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▼42.同盟

 もうすぐこの小説も4万ユニークPVです! やったぜ!

 ……まぁ、内38,000以上は六年前までになっていた分なんですけどね!

 あのままちゃんと続けてられてたら良かったんですけどねぇ……(しみじみ)

 今日は完全に空が晴れ渡ったまま、その空を、文字通り空を跳躍しながらこちらへと跳んでくる誰か(ほぼ間違いなく津軽さん)の姿が窓の向こうから見えて、間抜けにも口を開けたままその姿に見入ってしまった。

 赤いコートが風でひるがえり、墨のように真っ黒な髪が乱雑にならない程度にふわふわと風に流れている。

 何アレ。凄い楽しそう。

 夢の中でたまにああいう、ピョンピョンと跳ねながら移動する夢を見たりすることがあるけれど、それを実際にやるとああなるのだな、と実感させてくれる様子にうらやましさを感じていたら、窓のすぐ外にもう到着したジト目の津軽さんが窓をコンコンと叩いてきたので、慌てて窓を開ける。

「いらっしゃい。津軽さん。本当に速かったね……」

 電話を終えて、実に十分足らずである。津軽さんの家の住所がどこか分からないけれど、それにしたって速い。

「おはよう、で良いのかしらね。それともお邪魔しますかしら? まぁ、どっちでも良いけど、とりあえずあがらせてもらうわよ」

「あっと、ごめんね。退くよ」

 慌てて道を譲ると、津軽さんはどこか優雅な感じにふわりと入室してそのまま歩き出した。

 その様子を見ていたお父さんと嗣深が挨拶をするのに合わせて、津軽さんは手をひらひらさせて返し、適当な机の上に座る。

「改めておはよう。それで、詳しい話を聞かせてもらえるかしら? どうして出て行きたいのかと、私に何をして欲しいのかを」

 艶然えんぜんと微笑みながらそう言う津軽さんに、僕は頷く。

「簡単に言うと、嗣深を現実世界に逃がしたいんだ。そのために、どうすれば現実世界に帰れるのかを、教えてほしい」

「どうして逃がしたいのかしら。ここは嫌?」

「だって、危ないじゃない?」

「何が? 割と平和な世界だと思うけど」

 どこをどう見たら平和な世界に思えるのか、というツッコミが出そうだったが、飲み込む。

「行方不明事件とか神生会もそうだけど、宇迦之さんに命を狙われてる」

「……へぇ?」

 僕の答えに、津軽さんは目を細める。

「あのウッカリ狐が誰の命を狙ってるのかしら?」

「僕と、嗣深。お父さんもかもしれないけど」

「へぇ……あいつがね」

 どこか面白そうにそう呟いて、津軽さんはどこから出したのか、銀色に輝く刀のような物を座っている机に突き刺した。

「ねぇ、この剣に見覚えある?」

「……刀? 特に、無いと思うけど」

「あら、そうなの? おかしいわね。貴方を一回殺しかけた剣なのだけれど」

 もしかして、意識が朦朧としていたから覚えてないのかしら、と嘲笑う津軽さんに、思考が停止する。

「え、えりにゃん……もしかして、あの日、つぐにゃんの腕へし折った剣がそれってことは、あの日の人って……」

「正解。私よ? というか、逆に貴方達知ってて今日声をかけてきたのかと思ってたのだけれど」

「いや、待って、あの日イズ何時いつ?」

 勝手にお互い分かってるかのように嗣深と津軽さんが会話し始めたのを見て、僕はストップをかけると、マジで言ってるのか、みたいな顔を向けられた。

「つぐにゃん、あの日だよ。ほら、つぐにゃんが夜中に急に家で襲われて、腕へし折られた日!」

「……?」

「え。真面目に覚えてないのアンタ。ほら、あのウッカリ狐がアンタを庇った日よ?」

 ……あぁ! 思い出した。

「山登りした日の夜か!」

「その日!」

