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▼50.倫理観

 僕の迂闊な発言により、なんと言ったら良いか分からない感じの嗣深とお父さんに対し、なんと弁明しようかと言葉を選んでいたら、突然、窓が割れた。

 どこの、と確認するまでもなく、音は上から聞こえてきて、二階からなのは間違いが無く。

 一番に動いたのは、お父さんだった。

 腰につるしていたサブマシンガンを構えて階段のほうを警戒し、津軽さんと視線を交わすと、津軽さんは銀の刀を構えて一気に階段を駆け上がっていく。

「二人はそこに居なさい!」

 それだけ言い残して、津軽さんの姿が階段から上へと消えていったのを見て、僕は嗣深と一緒に顔を見合わせた後、お父さんのほうに視線をやると、手で下に押さえるようなハンドサインを出しながら「上が陽動の可能性もあるから、二人は隠れてなさい」と言ってきたので、とりあえず嗣深と共にほりごたつの中に潜って隠れる。

 直後、上から響いてくる硬質な何かのぶつかり合う音が響く。

「あーもう面倒なのが!」

 ほりごたつの布団ごしに、そんな声がくぐもって聞こえてきたので、顔を出してお父さんに視線をやると、僕と視線を合わせた後、小さく嘆息して、お父さんが頷き、階段へと上がっていく。

 うむ。こちらは良いから援軍行って上げて、というこちらの意は汲んでもらえたらしい。

 再びこたつの中に潜り、嗣深と共に息を殺して待機。

 少々暑いけれど、安全には代えられない。

 そのまま、上でドタバタと音がしていたと思ったら、上から「嗣深ー!」と津軽さんの呼ぶ声がして、二人で顔を見合わせる。

 少し、布団を持ち上げて再度待っていると、「嗣深ー! ちょっと来なさい!」とドタバタ音はするけれど、それに混じってそんな声が聞こえてきたので、僕と嗣深はとりあえず掘りごたつから出て、一緒におそるおそる二階へと上がっていくと、丁度二階の廊下へと吹き飛ばされた侵入者と対面した。

「「あ」」

 そこにいたのは、銀色の髪をなんかこう、格好良い感じに整えて、ちょっと逆立たせている大学生くらいのお兄さんが、真っ黒い甲冑を着て、拳銃と装飾過多な剣を構えていた。

 そして、なんかどっかで見たような顔だな、と思っていたら、そのお兄さんがこちらを見て口を開いた。

「何見てんだクソガキ!」

 その恫喝に、嗣深と共に身を竦ませて抱き合う。

 怖っ。ヤンキーだ。怖っ。

 と思うと同時に、思い出す。

「あ、あの踏み切りの所で親父狩りしてた人だ……ッ!」

「あぁん!?」

 とても凄まれて若干怖いけれども、こっちにガンを付けている間に、お父さんが思いっきり左肩を拳銃で撃ち抜き、津軽さんが右肩に刀を突き刺したことで、ヤンキーさんが声にならない悲鳴をあげる。

 半端なく痛そうだ、と若干顔を顰めていると、嗣深が暫し固まったまま、震える声で言った。

「え……悠馬ゆうまくん……?」

 知り合い? と訊こうとしたけれど、痛みに喚く、そのユウマくんとやらは嗣深のほうを見ている余裕は無さそうである。

 それに、こちらを見たときにクソガキ扱いしたあたり、多分、嗣深が一方的に知っている人なのかな、と思っていたら、津軽さんがとても良い笑顔をしていた。

「クソガキ、ね。アンタ、あの二人に見覚えも無ければ名前も知らないし、交友関係も無いのね?」

「クソがっ! 知らねえよ! クソがクソがクソが! アレは俺のもんだ! 離せ、離せクソがぁ!」

「あっそう。じゃあ死んで良いわよ」

 言うが早いが、津軽さんはあっさりと、そのユウマくんとやらの首を、斬り飛ばした。

「あ……あぁぁぁぁ!!」

 その光景に嗣深が絶望したような声をあげ、僕は驚いて嗣深の顔を見ると、泣きそうな顔をして、その首なし死体となったユウマくんとやらの身体に縋りついた。

「嘘でしょ!? ユウマくん、なん、なんで!? どうしてこんな事になってるの!? 恵理那ちゃん、なんで殺したの?!」

「そりゃあ殺すでしょ。っていうか、落ち着きなさいよアンタ。それ、偽者よ?」

「へう……?」

 津軽さんの言葉に、嗣深が自分が抱きついている死体を見る。

 首から勢い良く血を噴出していたその死体は、早くも血の出る量が減り始め、首と腕の付け根はとてもとても良い子には見せられないグロ画像と化していて、正直あまり直視したいものではない。

「アンタね。自分の事に気付かれなかった時点で気付きなさいよ。アイツがアンタの事知らない訳が無いんだから」

 呆れたような物言いをする津軽さんに、嗣深が目を白黒させて、死体と津軽さんを何度も交互に見ていると、嗣深の腕の中に居たユウマくんとやらの死体がうっすらと透けていき始めて、混乱する嗣深が手を離したら、そのまま何事も無かったかのように、その場から消え去った。

