎さん。

「これはもう、ガイアちゃんを呼ばなくては……!」

 嗣深がとても興奮しながらそんな事を言いながら、素早くスマホを取り出して、地球さんに電話をかけると、天ヶ崎さんは「あーいや」と何か言いかけたところで、天ヶ崎くんのポケットから、着信音が鳴り響く。

 流れてくる水戸黄門のテーマ。

 嗣深が「あれ?」と首を傾げて、天ヶ崎さんは、気まずそうに電話に出る。

「『おう。俺だ』」

「……」

 嗣深の電話と、目の前の人物から出た声がほぼ同時に聴こえてくる。

「「……あれぇ?」」

 思わず、僕と嗣深の声が、ハモるのであった。

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