 思い出した。そんな事もあったっけ。当初は夢だとばかり思っていただけに、完全に忘れていた。

「あったねぇ……」

「嘘でしょアンタ。あんだけ甚振いたぶられて覚えてないとか……」

 唖然とした顔をする津軽さんだが、当初は夢だったとばかり思っていたのだから仕方あるまい。

「まぁ、それは過ぎたことだし、良いでしょ?」

「「良いの!?」」

 嗣深と津軽さんの両方に滅茶苦茶驚かれて、逆にこちらが驚く。

「え、だってもう終わったことだし、それ以降特に何もされてないよね? 僕」

「いや、無理やり記憶覗いたりしたわよ、私……え、まさかそれまで覚えてないの、アンタ」

「いや、それはまぁ僕も悪かったというか、お陰で大事なこと思い出せたし、むしろありがとう的な?」

 マジで言ってるのかみたいな顔を津軽さんにされたが、マジで言ってるのだが。

「二人とも、義嗣が良いと言ってるんだし、良いんじゃないかな?」

 そこにお父さんが助け舟を出してくれたので、それに乗ることにする。

 このままでは話が進まない。

「お父さんもそれで良いの……?」

「良いも何も、本人がそう言ってるのなら、良いだろう? それにお父さんが何か言ったところで、過ぎたことだしね」

 流石はお父さん。大人の対応である。

 嗣深が「えええ、そっかぁ。あれ普通は受け流して良い問題なのかぁ……」

 と頭を抱えて、津軽さんに「いや、アンタが正しいわよ。むしろアレを過ぎたことで済ませられるコイツ等がおかしいのよ」と慰めているが、なんでだ。

 とりあえず、咳払いをして、話を戻す。

「とりあえず、それは良いとして、その剣がどうしたの?」

「あぁいや……なんか、どうでも良いこと扱いされた後で言うのもなんだけど、私、アンタを殺そうとした事もあるわけだけど、それを知っても助けを求めるわけ? ハッキリ言って、今から殺されるかもしれないとか、思わないの?」

「思うも思わないも、殺す気だったら多分、僕は当の昔に殺されてるでしょ?」

 最初に襲われたという日の事だって、なんか腕へし折られたような覚えはあるけれど、殺す気だったら鈍器とか見値打ちとかじゃなくて、普通に首を掻っ切るなりすれば一撃だった事だろう。

 宇迦之さんと同程度の剣の使い手なのかは知らないけど、同程度だったとしたら、あの速度で剣を振られたら僕は知覚する間もなく死んでいる筈だし、今までにも何度もそういったチャンスはあった筈だ。

「……まぁ、うん。アンタは元からそうだったわね。久しぶりだったからちょっと混乱したわ……良いわ。それで、まぁじゃあこの剣の事はもう良いわ」

 津軽さんがポン、と柄頭の部分を叩くと、剣はまるで元からそこに無かったかのように消えて無くなった。

 結局なんだったのかよくわからないが、まぁ納得したのなら良いだろう。

 なんか、嗣深が頭を抱えて「他人から見るとああ見えるんだ……わたしも気をつけないと」とか呟いているが、君も僕に似てる以上は結構同じような思考になることもあるだろうから、気をつけたまえ。

 まぁ、本当に何がどうして二人がこんなに疲れているのか分からないけれど。

「じゃあまぁ、話を戻すわね。私、ハッキリ言えばアンタ達の敵みたいな立場だと思うんだけど。素直に教えてあげると思ってるの?」

「敵ではないと僕は思ってるんだけど」

「どうしてかしら? 殺されかけたのに」

「殺されかけただけで殺されてないし、そもそも、僕をこの世界に作ったのって、津軽さんじゃない?」

 言った瞬間、津軽さんは口をパクパクさせた後に、頭を掻いた。

「どうしてそう思ったの?」

「色々あるけど、まず、この世界の早苗さんって、津軽さんが作り出したんだよね?」

 無言でこちらを睨む津軽さん。

 うん、無言は頷いてるのと同じだよ?