 周囲に飛び散っていた血糊と共に。

 唖然とする嗣深にどうしたものかと思いつつ、僕も階段を上がりきって嗣深の横に立つと、嗣深が「あ、え、え、うええ??」と完全に思考停止状態に陥ってたので、代わりに僕が津軽さんに声をかける。

「結局、なんだったの。今の人」

「アホな侵入者よ。そこの子をさらいに来た、ね」

 クイッと立てた親指で僕の部屋を指さした津軽さんの言葉に納得する。

「つまり犯罪者予備軍ロリコンか」

「悠馬くんはロリコンじゃないからね!? あとロリコンを犯罪者予備軍はどうかと思うよ!?」

 嗣深が何やら抗議をしてくるが、とりあえず放っておく。

「で、知り合い?」

「本物の方とはね。こっちの偽者もまぁ何度か会ったことはあるけれど。念のため嗣深の事を知ってるか確認とらないと、仮に本物だったら面倒だったから一応嗣深を呼んだんだけど、やっぱり偽者だったわね」

 なるほど。その言い方だと、本来の世界だと、嗣深も津軽さんも、さっきの人とは知り合いらしい。

「なんか、完全にただの柄の悪いヤンキーだったけど、実際はどんな人なの?」

「ただの柄の悪いヤンキーよ」

「ダメじゃん」

「柄が悪いのは認めるけど、割と良い人だよ悠馬くんは!?」

 嗣深が再びツッコミを入れてくるが、とりあえず無視。

「で、なんであの子を狙ってきたんだと思う?」

「さぁ? まぁ、アンタ曰く、あの子は何かの鍵なんでしょ? それ狙いなんじゃないの?」

「ってことは、それを知ってたのであろうさっきの人は、殺さずに情報を訊き出すべきだったのでは?」

「……あ」

 今、あって言ったろこの人。

「津軽さん?」

「誰しも、過ちは犯すものよ」

「……ソウデスネ」

 ちょっと気まずそうに視線を外した津軽さんに嘆息しつつ、ようやく混乱から回復したのか、はたまたまだ若干混乱しているのか、何かブツブツ言っている嗣深に今度は声をかける。

「で、嗣深。結局あの人とは知り合いだったの?」

「あ、うん。えっと、一応、紆余曲折あって、一応、友達みたいな、ものになれていたら、いいなぁ的な……」

 それは友達とは言わないのでは……?

「少なくとも、アンタはまわりの中じゃアイツとは一番仲良かったとは思うわよ? アイツ、誰にでも壁作ってたし」

「そ、そう? えへへ。良かった」

 ほにゃっと笑う嗣深に、僕は溜め息を吐いて、ふと割られた窓に視線をやると、盛大に割り破られていて、廊下に散りばめられているわ、外の風が吹き付けてくるわで、一番最初に、まずはこっちをどうにかせにゃいかんなぁ、と思うのであった。

 が、津軽さんはそんな僕の視線から感じとったのか、指をパチンと鳴らして床を指差した後、ガラスのほうへと指をピッと跳ねた途端、廊下に散らばっていたガラスの破片がどんどん元の位置へと集まっていって、綺麗に元通りになってしまった。

 これが魔法というやつか。凄い便利……!

 津軽さんに「凄いね」と言うと「魔術の初歩も初歩よ」と若干呆れながら言われてしまったが、なんにしても凄い。

 嗣深も「ほえー」とか間抜けな声を出してそれを眺めていたので、元の世界ではあんまり見た事が無いのだろうか?

 ともあれ、解決したみたいなので、僕達は再度居間へと戻ることとする。




「まぁでも、タイミングが良かったわね」

 全員で改めてほりごたつに戻ったら、津軽さんは開口一番にそんなことを言った。

「何が?」

「アンタ達が思考から意図的に外してた解決策が提示できたでしょ?」

 その言葉に僕は口を噤み、嗣深もまた、先ほどの混乱から立ち直れていないままなのもあって、何とも言えない顔で津軽さんを見る。

「佐藤くんは、虎に来て欲しいのよね?」

「うん。多分、虎次郎くんがもし居てくれたら、全部どうにかしてくれる気がしてるからね」

 津軽さんの言葉にそう返すが、普段なら乗ってくれそうな嗣深は少し沈んだ顔で首を振った。

「えりにゃんは、つまり、本人を受け入れる土壌を作るために、虎次郎くんを殺せって、言いたいんでしょ?」

「正解。まぁでも、殺せとは言わないわよ? 元々いないはずの偽者が消えるだけなんだから。でも、手っ取り早いのは間違いない。そうでしょ?」

 その言葉に、僕も嗣深も黙り込む。

 確かに、宇迦之さんがこの世界に固執している理由は、自分にべた惚れっぽい虎次郎くんがいるからで、それを消してしまうだけでも固執する理由は失せるし、それによって本人が降臨でもしたら、虎次郎くんからも説得してもらえば説得も容易だろう。

