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▼47.家路

 車は神社の前のほうでぶっ壊れたまま放置されているそうなので、僕達は神生会からの手配が消えたことで安心して使えるようになった交通機関を遠慮なく使うことにして、電車で家の近くまで移動した。

 元々が人の少ない田舎だからあまり差は分からないけれど、それでもやはり、町中を歩く人々の数は減っているように思えたし、個人商店なども殆どが閉まっているのを確認できたが、電車やバスはまだ止まっていないのが救いである。

 元々本数が全然無いとはいえ、それでも一切無くなってしまっていたら、今みたいに車が無い状態になってしまった時にどうしようも無くなるので。

 家の近所に来て思ったけれど、ここもやはり、人の気配がかなり少なくなっている。

 駅から家に向かうまでの間にある、夜だけやっている居酒屋みたいなところも、普段は犬が騒がしいのだけれど、それも無くなっているし、同じく途中にあったはずの個人商店もシャッターが下りたままだ。

 年末になってきたとはいえ、まだ大晦日でも無いので、いつもなら開いていた筈なのに。

「なんだか、いつも以上に寂しくなっちゃったね」

 ぽつりと僕が呟くと、お父さんが「そうだね」と返しながらも、周囲の警戒を怠らずに、いつでも懐から拳銃を抜き出せるようにしているのが分かる。

 このなんでもない道が、今ではもう警戒しないといけないような場所となってしまっていることが、少し悲しい。

 お父さんの背中には嗣深が背負われているけれど、結局喫茶店から出てここまで、一度も嗣深は起きておらず、お陰で空気はどこか重たいままだ。

「そういえば、津軽さんて、何処に住んでたの?」

 そんな空気が嫌で、隣を歩いている津軽さんにそう問いかけると、津軽さんはちらりとこちらを見てから「家よ」と返す。

 うん、まぁ、そうだよね。家に住んでるよね。そりゃあね?

「もしかして、会話したくない系?」

「少なくとも、偽者のアンタとはさほど親しくしたいとは思わないわね?」

「そっかぁ……」

 まぁ、偽者だものね。仕方ない。

 仕方ないのだけれど、そうハッキリ言われるとそれはそれで傷つくよね、と内心で思いながらも苦笑する。

「偽者だとしても、私たちはここにいるんだ。あまりそう邪険にしないでくれると嬉しいね」

 そんな僕達の様子を見て、見かねたのかお父さんがそう言うと、津軽さんは溜め息を吐いて肩を竦めた。

「オーケー、そうね。まぁ雑談くらいならしてあげるわよ」

 その言葉の割に、あまりこちらと関わりたくないという様子の津軽さんに「家の人って、どうなの?」と問うと、とても面倒くさそうな顔をされる。

 なんだろう。嗣深に対しては割とデレてるっぽいのに、僕に対しての態度が雑すぎませんかね……?

「どうってのは?」

「いや、その、嗣深と津軽さんの話しぶりからして、家の人、いないんでしょ?」

「そうね」

「なんていうか、その、なんでいないのかな、って思って」

「別に、必要無いのだから造る必要も無いでしょ? 所詮、偽者なんだし」

 サラッとなんでもないことのように言うけれど、じゃあ津軽さん、今まで一人暮らしだったのか。

 中学生で一人暮らしって、割と大変な気がするのだけれど……。

 そんな考えが顔に出ていたのか、津軽さんは「別にこのくらいの歳で一人暮らしみたいな生活なんてよくある話よ」と言って顔を逸らした。

 そんなもんなのか、と思ったが、確かにうちも今でこそお父さんがつきっきりで居てくれるけれど、普段はいない時も多いので、中学生になるのと同時に嗣深が来るまでは実質一人暮らしみたいなもんだった。

 ……?

 そこまで考えて、首を傾げる。

 違う。嗣深が来たのは、確か中学に上がって半ば……いや、違う。二年生になってからか。

 何故か、記憶がずれているような……嗣深が言っていたのはこの事か?

 あれ、ちょっと待った。それなら、何で嗣深が、早苗さんが死んでると思う、などと言ったんだ?

 嗣深がお母さんが死んだのが契機となって、この世界に来たんじゃなかったか。

 だとしたら、早苗さんの元の世界のことなんて、知るはずが無いじゃないか。

 嗣深の記憶の齟齬だとすると、そもそもどこからどこまでの記憶が正しくて、どこからどこまでが間違っているのか。それ次第では、僕が自分の記憶として認識しているものでさえかなり怪しくなってくるのだが……。

「……ねぇ、アンタはさ」

「はい?」

 考え込んでいたら、津軽さんに声をかけられてそちらを見ると、目を細めてこちらの顔を覗き込んでいた。

「自分が偽者だってことに対して、思うところは無いわけ?」

「うーん……真面目な顔で真面目な話をされましても、正直なところ、偽者ならば仕方ないとしか思えないのだけれど」

 何かおかしかろうか、と首を傾げながらそう言うと、津軽さんは大きく溜め息を吐いた。

「そこに疑問をはさんだりする余地は? アンタのパパもだけど、あっさりとその事実を認めすぎじゃない? 信じられないとか、嗣深の作り話だって考えたりはしないの?」

「いやー……もうここまで状況証拠も揃ってるし、言われてみるとこう、納得できるところもあるというか……」

 他の人がどうかは知らないけれど、僕としては自分が偽者でもまぁかまわないかな、という次第である。

 ね、とお父さんのほうを見ると、お父さんも苦笑しながら「そうだね。偽者だろうが本物だろうが、大事な子供達を守れるならなんでも良いさ」と言ってのけた。イケメン。

「私が普通云々言うのもなんだけど、大概アンタ等、おかしいわよ」

 溜め息混じりにそういう津軽さんだが、なんというか苛立たしげにというよりは、少し寂しそうに見えた。

 ……何か、大事な事を考えていたような。

 津軽さんの寂しそうな顔を見ていたら、先ほどまで考えていた筈の事が頭から抜けてしまっていたけれど、きっと忘れてしまうようなら、その程度の事だったのだろう。

 少し違和感を感じながら、家へと到着したので、鍵を開けて全員で家へと上がる。

 少しだけ散らかっている玄関を越えて、居間まで来たところで、嗣深が起きるまではひとまず自由時間ということになって、家からは出ないようにだけ言付けされたので、大人しく全員で二階へと上がって、僕は自分の部屋へと入った。

 嗣深はお父さんが嗣深の部屋の布団に寝させてくれたが、津軽さんがそのまま起きるまでついているとのことで、お父さんだけ一階の書斎へと降りて行ったため、隣の部屋からは二人の気配がしている。

 尚、本当はそんな気配とか察知する能力は無いので適当な事を言っているだけだ。

 そんなどうでもいいことを考えながら、布団へとダイブした。


 ――家の中は、家捜しされた割には大分綺麗なままだった。


 昨夜にあんなドタバタ騒動があったことなどすっかり忘れてしまいそうになるほどにいつもどおりの家の中を見たせいで、緊張の糸が切れたのか、布団に横になったら、そのまま意識が途絶えそうになる。

 一応、ずっと起きていたお父さんとは違って多少は寝れたのだが、やはり家まで戻ると安心感が段違いだ。

 まして、一番の懸念だった神生会との敵対はこれでおさまったと考えて良さそうだし、なんというか、このまま寝たらぐっすりと丸一日くらいなら寝れてしまう自信がある。

 だから、寝ないようにしようと思いつつも、段々と瞼が落ちていく。

 嗣深がいつ起きるかも分からないし、起きていないと、と思っても。

 眠気には逆らえなくて、気付けば僕の意識は落ちていくのだった。

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