「で、早苗さんって僕の事好きでしょ?」

「……アンタ、自分で言ってて自意識過剰だと思わないの?」

「思わなくは無い!」

 実際にそうなのかとか確信があるのかと言えば、実は微妙だったりするけれど。

「でも、そうなんでしょ?」

「……プライバシーの侵害になるから、私からは何とも言えないわね」

 それは答えを言っているようなものだと思う。

「で、僕も早苗さんの事が好きです。多分だけど、ライクじゃなくてラブな方で」

 恋愛とかそういうのよくわからんのだけれど、早苗さんが死んでると嗣深から聞いた時に割と頭の中が真っ白になりかけたりしたあたり、多分、ラブなんだと思う。

「津軽さんって、自分の大事な人が幸せになってるのを、眺めるのが好きとか、そういうタイプなんじゃない? 僕は割とそっちのタイプなんで、気持ちは分かるのだけれど、どう?」

 嗣深が「つぐにゃん。ぶっちゃけたね……」と遠い目をしているけれど、事実なのだから仕方ない。隠すようなことでもない。

 津軽さんはうつむいたまま暫く目を瞑っていたけれど、両手を挙げて降参した。

「おおむね正解ってことにしてあげる。ただ、早苗は、アンタというよりは、アンタと付き合ってアンタのパパを自分のパパにしたいって感じだったみたいだけどね」

 なにそれ普通に悲しい。

 聞きたくなかった事実に膝から崩れ落ちた。

 嗣深が「うわぁ……」って顔をして、お父さんが「あー……」と呟きながら僕から目を逸らす。

 もしかして二人とも、気付かれておりましたか、そうですか。

「欝だ死のう」

「早まらないでぇ!?」

「嫌だあぁ! 僕は死ぬんだぁぁ!」

 ドヤ顔で「早苗さんって僕の事好きでしょ?」とか自意識過剰な事を言った数秒前の僕を全力で殴りたい。

 殴ってから一緒に屋上から飛び降りて死にたい。

 恥ずかしすぎて死ねる。

 むしろ、今からでも死ぬべきでは?

 よし、死のう。

「義嗣、落ち着きなさい」

「落ち着きました」

 お父さんの命令では仕方ないな!

「それで本当に落ち着けるのね……」

 気持ち悪い物を見るような目で津軽さんがこっちを見てくるが、お父さんの言葉は絶対なのである。

「うん。後でお父さんと一緒にお話しような。それまでは我慢してくれるかい、義嗣。話が進まないからね」

「超我慢する」

 というか、せっかくお父さんが話を進めやすいように黙ってくれてるので、僕も極力落ち着こう。

「オーケー落ち着いた。さぁ、話を進めようか」

「話が途切れてるのは大体アンタのせいな気がするんだけど……」

「話を! 進めようか!」

「義嗣、声を抑えて」

「話を進めようぜ――っ」

 津軽さんからも嗣深からも微妙な視線を頂いておりますが、僕はめげません。

 そんな僕の考えが伝わったのか、津軽さんが大きく溜め息を吐いてから、脚を組んで、組んだ膝の上にひじを置いて、頬杖をついた。

「まぁ良いわ。なんかもう疲れたから、出て行く方法を知りたいのよね?」

「うん。そうなのだよ」

「生憎と、私は知らないわよ。所詮は私も誘われてやってきた来訪者に過ぎないし」

 だから、期待してるような情報は持ってないわ、と言う津軽さんに、僕は首を振る。

「別に、出て行き方そのものは知らなくても構わないよ。ただ、それを知ってる人に会わせて貰う事は出来る?」

 或いは、その人に代わりに訊いてもらえるかしてくれるとうれしいんだけど、と言うと、津軽さんは胡乱気な目でこちらを見た。

「それ、私に何か得があるのかしら?」

「あるでしょ? 嗣深がここから居なくなると、僕もお父さんも、多分津軽さんが望んだ、早苗さんのための僕達になるから、少なくとも早苗さんが寂しい思いをしなくなるんじゃない?」