 ただ、それはなんというか、倫理観的にどうなんだろうか。

 偽者だろうと、人間だ。少なくとも、今ここにいる僕もお父さんも、偽者ではあるけれど、人間であるように、あの偽者の虎次郎くんだって、偽者だとしても、生きているのは間違いないのだ。

 虎次郎くんを消すことを認めるということは、つまり、自分達の存在そのものを否定するのと同じ。

 ……正直な話、僕だけなら別に良い。

 でも、お父さんはダメだ。

 僕はともかく、お父さんが今消えてしまったら、嗣深は落ち込むだろう。

 それと同じように、あの虎次郎くんが消えたら、宇迦之さんは絶対に悲しむ。

 それに、少なくともあの虎次郎くんにはなんの怨みも無いのだ。それを殺すなんて、やはりダメだ。

 大体、仮に殺すとして、どうやって殺すというのか。

 虎次郎くんは確実に強い。それこそ、さっきのあのユウマくんとかいう噛ませ犬っぽい人とは違って。

 実際に戦っているところを見た訳では無いけれど、虎次郎くんという存在は、最強・・なのだと、僕の何かがそう言っている。

 津軽さんも強いのだろうけれど、実際に殺せるのかと言えば、NOだろう。

「もし、私にあの虎が倒せないと思ってるようだったら、訂正しておいて欲しいのだけれど。本物ならともかく、あの偽者相手なら、殺し方は私がわかってるから殺せるわよ。だから、やってほしいっていうなら、やってあげても良いんだけど?」

「NOだよ。答えはノー一択だ。襲われたとかならまだしも、何もされてないのに殺すなんて、ダメに決まってるじゃないか。さっきの人みたいなのはともかくとして」

「哀れ悠馬くん……」

 ぼそりと嗣深が何か言っているが気にしない。

「良いのね? 本物が助けに来てくれるかもしれないのよ? アレを消せば」

 その言葉に、少し逡巡するも「くどいよ」となんとか言い返すと、津軽さんは「あっそう」と言ってつまらさなそうな顔で溜め息を吐いた。

「佐藤くん。私ね、アンタのそういうところは結構嫌いよ」

「僕は津軽さんのこと、結構好きだよ?」

「あらそう。ありがと」

「どういたしまして」

「皮肉なんだけど?」

「僕もだよ?」

「「……」」

 微妙に飛び散る火花。

 若干険悪になる僕と津軽さんの間に、嗣深が手を振って割り入る。

「ストップストップ。二人とも、けんか腰はいくないよ!」

「「喧嘩なんてしない(わ)よ?」」

「わーお変なところで息ぴったり」

 嗣深のお陰で、ちょっと頭に血が上りかけていたのが降りたのを感じて、内心で嗣深に感謝しつつ、咳払い。

「ともかく、まぁ、僕達偽者――幻想体とでも言えば良いのかな。幻想体の虎次郎くんを消せば本人が助けに来てくれるかもしれないとはいえ、人殺しは基本的に避けて欲しいよ」

「理由は?」

「倫理的に」

「その倫理は、なんのための?」

「なんのためのって――」

 なんのために?

「ねぇ、倫理観って、人によると思うのよね。私が思うに、大事な人間のためならば、世間一般の倫理観なんて捨てられるのが、世間一般の人様の倫理観だと思うのよね、私」

「それは、エゴって奴じゃないかな」

 捨ててはいけないのが倫理観で。

 それを捨てたら、人は人ではなくなってしまうものだから。

「えぇ。人間なんてエゴの塊だと思うわ。私も、アンタも。ねぇ。教えてくれるかしら。

 アンタのエゴは、大事な人間を犠牲にするかもしれないとしても、張り続けるべきものなのかしら」

 まるで獲物をいたぶるチェシャ猫のように。

 楽しげに、けれどどこか腹立たしげにそう言った津軽さんに、僕は今度こそ、何も言えずに、口を噤むのであった。



 皆様、明けましておめで――まだ早かった。明日ですね。はい。

 えー、六年弱ぶりの復帰から、日刊にしようと思っていたけれど、モチベーションの低下により完全な日刊とは行かない感じになってしまっている訳でございますが、ここ数話にわたって、なんと話の中において一日が終わっていないとかいう状態ではございますが、物語の根幹部分は大体ばら撒けたので、早足気味になるかもしれませんが、年明けにはもう少し話の展開が速くなるかも、しれません?

 燃料ポイント燃料かんそうがあると、執筆意欲が湧いてまた日刊や一日2更新とかいう奇跡ミラクルが起きる時があるかもしれません。


「知ってる? 奇跡ってね。起こらないから奇跡って言うのよ」


 彼女はとても良い笑顔でそう言った。

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