 どう? と僕が微笑んで言ったら、津軽さんが大きく溜め息を吐いた。

「さっきはおおむね正解って言ったけど」

 おぉっとこれは僕が大ダメージ喰らいそうな予感。

「アンタを望んだのは、私じゃないわ。イノシシのほう」

 ドヤ顔で推理を披露した先ほどの僕をぶん殴りたい。

「私はね、正直、アンタがいなければあの子と触れ合える時間が増やせるし、あの母親もいなければ、依存対象を私に出来るから楽だなって思ってたんだけど。あのイノシシまでこっちの世界に来たせいで、早苗が望んでた物を可能な限り再現しちゃった形なのよね。

 あの子が望んでたのは、自分の母親がアンタの父親と再婚して、あの子の理想の父親像であるアンタのお父さんに甘えながら、アンタを弟みたいに甘やかしてベタベタする事が正解ね。まぁ、コレも正確にはイノシシが想像したあの子の理想なんだけど」

 だから、正しいところは私も知らないわよ、と言うと津軽さんは膝をついたままの僕から目を逸らした。

 最後の、正しいところは知らない、で慰めてるんだろうけれど、あまり慰めになりません、先生……。

 えぇぇ、それじゃあ何。僕ってばもしかして異性としてすら見られてなかったの?

 弟なら実の弟がいるじゃん、早苗さん。小学生の可愛いさかりの弟がいるじゃん!

 ふわあああ、死にたい。

 と思ったらお父さんが優しい目でこちらを見ていたので、後でお父さんに泣き付くことでそのへんは整理することにして、今は一旦置いておくことにする。

「ねぇねぇ、えりにゃん」

「……なぁに? 嗣深」

「それじゃあ、この世界から出る必要は無いから、この世界を平和にするために手を貸してくれない? それなら、えりにゃんにとっても悪い話じゃないでしょ?」

 と、そこで嗣深が津軽さんに話を持ち出したので、今度は僕が黙っておくことにする。

 ついでにお父さんのもとへと移動して、抱きついておく。

 うごごごご。死にたい。

「それなら、まぁ確かに私の利益になるには、なるわね」

「でしょ? さっちゃんと幸せにすごしたいなら、やっぱり今の不安定なこの世界のままじゃ安心できないもんね?」

「まぁ、それはね……あんな魚人モドキがいるなんて聞いてなかったし、明らかに人間が減ってきてるし……」

「うん。そこで私からは、完全な味方にはなれなくても、同盟的なものとして、私達で組むというのはどうかなと思うよ!」

「同盟、ねぇ……」

 津軽さんが、嗣深と僕とお父さんを何回か眺めた後に、お父さんに視線を合わせる。

「戦力が嗣深のパパくらいしかいない上に、情報もろくに持ってないし、その戦力も、通常戦力じゃ、あんまり役にたたなさそうなんだけど?

 しかも、アンタ達、あのウッカリ狐と敵対したでしょ? 余計に何の役に立つのかわからないんだけど?」

 大変ご尤もな話です。

 やはりダメかな、と思ったら、嗣深が身を乗り出して津軽さんの手をとった。

「今なら私がついてくるよ?」

「……それが、なんの利益になると?」

「えりにゃん、女の子好きでしょ?」

 ピクリ、と津軽さんが反応する。

 え、待って。何ソレ聞いてない。

 唐突に降って湧いた津軽さん同性愛説に混乱していたら、嗣深が津軽さんの手をとって、自分の頬を撫でるように動かすと、そのまましな垂れかかった。

「わたしのこと、好きにして良いよ?」

「同盟受けるわ」

 とても目を輝かせてあっさりと陥落した津軽さんに、僕は唖然とするのであった。

 ……僕、自爆しかしてない上に、結局なんの役にも立っていないのでは、と。

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